2018春季総合特集Ⅲ(2)/top interview クラボウ/スマート工場実現に取り組む/社長 藤田 晴哉 氏/グローバル生産管理の仕組みも

2018年04月25日 (水曜日)

 クラボウにとって2018年3月期は、現行の中期経営計画の2年目だった。同期は、3期連続の連結営業増益となりそうだが、増益幅が「若干」なため、「成長性ということでは不満足だ」と藤田晴哉社長は語る。ただ、定性的な面では着実に前へ歩んでいる。3月9日に創立130周年を迎えたことを機に同社は、「面白いこと やってやろう」というメッセージを発した。社員には、「もっと難しいことに面白がりながらチャレンジしてほしい」と呼び掛けつつ、中計最終年度に挑む。

  ――第4次産業革命が進行しつつあるとされますが、実感はありますか。

 経済産業省が昨年、「コネクテッドインダストリーズ」というレポートを発表して以降、世の中がそこに向かって一気に動き出したように思います。産業革命という言い方はそぐわないと思っていますが、AI(人工知能)、モノをインターネットにつなぐIoTを駆使して技術イノベーションを起こすことに各社が取り組み、それでビジネスモデルを作り始めていることは間違いありません。大きく世の中が変り始めています。産業の仕組み、ビジネスモデル、モノの作り方など、いろいろなことが変わっていくと思います。

 当社について言えば、安城工場(愛知県安城市)に新設した「テキスタイルイノベーションセンター」が、商品開発だけでなく、スマートファクトリーの実現に向けた技術開発、グローバル生産管理システムの構築にも取り組みます。その結果として、日本と海外の工場の技術格差を解消したり、日本からのオペレーションを可能にしたりできればと思っています。年配から若手、あるいは日本から海外への技術伝承、人材育成にもつながっていくでしょう。そういうことに取り組んでいかないと勝てないと思っています。

 2016年に完成した当社の徳島バイオマス発電所(徳島県阿南市)の発電効率は、気候、燃やすチップの形状や含んでいる水分、機械の汚れなどさまざまな条件に左右されます。理想的な条件で発電できればもっと売電できるはずです。そこで、当社の全社的研究拠点である技術研究所(大阪府寝屋川市)の知見で、必要な部分にセンサーを付けて、徳島の発電所の生データをリアルタイムで技術研究所に送り、同研究所のコンピューター上に仮想発電所を作りました。徳島の発電状況を、技術研究所でシミュレートできるようになっています。1年ほどかけて取り組み、実際に近い精度でシミュレートできるようになりました。

 このようなことがいろいろな分野で当然のことのように出始めています。それをどうビジネスモデル化するか。それを活用してどう生産効率を上げるかが重要です。

 繊維の分野でも、デジタル技術の活用は広がるでしょう。川上から川下までのサプライチェーン全体で、市場動向、在庫、生産状況などをリアルタイムで把握しながら、販売と生産をリンクさせるということが起こる。川下から川上までが情報を共有し、それぞれが適切に動くという時代が、そう遠くない将来にくると思います。そんな時代に、仮にリーダーシップを取れない場合でも、少なくとも対等な立場で話をできるような形にしておく必要があると思います。

  ――18年3月期の連結業績は。

 売上高はほぼ横ばいでしょう。営業利益は若干のプラスになる見込みです。3期連続の増益ということになりますが、プラスが若干ですので、成長性ということでは不満足な水準です。

 繊維事業は減収減益になる見込みです。ユニフォーム分野の好調が続き、カジュアル分野も前年度より若干良かったのですが、前年度まで良かった原糸販売が厳しかった。化成品事業は増収増益でしょう。ただ、原材料価格の上昇で、利益は期待した水準ではありません。環境メカトロニクス事業、食品・サービス事業も増収増益を見込んでいます。

  ――18年3月期は、中期経営計画の2年目でした。

 定量的にはまだ低水準ですが、定性的に見ると、中計達成に向けた具体的目標と実行計画を立案し、PDCA(プラン・ドゥ・チェック・アクト)サイクルで適切に進めるということがだいぶ定着してきました。新たなビジネスモデルへの取り組みも進んでいます。2年目まではまあまあだと思っています。しかし、中計で高い目標を掲げているので、もう少しスピード感が必要です。

  ――今期の繊維事業の課題は。

 スマート衣料「スマートフィット」、色落ちしにくいデニム「アクアティック」、裁断くずを資源として再活用する「ループラス」を、早急に軌道に乗せないといけません。

 ユニフォームについては、大阪を中心拠点として、東京、海外をうまくリンクさせて一体運営する方針です。その一環で、東京を強化するために東京支社の繊維営業部を分割してユニフォーム専任の部を設けました。

 原糸販売は、お客さまのニーズにどれだけこまめに対応できるかを地道に追求していきます。欧米向けのカジュアルも若干伸び悩んでいます。アクアティックだけでなく、さまざまな取り組みを行います。クラボウインターナショナルは、メーカー系商社として、いろいろな強みを活用して市場開拓を進めています。商品開発、縫製拠点の拡充を含め、クラボウの海外子会社、クラボウ本体との連携をより強化します。

  ――非繊維関連では。

 化成品事業について言えば、原材料を中心とするコストアップに自助努力だけで対応するのが難しくなっていることを御理解いただいて、製品価格に反映していく必要があります。

 それと、国内外の自動車関連で、設備増強投資を行います。その成果を出すことも課題です。

〈私の記念日/夫婦円満の秘訣〉

 1986年9月22日。仕事中の藤田さんに、義理の母親から「生まれた」との電話が。第一子である長女が誕生し、父になった。病院に駆けつけると、義理の母親と一緒に朝から詰めていた義理の父親が、「疲れた。寿司食べに行こう」と誘う。難産だった妻のそばにいたいと思いつつも30分で病院を後にし、祝杯。母になり強くなった奥さんは今も、その時のことを「ブツブツと言う」。でも、「夫婦円満の秘訣は嫁が強いことと、夫が謝ること」と藤田さん。その境地に至るきっかけになった日でもある。

〔略歴〕(ふじた・はるや) 1983年入社。群馬工場長、鴨方工場長、化成品業務部長などを経て2012年取締役執行役員企画室長、13年取締役常務執行役員企画室長、14年から社長。