ニューテクノロジー/エアバッグ用ノンコート基布を再生した高性能樹脂「エコクレリーフ」
2001年09月28日 (金曜日)
東洋紡 堅田繊維開発センター研究員:浅井治夫
ナイロン66エアバッグ基布市場で、ノンコートタイプを武器にシエアを拡大する東洋紡は先ごろ、同基布を再生し高性能樹脂化する技術を開発した。04年度に施行される「自動車リサイクル法案」(仮称)を踏まえ、部品再利用は自動車部品にとって、コストダウンとともに、最重点課題である。
『エコクレリーフ開発の背景』
繊維製品は自動車用途に意匠性の面から内装材として使われるだけでなく、事故などの衝突時に乗員を危険から守るシートベルトや、その働きを補助し衝撃を吸収するエアバッグなどの安全装置にも利用されています。
また、エンジニアリングプラスチックは外装・外板部品、エンジン部品などに多岐にわたり、コスト面・性能・高機能性を発揮する材料として不可欠となっています。これらの材料を改良し優れた部品を提供することは、繊維・樹脂製品を取り扱う総合化学メーカーの重要な役割です。
一方、昨年より「循環型社会形成推進基本法」を中心とした体系的な法整備が進められる中、これまで以上に合成樹脂製品の省資源化と再生利用は循環型社会の構築を進める上で、生産者(=企業)が取り組むべき課題として重要性を増してきました。我々はこれらの背景のもと、エンプラ事業部と共同で自動車資材の新たな再生利用を目指し、エアバッグ用基布端材を回収し高性能な成形材料樹脂に再生する一貫型リサイクルシステムの開発に着手しました。
『開発実現の2つのキーポイント』
エアバッグは力学・熱特性に優れたナイロン66が多く用いられています。また、素材に起因する強度特性に加えて衝突時の衝撃により膨張したバッグ通気度を制御する機能が求められます。我々はこれに対して高密度平織物を後加工(熱収縮処理)仕上げをすることでクリアしました。現在では国内で生産されるエアバッグの約半数に採用されています。
今回発表した「エコクレリーフ」開発実現のキーポイントの1つはノンコート基布であること、つまり通気度を抑制するための樹脂が基布表面にコートされていないことがあげられます。
2つ目のキーポイントは、エアバッグ裁断端材に混入する異素材を分別せずに直接ペレット化する技術にあります。運転席・助手席用エアバッグは基布をバッグ形状に裁断・縫製して製品としますが、バッグ形状を裁断した後の端材は総基布重量の約30%にもなります。
従来、この端材の多くは次のような理由から廃棄処分されていました。つまりエアバッグ形状をレーザー裁断機で数枚重ねて裁断する場合、端部の熱融着を防止するためにポリエチレンフィルムを挿入しますが、端材の再利用には基布と融着防止フィルムを素材別に回収する必要があり、作業負担・コストの面から混在したまま廃棄されるのが現状となっていました。
『エコクレリーフの性能』
我々は、ナイロン66とポリエチレンフィルムが混在した裁断端材を直接粉砕する技術とこれを原料とする改質コンパウンド技術の開発を進めました。コンパウンドによる改質にはエンプラ事業部が保有する技術から、変成剤・無機物・ガラス繊維などの配合により両素材の特徴を生かした高剛性・高弾性率・耐衝撃性を有する成形材料用ナイロン樹脂「エコクレリーフ」への再生を実現しました(表1)。
現在、エンジンカバーやエアバッグ収納用カバーなどの自動車部品のほか、自転車用ホイール、ショッピングカートなどの一般用途へも検討をしています。「エコクレリーフ」は裁断端材を利用することで原材料コストが抑えられ、またリサイクル製品のコスト上昇の要因である分別回収費用も低減できることから今後は幅広い市場への展開も視野に入れていきます。
『今後の取り組み』
廃車の不法投棄問題も併せて国土交通省と経済産業省は04年度に「自動車リサイクル法案」(仮称)施行することで合意しています。今後、拡大生産者責任の観点からもより細かな部品・素材への再利用が求められます。我々は今回の知見を生かし繊維・プラスチック製品の回収・再生利用がより促進されるような技術開発に取り組み、自動車用資材の生産者として新たな役割を担っていきたいと考えています。