スクールユニフォーム(1)/制服が学校の魅力を高める

2018年05月29日 (火曜日)

 2018年のスクールユニフォーム市場は、文部科学省「学校基本調査」によれば、中高の入学者数が前年より約6万人も減り、モデルチェンジ校も例年より少なかったことで、学生服メーカーにとって厳しい環境だった。今後も少子化が続く中で、これまでの単に制服を供給するというメーカーとしての役割に徹するだけでは、企業としての成長が難しくなってきた。「制服が学校の魅力を高める」――制服供給だけでなく、学校支援の側面を強めながら、新しいビジネスモデルの構築に臨む。

〈MC校、2000年代で最低に/今年は中高で162校〉

 ニッケの調査によると、今入学商戦での全国の中学校、高校の学生服モデルチェンジ(MC)校数は、前年より15校少ない162校だった。2000年代では12年の164校よりも少なく最低となった。MC校数は2000年代に入ってから300校を超える年もあったが、10年以降は200校を下回る年も増えていた。今年は中学校が57校(前年70校)、高校が105校(同107校)で、特に中学校が減少した(9面参照)。

 都道府県別で見ると、東京都が最も多く25校(前年30校)、次いで大阪府が21校(同14校)と大都市部で集中する傾向が続く。10道府県でMC校数が前年より増えた一方で、MCが全くなかった県は前年の6県から今年は13県に増加。富山県、和歌山県、鳥取県、島根県、香川県は2年連続でMC校がなかった。

 MC校が例年より少ない理由として、全面的に制服をリニューアルする“フルモデルチェンジ”が減った分、制服の襟の形状など一部分だけの刷新や、デザインはそのままで素材のみを更新する“マイナーチェンジ”が増えていることがある。マイナーチェンジを含めれば、「例年と同じくらいの300校ほどになる」(衣料繊維事業本部ユニフォーム事業部の幾永詩木スクール販売部長)。

 ただ、小学校は制服のMCや新規採用が増える傾向で、ニッケによれば、前年の5校から今年は9校へ増加。学校によっては生徒の服装の格差に悩むケースが増えており、制服がなかった学校も採用を検討する動きが強まっている(「“服装の格差”に悩む学校」参照)。

 19年のMC校については「現時点では例年並みか、少し多い」(幾永部長)見通し。学生服メーカーのMC校獲得の動向を見ても、既に今年を上回るペースで獲得ができているメーカーもあり、増加する可能性が高い。

〈大手は私学中心にMC校確保/スクールスポーツも躍進〉

 学生服メーカーの大手の中でも菅公学生服(岡山市)、トンボ(同)、明石スクールユニフォームカンパニー(明石SUC、岡山県倉敷市)の3社は、都市部を中心に制服MC校の獲得が順調に進んだことに加え、スクールスポーツでの新規採用校を大きく伸ばした。

 新入生は前年に比べ6万人減少したものの、「私学は生徒が減っていない」(トンボの近藤知之社長)のが実情で、生徒数が多い都市部で販売を伸ばした。トンボはMC校獲得が前年より若干少ない程度。新入生の大幅な減少とともにMC校が全般的に少なく「厳しい年だったが、割合で見ると善戦できた」(谷本勝治執行役員)。納品やセミナーなど学校支援の姿勢が「評価を受け、例年に比べて喪失校も少ない」(同)結果につながった。

 菅公学生服も、「MC校そのものが全体的に少なめだったが、(獲得の)勝率は上がっている」(尾﨑茂社長)と堅調。学校支援の「ソリューション提案や、学校のニーズに応えられる商品力が充実してきた」(問田真司常務)と、大都市部でのMC校の新規獲得が進んだ。

 明石SUCも「思ったほど私学では生徒数が減らず、(MC獲得校で)想定していた数字よりは高く維持することができた」(柴田快三常務)。

 スポーツも一部スポーツ専業メーカーの事業縮小の影響で、学生服メーカーが躍進。明石SUCが「デサント」で過去最高となる200校超の新規採用校を獲得、ブランドが「市場に定着してきた」(河合秀文社長)ことが寄与した。トンボもウオームアップウエアに着想して開発した「ピストレ」の販売が、「ヨネックス」とともに堅調。3社は前期に続き、過去最高の売上高達成が見えてきた。

 一方で、瀧本(大阪府東大阪市)は、生徒減と全般的にMC校が少なかった影響が色濃く出たものの、営業と生産の両方で効率化と無駄の削減が進んだ。「商品の機能性やデザインなど価値は提案ができているが、それ以外の価値の提案も強化する」(高橋周作社長)と、消費者のニーズに応える姿勢を強めながら巻き返しを図る。

〈“服装の格差”に悩む学校〉

 小学校はまだまだ制服(標準服)を採用している学校が少ないが、私服の学校の一部で制服を導入しようとする動きが出てきた。一番の理由は、家庭の事情で服装にお金をかけられない生徒もいるためで、いじめの問題につながることを懸念することがある。

 2017年の新入生から制服を新たに導入した京都教育大学附属桃山小学校(京都市)も、そのような悩みを抱えていた。制服は年間を通して半袖ポロシャツを着用するという新たなスタイルで、秋冬にはキャメル色のブレザーを着用。制服は一式で男女とも2万円前後となる。

 もちろん、これまで制服がなかっただけに、導入に反対の声もあった。しかし、保護者にアンケートを取り、分析して試算したところ、「私服にかかる費用の30分の1程度」に抑えられ、「今では反対の声は全く聞かれない」ほど好評と言う。

 少子化で市場が縮小する中、このような事例を基に、小学校だけでなく中高へも私服の学校に対し、改めて業界が一体となって制服の良さを訴えていくことも考える必要がありそうだ。

〈学校支援強める/喪失校、いかに抑えるか〉

 2019年の入学商戦は、入学者数が中高合わせて6千人ほど増える見通しで、MC需要は都市部を中心に依然として活発な動きを見せ、特に首都圏では獲得に向けた攻防が激しさを増す。

 昨年、名古屋の販売会社を支店化し、都市部での販売戦略を強めるトンボは、今年7月に東京支社を本社に格上げし、岡山本社との両本社制とする。「販売・企画の機能も東京本社に持たせることによって、関東での拡販を強化する」(近藤社長)のが狙いで、数年以内の関東での物流センター設置も計画する。

 制服更新だけでなく、学校支援を強化する動きも加速する。菅公学生服はソリューション提案の一環として、カンコー教育ソリューション研究協議会を通じた学校教育のサポート事業は現状、私学を中心に約20校と具体的な取り組みが進む。

 サポートを進める学校によっては改革で深く取り組む事例もできつつあり、学校のブランディングやキャリア教育など、事業内容に対する「確信を持ち始め、自信につながりつつある」(岩井聡開発本部副本部長)。今後は支援内容をより明確化するとともに、事業に携わる人材育成に力を入れる。

 瀧本は、来期からの新3カ年中期経営計画で「世の中の変化に対して、どういう切り口で入っていけるかを考えながら、さまざまな価値の強化を盛り込む」(高橋社長)方針。業界としては初めて、入学前にネット通販による制服供給を、来年の新入生から奈良市立一条高校(奈良市)で試みる。

 販売店の高齢化で廃業するケースが増えており、「生産から販売への垂直統合も一方で考えておかなくてはいけない」(高橋社長)と指摘。ただ、「細やかなフォローをしていくためには販売店の存在は今後も必要」との認識で、販売店とともに電子商取引(EC)を活用した新たなビジネスモデルを模索する。

 明石SUCは「明石SUCセーフティープロジェクト(ASP)」として、産学連携で防災関連の商品開発などに取り組み、全国の学校へ防災への啓発活動を推進。ASPに携わる社員が積極的に防災アドバイザー資格を取得するなど「取り組みを深化させる」(河合社長)ことで、メーカーとしての新たな役割を追求する。

 来入学商戦に向けてMC校の獲得が既に進む。全体的に学校数も減る中で、「既存の制服採用校を死守する」(トンボの谷本執行役員)ことがこれまで以上に重要になりつつある。菅公学生服は来年のMC校の獲得が順調に進むとともに、他社に制服採用校を奪われる喪失物件も「前年に比べ半分」(問田常務)と堅調。

 明石SUCも「喪失校は今年より少なく、獲得校が増える」(柴田常務)見通し。喪失校を出さないためにも、さまざまな支援を含めた学校との関係強化がますます重要になってくる。

〈根強い“制服が高い”の声/制服文化の良さ見直す〉

 今年2月、東京都中央区立泰明小学校でイタリアの高級ブランド「アルマーニ」がデザインを監修した制服(標準服)を採用したことが反響を呼んだ。一式8万円以上で、一般紙では公立の小学校にしては「高すぎる」という論調が目立ち、国会でも取り上げられ、大きな話題となった。

 泰明小学校は極端な例ではあるが、「制服の値段が高い」という声は、依然として根強く聞かれる。確かにスーツが1万円台で買える時代、一式3万~4万円かかる制服が高く見えるのは当然かもしれない。ただ、スーツの多くが海外生産であるのに対し、制服は4月の入学式に納品を間に合わせるため、圧倒的に国内生産が多いという事情は知られていない。

 海外と比較して、日本の学生服の値段がいかに高いかを事例として挙げるケースもある。ところが最近は外国人が日本の学生服の良さを理解しつつある。

 日本ユニフォームセンターは、急増する外国人観光客に日本のユニフォームのイメージを聞く初の意識調査を行ったところ、好きな制服の1位は男女ともに学生服だった。

 調査は昨年7月から8月までの約1カ月間、東京と大阪で実施し、アジアや欧米などからの外国人観光客300人が回答。印象に残ったユニフォームで最も多かったのは学生服で、10代、20代で支持する層が多かった。

 今年は岡山県倉敷市の児島地区で学生服製造が始まってちょうど100年となる。大正時代から戦前、戦後、そして現代へと紆余曲折がありながらも、日本に制服文化が根付いてきた。和を重んじる日本人と制服の相性が良かったこともあるが、メーカーが時代の流れに素材や商品開発で、制服そのものを進化させてきたことがある。

 機能性や安全性など長い目で見れば、結果的に「制服で良かった」と思える商品開発に、メーカー各社は日々取り組んできた。次の100年に向けても業界として、もっと制服の価値を訴えていく必要がある。

〈学生服を着て倉敷観光!/認知度高める新たなサービス〉

 明石SUCはこのほど、直営販売店「プラザA倉敷店」(倉敷市)で、国内外からの観光客向けに、学生服などのレンタルを始めた。同店舗が観光名所の倉敷美観地区に近い立地を生かし、観光と学生服を結び付けた新たなPR活動に取り組む。

 同社は5月12、13日、外国人留学生を対象に、学生服の体験型イベントを開催。留学生が学生服の歴史などを学び、実際に詰め襟服やセーラー服を着て美観地区を巡るなど、学生服への理解を深めた。

 イベントに参加した岡山大学大学院2年のテン・ボウさん(中国出身)は、「生地が上質で驚いた。とてもかわいい」と、初めて着る制服に感動した様子。その他にも、「スカートのポケットが便利」「着やすくて、かっこいい」など、学生服は高評価だった。お互いの制服姿を撮影し、SNSなどに投稿する場面も見られた。

 明石SUCは、「このような体験型イベントを通じて、学生服が注目されるきっかけになれば」と、今後も倉敷から学生服の認知を高める。