不織布新書18 ANEX2018開催記念号(2)

2018年06月05日 (火曜日)

〈東レ/さらに広がるフィールド/滋賀のSB開発機も稼働〉

 東レはポリエステル(PET)、ポリプロピレン(PP)、といった汎用繊維からポリフェニレンサルファイド(PPS)といった特殊繊維まで幅広い素材を有し、長繊維不織布だけでなく短繊維不織布まで幅広い分野を担ってきた。2017年には不織布事業部を立ち上げ、こうした強みを生かすことで不織布のフィールドをさらに広げることを目指す。その一翼を担う滋賀事業場のPPスパンボンド開発機も昨年10月から稼働を開始した。

 拡大が続いたスパンボンド(SB)事業は17年も順調だった。特に衛材向けPPSBは韓国、中国、インドネシアの世界3極での生産を生かしたストックオペレーション体制が寄与する。PETSB「アクスター」もフィルター用途で販売が拡大した。厚地での成形性の良さや集塵(じん)性、耐久性が評価されており、日本や米国市場だけでなく、環境規制が強化される中国でも販売が伸びている。

 一方、短繊維不織布分野も短繊維事業と連携しながら自動車用途でマイクロファイバーを使った新タイプ吸音材の開発が進むなど成果が上がり始めた。遮炎機能不織布「ガルフェン」も航空機シート材で採用に向けた性能評価が進んでおり、そのほか業務用家具用途への提案も行う。

 こうした業容の拡大は18年度も続く。PPSBは中国に東麗高新聚化〈仏山〉を設立したほか、インドでも20年4月に生産を開始するなどさらなるグローバル供給体制の整備が進む。競合する中国メーカーも増産体制を取っていることから、松下達不織布事業部長は「滋賀事業場の開発機を活用した商品の高度化・差別化も重要なテーマ」と話す。PETSBも新商品開発でランアップを拡充する。

 短繊維不織布分野は原綿のバリエーションを拡大しながら、複合繊維などはエアスルー不織布メーカーとの取り組みを強化する。ガルフェンやナノファイバー不織布など独自性のある商品の開発と用途開拓も進める。

 こうした取り組みを今回のANEXでも披露する。“さらに広がるフィールド”をテーマに衛材から工業資材まで幅広い用途の不織布を提案する。海外拠点の紹介なども行う。

〈ダイワボウポリテック/アライアンスも重視/ANEXはグループ出展〉

 ダイワボウポリテックの不織布関連事業は、スパンレース不織布(SL)、エアスルー不織布用の熱融着性複合繊維、エアスルー不織布ともに好調に推移している。

 SLは、数量ベースで40%のシェアを確保しているおしりふき向けが安定。フェースマスク、制汗シート、除菌シート向けが拡大している。

 ただ、SL市場の変化が早いため、「ニーズに対応するために今後は技術面、販売面での他社とのアライアンスも重視する」(大槻昌弘取締役)方針。

 エアスルー不織布用の熱融着性複合繊維への需要も拡大している。同社顧客の日本製紙おむつの販売が、越境ECを通じて中国で拡大していることなどが背景にある。

 このため、播磨工場(兵庫県播磨町)で増設し、同繊維年産能力を8千トン増の3万6千トンに拡大した。増設機の据え付けは4月に完了している。

 エアスルー不織布を製造するインドネシアの子会社、ダイワボウ・ノンウーブン・インドネシア(DNI)も好調。インドネシア国内の顧客への提案に力を入れた結果、それまでの主力の中国向けとインドネシア国内向けが、数量ベースで均衡するまでになった。アライアンスを深めている現地日系原綿メーカーが、「安全性を高めるための特殊繊維」をほぼ完成させており、同繊維を活用した不織布を今年中に投入。現地の日系顧客への販売をさらに拡大する。

 今回のANEXには、同社を含むタイワボウグループの繊維事業会社4社が共同出展する。同社は、高い液保持力と徐放性能を持つ3層構造不織布や、オーガニックコットン使いの不織布などを提案する。

〈ユニチカ/用途とバリューチェーン拡大/タスコの3号機が本格稼働〉

 ポリエステルスパンボンド(PETSB)大手の一角であり、コットンスパンレース(SL)などユニークな商品も有するユニチカ。PETSBはタイ子会社のタスコで3号機も本格稼働するなど、生産基盤の拡充も進む。今後はさらに川下戦略を推進することで、業容の拡大を目指す。

 タスコは2017年末ごろから3号機の稼働が本格化。既存の1号機、2号機を中心に不織布事業部の海外販売比率は40%を超えており、18年から19年にかけて3号機の生産量が加わることで、海外販売比率は50%超となる見通し。

 吉村哲也執行役員不織布事業部長は「今後も用途とバリューチェーンの拡大を進める」と話す。不織布は競争が激化していることから「さらなる高付加価値化が必要。それは新しい用途の開拓と川下戦略になる」と話す。原反販売だけでなく、中間加工など川下工程への参入などバリューチェーンを拡大することが必要となる。

 「付加価値を追求する領域と量的拡大を追求する領域の両方で戦う」ことを基本戦略として、岡崎事業所での多品種・小ロット生産とタスコの量産能力、汎用性のあるPETSBと特殊性のあるコットンSL、さらにポリエステル・ポリエチレンの2成分複合SB「エルベス」など独自性のある商品を持つことも強みとする。

 今回のANEXでは、こうした強みを用途ごとに打ち出し、新たな提案も紹介する。海外拠点の現地スタッフもブースに常駐して、海外からの来場者への対応にも万全を期するなど、不織布事業のグローバル展開の一段の契機とすることを目指す。

〈太閤TCFなど訴求/フタムラ化学〉

 ANEX初出展となるフタムラ化学(名古屋市中村区)は「太閤TCF」の細繊度(1・1デシテックス)タイプやスパンボンド不織布など他の不織布との複合品、活性炭繊維を使った脱臭シートや撥水(はっすい)性吸着シートを出品する。

 さらに開発中のセルロースの超極細繊維やショートカットファイバー、パウダーなども参考出品しながら、新規需要家の開拓にも結び付ける考え。

 太閤TCFはレーヨン100%製ノーバインダー不織布。(1)低目付品でも地合いが良い(2)縦・横の強度バランスがある(3)バインダーを使用しないレーヨン100%使いで環境にも優しい――などの特徴を持つ。制汗シートやフェースマスクなどに使われる。

〈金井重要工業/機能加工などで川下化/他社ができないものを〉

 短繊維不織布製造の金井重要工業(大阪市北区)は機能加工や中間加工まで手掛ける川下戦略を推進し、新市場開拓に取り組む。今回のANEXでもこの取り組みを打ち出し、不織布の可能性追求とニーズの掘り起こしを目指す。

 同社はケミカルボンド不織布、サーマルボンド不織布、ニードルパンチ不織布のほか、紡績部品のトラベラ、針布、メタリックワイヤなどを製造販売する。2017年度、不織布事業は好調に推移した。特に空調フィルター用の売り上げが拡大。編み地と競争が激化する自動車の天井材も横ばいを維持、スポンジたわしなど生活資材も比較的安定していた。

 ただ、空調フィルターは国内市場の縮小が見込まれ、自動車天井材も編み地との競争が一段と激しさを増す。それだけに「新用途や新市場開拓がより重要になる。そのため、不織布の機能化や中間加工まで手掛ける川下戦略を推進する」(安達隆久取締役不織布事業部長)。

 特に研磨材関連に力を入れる。不織布に多様な研磨剤を付与し、さまざまな性能を発揮できるが、同社は研磨材向けに特殊不織布をOEMで手掛ける。そこで培った技術やノウハウを応用する。17年度は既に需要家への提案を実施し、性能評価を得つつある。

 「こうした取り組みの成果を具体化させ、売り上げにつなげることが18年度の大きなテーマになる」。ANEXでは既存品に加えて、これらの取り組みも紹介する。ANEXに向けたプロジェクトチームを設け「不織布によって何ができるのか」「不織布でここまでできる」などを追求した展示構成とする。

 例えば、プリント基板の研磨に使う不織布や各種エアフィルター、有機繊維最高クラスの高耐熱不織布、炭素繊維を使い電磁波シールド材にもなるプリプレグ/スタンパブル成型基材などを出品。

 他社ができないものに力を入れる基本戦略を具体的に紹介することで、ユーザーの新しいニーズを掘り起こし、それを不織布で実現することを目指す。

〈江洲産業/不織布を変える加工/幅広い対応力が強み〉

 江洲産業(滋賀県長浜市)は産業資材用織物の製造や同織物の加工に加えて、不織布の加工も手掛ける。蚊帳製造からスタートした同社は1922年の創業で、4年後に100周年を迎える老舗企業でもある。

 不織布加工は受託が中心で、1987年に310センチの広幅テンター機を導入し、織物などの加工に加えて不織布にも参入した。広幅テンターにはそれぞれに3タイプの加工機が付き、抗菌・防カビ・撥水(はっすい)、難燃などの加工を行う。現在は織物も含めた加工の約半分を不織布が占めるなど重要性は高い。

 溶剤系の薬剤は扱わず、水系樹脂のみで、加工を施した不織布は自動車資材、土木資材、建材、医療資材、生活資材などに使用されている。

 ディッピング、グラビアコーティング、ナイフコーティングの加工機をそろえることから、機能薬剤をミクロン単位からキロ単位まで薄く、厚くと幅広く加工できる点も特徴。フレキソ印刷機も保有し、建材用などに活用する。昨今は「試作の問い合わせも増えている」など技術開発力の高さをうかがわせる。

 出展するANEXでは「加工によって不織布が変わることを発信したい」と井上昌洋社長は言う。ブースでは各種機能加工を紹介するとともに、不織布だけでなく、産業資材用織物も手掛ける特徴もアピールする考え。同社が扱う不織布はスパンボンド不織布(SB)が中心になるが、機能加工を施すことによって「モノが変わり、質が変わるので、活用してもらえるようになりたい。縁の下の力持ちがいることもアピールしたい」と意気込む。

〈髙木化学研究所/再生わたのパイオニア/高性能熱伝導樹脂も紹介〉

 髙木化学研究所(愛知県岡崎市)はペットボトル、フィルム屑などによる再生ポリエステル短繊維製造のパイオニアで、1972年に製造を開始した。特許取得件数は現在まで200件を超える研究開発型企業でもある。

 「世界初」(高木紀彰上席顧問工場長)が売り物でもある同社だが、再生ポリエステル短繊維は片寄工場(同)に月産500㌧の生産設備を持つ。

 用途は内装材や吸音材など自動車資材が約60%を占め、その他インテリア20%、産業資材20%などの構成。原着、白わたとも手掛け、原着は黒だけでなく、カラーわたも展開する。

 同社の再生ポリエステル短繊維は多品種小ロット対応や機能性を付与できるのが特徴になる。

 今回のANEXでは、再生ポリエステル短繊維の原料から生産までの流れ、実際に採用されている製品などを紹介する。

 一方で、研究開発型企業として再生ポリエステル短繊維による難燃タイプや中空タイプなど技術力を訴求する。中空わたについては用途に応じて中空率などをカスタマイズできるのも強みと言える。

 この技術開発力を生かして開発した熱伝導樹脂もANEXでは紹介する。

 「放熱性など課題に対する材料からの提案」とするこの熱伝導樹脂。既存品の熱伝導率が1mK当たり1~5ワットに対し、10~20ワットと「世の中にはない水準」。最終需要家も来場するANEXで反応を探る。

 同社がANEXのような国際展に出展するのは初の試みになる。19年に70周年を迎える同社。研究開発型企業としてのアピールにも力を入れる考えだ。

〈関東圏に緑化材を訴求/三幸毛糸紡績〉

 三幸毛糸紡績(名古屋市中村区)は、ニードルパンチ不織布(NP)で建物屋上に使う緑化材をANEXで提案する。需要が見込まれる関東圏への販路拡大を図る。ヤシの繊維を使い、環境や人に優しい素材として訴求する。

 同社はNPを建物屋上の緑化材に加えて、サッカー場天然芝や河川ののり面のベースに使う土木資材として、名古屋市中心に幅広く販売。同市では公共・商業複合施設「オアシス21」屋上の広場に採用されている。

 1964年から不織布事業を始め、当初は衣料用芯地や生理用品向けの不織布を手掛けていた。現在は緑化材のほかに、工業研磨材の基布、生活関連資材も製造する。

〈倉敷繊維加工/各種加工技術に強み/「高機能化に挑戦」〉

 クラボウの不織布製造子会社である倉敷繊維加工(大阪市中央区)はケミカルボンド、サーマルボンド、ニードルパンチなどの短繊維不織布を製造するとともに、その名の通り各種加工にも強みがある。機能加工、他素材との複合化などに力を入れており、青山克己社長は「品質安定性はもちろん、複合加工による機能化によって競争に勝つことを目指す」と語る。

 2017年度も堅調な業績となったが、特にフィルターがけん引する。この5年間でフィルター関連の売上高は40%以上の伸びとなった。これを支えるのが機能加工。例えば自動車のキャビンフィルターは脱臭機能のほか、抗菌や抗ウイルスなどのニーズが高まるが、不織布に機能剤を付与すると、圧力損失が生じる。「こうした課題をクリアし、圧力損失を抑えながら機能剤を付与する技術力が強み」と強調する。

 自動車関連用途は拡大が続く。内装材のほか、吸音材など新用途も広がる。自動車以外でもネットやフィルム、長繊維不織布とのラミネートや貼り合わせなど複合加工で新用途開拓を進めるのが同社の戦略。そのため静岡工場(静岡県掛川市)の加工設備も増強する。

 新用途として期待するのは金属イオン除去カートリッジフィルター「クラングラフト」。独自の放射線グラフト重合加工によって微量の金属イオンを高精度、高速で捕集・除去できる。半導体製造で使用する薬液などのろ過用途に提案中で、採用に向けた動きも具体化する。現在は静岡工場のパイロットプラントで生産しており、量産の検討も始めた。海外生産にも着手する。17年に中国子会社の仏山倉敷繊維加工(広東省仏山市)を立ち上げ、空気清浄機用フィルターを中心に中国市場の開拓を進める。

 ANEXでは「高機能化への挑戦」をテーマに、クラングラフト、抗菌や脱臭性などを付与したエアフィルター「クランセール」、他素材複合で光、熱、音を遮蔽(しゃへい)する機能を持つ「クランシールド」、フェースマスク用不織布「シルキーベール」などを紹介する。

〈東洋紡/ソリューション提案も/長短不織布の総合メーカー〉

 東洋紡は子会社の呉羽テック(滋賀県栗東市)、ユウホウ(大阪市北区)などを含めて長・短不織布を手掛ける総合不織布メーカーだ。本体の主力はポリエステルスパンボンド不織布(SB)。自動車資材や土木建築資材などを手掛けるほか、近年は2次加工による複合材の販売も力を入れる。機能性不織布を用いた新商品も発表しており、特化素材によるソリューション提案も強化する。

 ANEXではシート状重金属イオン吸着材「コスモフレッシュNANO」など機能不織布を重点紹介するほか、繊維クッション材「ブレスエアー」、超吸水繊維「ランシール」など多彩なソリューションをグループで提案する。

 ポリエステルSB事業は2017年度も堅調な荷動きが続いた。特に堅調なのは自動車資材。世界的なSUVブームで使用量が拡大したことが要因と言う。

 2次加工品にも力を入れる。その一つが自動車の荷台の目隠しに使うトノカバー。塩ビ製が多いが、近年はリサイクルの観点から他素材への代替が進む。同社はポリエステルSBに特殊樹脂コーティングを施し、軽量、低コスト、低環境負荷の不織布製トノカバーを展開する。

 「特に海外販売が伸びている。中国生産もVOC(揮発性有機化合物)規制に対応することが強み。塩ビ製の約半分の重量のため、軽量化が問われるEV(電気自動車)化も追い風」と田中茂樹スパンボンド事業部長は手応えを示す。土木資材もソリューション型新商材を提案する。その一つがコスモフレッシュNANO。ポリエステルSBに重金属イオン吸着材をコーティングした。

〈呉羽テック/車資材で領域広げる/中計で10~15%増収へ〉

 東洋紡の不織布製造子会社、呉羽テック(滋賀県栗東市)は中期経営計画の最終年度となる2021年度(22年3月期)に売上高、利益とも17年度比10~15%増を目指す。斉藤正和社長は目標達成に向けて、四つの“新”をテーマにした新事業開発や日本、タイ、米国の3拠点での開発プロジェクトに取り組む。人材確保へ手立てを講じるほか、ダイバーシティー推進も課題に挙げる。

 同社はニードルパンチ、サーマルボンド、ケミカルボンドの短繊維不織布に加え、スパンボンド法による接着シート、3次元繊維構造体などを製造販売する。特にエアフィルターなど自動車資材を主力とし、米国、タイに子会社、台湾にも合弁会社を持つ。

 四つの“新”事業開発は「次世代の柱」を育成するもの。主力の自動車資材では電気自動車化によるエアフィルターの落ち込みも踏まえ、吸音材や衝撃吸収材などの開発を推進中。既に事業化するバッテリー冷却フィルターも含めて新領域を開拓する。

 ニットによるプラスター化が進む貼布基布は「伸縮性不織布」という特徴を生かし化粧雑貨などへの展開を増やす。3次元繊維構造体「クレバルカー」は同製法の東洋紡「ブレスエアー」とは異なる薄手生産が可能。クッション性以外に適度な空間を作ることができ、その特徴が生きる用途開拓を進める。

 日本、タイ、米国の3拠点での開発ではキャビンフィルター向けを拡大する。東洋紡のAC事業、グループ企業のユウホウ(大阪市北区)との連携によるもので、3拠点で生産体制の整備を進める。

〈新しい付加価値提供/新江州〉

 透湿防水シートをはじめとする住宅資材を手掛ける新江州(滋賀県長浜市)はANEX2回目の出展となる。「新しい付加価値」のテーマの下で、不織布加工技術を見せるほか、新しいホットメルトラミネート市場ニーズの発掘を狙う。

 スプレーラミネートで不織布を積層・高機能化した製品を提案する。スプレーラミネートは、ホットメルト接着剤をスプレー状に塗布して貼合し、不織布やフィルムが持つ通気性やフィルター性能、素材の風合いをそのまま生かす製造方法。

 展示会を通じて海外市場の開拓も目指し、拠点(新江州韓国、新江州ベトナム)を生かした製品提供も進める。