特集「グローバル繊維製品基準・規格は」(1)/海外販売への取り組みに

2018年06月20日 (水曜日)

 国内需要に依存せず、海外市場をいかに開拓するかが業界の課題だ。しかし、海外販売は製品の質や価格だけでなく、安全基準もクリアしなければならない。商慣習の違い、さまざまな法規制もある。そうした情報を支援するのも検査機関の役割となっている。

●相手国の法規制は

 「米国のサンフランシスコ市が毛皮製品販売禁止を発表」。カケンテストセンターは5月末、ホームページにこの海外情報を掲載した。施行日は来年1月だが、サンフランシスコ内での毛皮製品の流通が禁止される。

 動物愛護の一環で、衣料品だけでなく、ハンドバッグや靴、帽子、マフラーも対象。実店舗、オンラインともに禁止だが、レザーは対象ではない。カリフォルニア州ではウエストハリウッド市、バークレー市に続き3番目の禁止条例だ。

 同ホームページではこれまで、「カナダで子供用スリープウエアの可燃性基準変更」といった海外法規制情報も掲載した。輸出する企業にとって、販売先のこうした法規制や安全基準などの最新情報は不可欠である。

 先進国にはそれぞれ商品に対する規格があり、それに適合しなければ販売できない。海外の規格にはISO(国際標準化機構)、AATCC(米国繊維化学・色彩研究者協会)、ASTM(ASTMインターナショナル)、CFR(米国連邦規制)、AS(オーストラリア規格協会)、BS(英国国家規格)、EN(欧州規格)、DIN(ドイツ連邦規格)、GB(中国国家標準)などがある。

 カケンの東京、大阪事業所の海外規格ラボはこうした国際規格・各種海外規格による業務に特化した部署として、試験を行っている。

 基準には海外バイヤーの品質基準もある。マークス&スペンサー、トミーヒルフィガー、ラルフローレン、ランズエンドなどだ。こうした先への納品でも品質基準への適合が問われる。

●安全を買う時代に

 日本では「特定芳香族アミン規制」が2016年4月1日に施行された。これは欧州のリーチ法、中国のGB法、韓国のKC法、エコテックスなど、世界的に特定芳香族アミン類を有害物質に指定する動きを受けたものだ。

 アゾ染料は種類が豊富で安価なため、世界で3千種類以上が使用されていた。これらのアゾ染料の一部は皮膚表面や腸内の細菌、肝臓などで還元分解され、発がん性、またはそのおそれがあると指摘されている特定芳香族アミンを生成する可能性がある。1994年にドイツが繊維製品に対して特定のアゾ染料の使用を世界で初めて禁止した。

 特定芳香族アミン物質には、4―アミノアゾベンゼン、2―アミノ―4―ニトロトルエン、4―アミノビフエニルなど24物質がある。

 こうした有害化学物質対象は毎年増加しており、メーカーや輸出業者は神経をとがらす。日本も安全・安心を買う時代になった。特定芳香族アミンだけでなく、ISO規格にある重金属などの有害物質試験も行われている。そうした世界各国の有害物質情報を提供するのも、検査機関の役割となっている。

 検査機関は、提携機関と協力してRSL(規制物質リスト)に基づくサプライヤーの管理システムを支援する業務も行う。大手スポーツアパレルなどグローバル企業は、自社製品の製造に関して、サプライヤーから供給される原材料、部品、さらに梱包(こんぽう)材に至るまで、RSLに基づく有害な化学物質などの使用を規制している。

●「沈黙の春」から……

 米国でレイチェル・カーソンが「沈黙の春」を出版したのが1962年。化学物質の危険性に警鐘を鳴らした。90年代には大手スポーツブランドが途上国でスエットショップ(低賃金・悪条件で労働者を雇用する搾取工場)問題を引き起こした。

 英国のトニー・ブレア政権(97~2007年)はアフリカの貧困問題で「エシカル」政策を掲げ、英国を起点にエシカルという言葉が欧州に波及した。13年のバングラデシュで起きた縫製工場の崩落事故は、ブランドや企業が生産コストを無理に抑えようとしたと非難を呼ぶ。こうした流れからファストファッションやラグジュアリーブランドはエシカルファッションへの展開に取り組んだ。

 フェアトレードも、「日本はフェア」という前提に立つが、その調達先の実態把握も企業の責任。環境問題、人権や労働安全性などの社会問題が、各種規制を積極的に進める。業界では繊維産業技能実習事業協議会が3月立ち上がった。サプライチェーンの健全性や透明性を含め、モノ作りは新時代を迎えている。

〈「持続可能性」という潮流〉

 東京ガールズコレクション(TGC)実行委員会(W TOKYO主催)は5月31日、国連ニューヨーク本部でSDGs(持続可能な開発目標)推進ファッションセレモニーを開催した。

 TGCは男女が共に歩むことを目指した国連の「ワン・ウーマン・キャンペーン」の目的と意義に共感し、NGO国連の友アジア・パシフィックと提携した。SDGs推進に関するさまざまな取り組みを行ってきた。

 スペシャルステージにはTGCを代表するモデルの香里奈さん、土屋アンナさん、山田優さんらなどが登場。欧州のファッション業界はエコファー、エシカルファッションなどサステイナビリティー(持続可能性)への意識が高く、TGCもその潮流をくんだと言える。

 山本良一東京大学名誉教授は「日本は動物や環境、人、社会に配慮した工程・流通で生産された商品が広がりにくい」と、エシカル消費がなかなか進まない現況を指摘する。

 背景には「オーガニックに対する関心の低さ、フェアトレードをチャリティーのように考えてCSR(企業の社会的責任)の根幹として捉えていない。世界の動物福祉(アニマルウェルフェア)の流れにも追い付いていないなど、社会全体の意識の低さもある」とみる。

 しかし、国内販売はともかく、海外進出となると、事情は異なる。有害化学物質などの安全・安心面だけでなく、労働問題、環境問題などを含めたサステイナビリティーが求められる。この潮流は今後の検査機関の活動にも影響を与えそうだ。