ひと/東レのファイバー事業部門長に就いた舟橋 輝郎 氏/戦術ではなく戦略で売る
2018年07月03日 (火曜日)
久しぶりに東レの繊維事業本部に原糸・原綿を専門とするファイバー事業部門が復活した。その部門長に4月に就いたのが舟橋輝郎氏。国内外に多様な生産・販売拠点を有することを生かしながら「出口戦略を見極めたベストミックスを追求する」と話す。
入社して最初に担当したのがポリエステル短繊維の営業だった舟橋氏。ポリエステル綿混紡績用のわた売りで綿紡績の購買部門に日参した。「繊維業界も今以上に“大阪”の雰囲気が強く、営業マンは客先で必ず『まいど!』とあいさつするのですが、東京出身なので最初はなかなか『まいど!』の言葉が出てこなくて困った」とか。
しかも主力商品は定番“ポリわた”。差別化も難しい。用途、値段、数量、納期など顧客の微妙なニーズを察知しながら、呼吸と駆け引きで受注を得る経験を積む。「糸・わたの営業というのは究極のマーケティングですよ。目先の戦術ではなく、商流全体の動きを捉えた戦略で売ることが重要になる」と話す。
ファイバー事業部門長として国内外の生産拠点の整備・高度化も大きな役割となる。「国内外の各拠点ともそれぞれの歴史があり、得手・不得手もある。特徴を生かしたベストミックスを追求したい。投資も惜しまない」。そのためにも必要なのが出口戦略の見極め。この点に関して舟橋氏には思い出がある。
2000年代初頭、東レのファイバー事業部門では、当時の長繊維事業部長だった大矢光雄氏(現・専務繊維事業本部長)の旗振りで“メンズインナープロジェクト”に取り組む。その実働メンバーの一人が舟橋氏だった。「当時、紳士肌着といえば綿100%の牙城。何とか合繊で攻略しようと試行錯誤しました。そして吸汗速乾ポリエステル『セオアルファ』と綿の混紡素材でユニクロに採用されることに。こうした取り組みが後の『ヒートテック』や『エアリズム』での成功につながっていきます」
目先の戦術ではなく出口を見極めながらの戦略で原糸・原綿を売るという東レのファイバー事業部門の持ち味が発揮された原点かもしれない。こうしたやり方は衣料だけでなく産業資材でも同様。それは簡単なことではないが、「やはり日々の苦闘の中から革新が生まれる」と言う舟橋氏。その戦略に期待がかかる。(宇)
ふなはし・てるお 1986年成城大・法卒、東レ入社。2012年東麗合成繊維〈南通〉董事、17年産業資材事業部長兼自動車材料戦略推進室主幹、18年4月からファイバー事業部門長。東京都出身。54歳。趣味は写真とカメラ。愛用のフィルムカメラを使い街角の生活感あるシーンを白黒で撮影するのが好きだとか。