特集 環境新書(2)/サステイナブルを実現/取り組み強める繊維企業

2018年06月15日 (金曜日)

〈「エコディア」の普及進む/GR事業で売上高9千億円目標/東レ〉

 東レは環境を重要な成長領域と位置付ける。中期経営課題「プロジェクトAP―G2019」でもグリーンイノベーション(GR)事業の拡大を掲げ、2019年度には売上高9千億円を計画する。

 GR事業は、省エネルギー・新エネルギー、バイオマス原料、水処理、空気清浄、環境負荷低減、リサイクルといった課題に対してグループの総力を結集してソリューションを提供するもの。繊維分野でも省エネとして保温・涼感素材の提案を進め、環境負荷低減としてフッ素フリー加工やノンハロゲン、溶剤使用量削減など生産プロセスの革新を実行してきた。

 例えばバイオ原料ポリエステル(PET)の普及を進める。PETは高純度テレフタル酸(PTA)とエチレングリコール(EG)を重合して生産するが、EGをバイオ由来品に転換することを進める。さらにPTAもバイオ由来とすることで100%バイオ原料由来PETの実用化に取り組む。

 「エコディア」PTT(ポリトリメチレン・テレフタレート)繊維も原料の約37%が植物由来となる。エコディアPTT複合繊維とテキスタイルはエコマーク商品類型No.104「家庭用繊維製品」の紡織基礎製品として認定も受けている。

 エコディアの普及はスポーツ衣料などを中心に進む。スポーツ衣料は近年、欧米アパレルを中心に環境配慮素材へのニーズが急速に高まっていることも追い風となる。

 加工プロセスの改善をもたらす新素材の開発も進む。例えばこのほど開発した「深発色ナイロン」は、フルダルナイロンながら高発色と耐候性の高さという特徴を持つ。染料が繊維に結合しやすいため、染色加工時の廃水に含まれる残留染料を減らせる。このため環境負荷低減に貢献する新素材としても注目されている。

〈採用進む「ミントバール」/新興国の環境規制強化にも対応/クラレグループ〉

 クラレグループは独自のポリマーを活用した個性的な商品に強みを持つが、そうした商品には環境負荷低減に貢献するものも少なくない。その一つが、クラレトレーディングが販売する新規水溶性長繊維「ミントバール」。新興国などでは廃水規制など環境規制が強化されているが、そうした規制強化にも対応した素材として採用が進んでいる。

 ミントバールは他繊維と混繊・交撚したものを熱水で全溶解させることで無撚糸とする補助材としての用途が中心となる。高級細番手ウールや無撚糸タオルの生産では欠かすこのできない素材と言える。

 無撚糸生産で使用される水溶性繊維としては、水溶性ビニロンが一般的だが、ミントバールは細繊度長繊維のため少ない溶解量で無撚糸を生産することができる。このため加工時の水使用量を削減することが可能になる。生分解性を持つため、溶解後の廃水処理でも環境負荷が低い。

 近年、ミントバールの採用が拡大している背景には、新興国でも廃水などの環境規制が強化されていることがある。例えばインドでも無撚糸タオルの生産が拡大しているが、やはり環境規制も強化されている。このため水溶性ビニロンではなくミントバールを使用することで環境負荷を低減しようという試みが増えた。

 その他、デニムなど新たな用途も増加した。世界的にデニムでの新規開発への機運が高まっているが、そこでもミントバールを使うことで従来にないソフトデニムなどを開発する動きが強まる。

 クラレトレーディングは、このほかにも低温染色可能なポリエステル繊維「ピュアス」や、使用済繊維製品を回収して新日鐵住金のコークス炉で炭化水素油、コークス、コークス炉ガスなどに分解・再利用するケミカルリサイクルシステム「エコトーク」も擁する。

〈持続可能な街づくり支える/国内外で事業を積極展開/ウェルシィ〉

 地下水膜ろ過システムの製造・販売・メンテナンスなどを行っているウェルシィ(東京都品川区)。三菱ケミカルグループの同社は、地下水飲料化業界をけん引するトップ企業であり、国内導入実績は1250件を数えるまでになった。これからもシステムの積極展開で持続可能な街づくりを支える。

 同社が手掛けるのは、高度な膜ろ過処理によって地下水を安全・安心な飲料水に変える分散型給水システム。給水ラインの確保で災害発生時でも事業継続性が高められるほか、断水時の水の提供で地域住民への貢献が可能になる。地下水への切り替えによる上水道料金の削減、環境保全などもメリットだ。

 大きな特長とも言えるのが各種のリースを利用した方式で、初期投資が抑えられる。メンテナンス体制も整えており、これまでに事業継続に関する国際規格であるISO22301認証や国土強靭(きょうじん)化の推進に協賛し「レジリエンス認証」を取得している。

 2018年3月期は過去最高の売り上げを記録し、宮田栄二社長は「20年度に売上高100億円を目指す」と力を込める。地下水飲料化事業をメインとしながら、工業用水の飲料化や排水リサイクルによる中水への再利用、省エネルギーシステムの展開にも力を入れる。

 国内のトピックスでは中央研究所と日本エコロジィ研究所を1カ所(東京都東村山市)に集約した。今年1月に本格稼働を開始したが、「研究開発と水分析の一体化によるシナジーも既に出てきている」(宮田社長)とした。

 海外展開も積極的。ミャンマーではヤンゴン市内に合弁会社MWアクアソリューションズを立ち上げた。水処理や環境コンサルを事業とするが、現在は水質分析事業の引き合いが多いと言う。

〈CSR調達で体制整備/環境型ビジネスの推進/帝人フロンティア〉

 帝人フロンティアは「労働」「人権」「環境」など企業の社会的責任を重視したCSR調達を強化している。いまやCSRを重視することがサプライヤーとして不可欠の取り組みとなった。

 同社は国内外に多くの発注先企業を持つが、発注先で違法な児童労働や強制労働、長時間労働などが行われていないかは「社外の問題だという意識ではだめ。工場とパートナーとして取り組むことが重要」と指摘する。まずは同社がCSR調達の基準を作成・提示し、アンケート調査するなど意思統一を進めた上で実地監査を実施した。

 この3年間で、まずは資本関係のある企業からスタートし、海外の縫製工場など協力工場約60社の監査を実施。CSRを順守するために工程改善による労働時間・コスト削減にも取り組んだ。

 環境関連でも生産工程の環境負荷や環境マネジメントに関する監査を実施。今年は国内でも労働、人権、環境に関する監査を実施する。

 一方、環境配慮型ビジネスの推進では、「THINK ECO(シンク・エコ)」を活動指針として掲げ、リサイクルの推進や省エネ型製品の提供、気候変動に適応する製品の開発などに取り組んでいる。

 リサイクルではPETボトルや繊維廃棄物を分解・生成し繊維に再生する。オーガニック素材やバイオ由来原料の活用を推進。バイオ由来原料を一部用いたポリトリメチレン・テレフタレート(PTT)繊維「ソロテックス」は、ソフト・形態回復・ストレッチ・クッション性などの特長を持ちつつ、環境にも配慮したファッション衣料向け素材である。

 これら従来テーマに、新たに加えたのが気候変動への適応。温暖化の進行に伴う健康被害や自然災害に備えるものとして、機能素材の開発などを行う。

〈土壌汚染防止などで活躍/特化素材でソリューション/東洋紡グループ〉

 東洋紡グループは、特化素材を活用することで環境負荷低減のためのさまざまなソリューションを提供する。最近では土壌汚染防止のための繊維資材で新たな商品を打ち出した。

 日本は土壌中に自然由来の重金属が多く、建築発生土(残土)の仮置きや再利用から土中に重金属が流出して土壌が汚染される危険性が指摘されていた。このため2010年に土壌汚染対策法が改正され、自然由来重金属も法規制の対象となった。

 こうした動きに対応して開発したのがシート状重金属イオン吸着材「コスモフレッシュNANO」。ポリエステルスパンボンド不織布に重金属イオン吸着材をコーティングしたもので若狭湾エネルギー研究センター、明星大学の宮脇健太郎教授と共同開発した。

 土木工事の発生土の仮置きや再利用などで原地盤との間にコスモフレッシュNANOを使用することで掘削土に含まれる自然由来の重金属(ヒ素、フッ素、鉛、カドミウムなど)を吸着し、土壌に流出するのを防ぐ。

 そのほかにも遮水シートの水漏れ検知に利用できる導電性ニードルパンチ不織布「ボランス導電性マットECF1010」(製造はグループ会社のユウホウ)など多彩な商品をラインアップする。

 東洋紡STCではコンクリートに無機繊維を複合した保水コンクリート板も販売する。仕上げ材として屋根に設置することで屋上緑化と同様のクールルーフ化が可能で、ヒートアイランド現象を抑える効果が期待できる。空調の電力消費による二酸化炭素排出量の削減効果も確認した。

 東洋紡STCは富山事業所に植物工場を設け、富山大学大学院医学薬学研究部と薬用植物の工業的生産の研究も進める。繊維の技術を応用しながら環境に貢献するソリューション開発が加速する。

〈生分解性で注目のPLA/生活資材用途で採用進む/ユニチカ〉

 マイクロプラスチック問題などで合成樹脂・繊維に対する逆風が強まる中、改めて注目される可能性が高まっているのが生分解性のあるポリ乳酸(PLA)樹脂・繊維。ユニチカは「テラマック」ブランドで粘り強い提案を続けてきた。特に欧州を中心に生活資材用途で採用実績を増やしている。

 テラマックは欧州での販売が拡大している。主力用途はティーバッグ用モノフィラメント織物。欧州ではコンポスト(堆肥)の普及率が高く、使用済の茶葉などはコンポストで処理するケースが多い。この際、通常の合繊製ティーバッグは、バッグと茶葉を分別して廃棄する必要がある。一方、テラマック製のティーバッグは生分解性があるため、バッグに茶葉が入ったままの状態でコンポストに投入・処理できる。

 近年、欧州を中心に容易に分解されないプラスチックなど高分子合成物を自然界に無秩序に放出することの危険性が指摘され始めた。このため特に使い捨て用途で合成樹脂・繊維を使用することへの批判が高まっており、既に一部では法規制に向けた議論すら始まった。

 ユニチカでは、こうした世界的な潮流も意識しながら、テラマックの最大の特徴である生分解性が生きる用途への提案を進める。ティーバッグのほか、最近ではテラマック製不織布を使った防草シートの評価も高まる。こちらも土中に放置するだけで時間とともに分解されることから、環境負荷低減に貢献する。

 一方、テラマックは耐熱性が低いことが弱点とされた。しかし、融点の低さを生かした用途も生まれている。その一つが3Dプリンター用モノフィラメント。3Dプリンターの原料フィラメントはABS樹脂などが一般的だが、溶融時に臭気があることが嫌われる。テラマックは溶融時に臭気が発生しないことから評価が高い。

〈生分解、天然由来打ち出す/SDGsへの取り組みも強化/ダイワボウレーヨン〉

 ダイワボウレーヨンは、レーヨンが天然由来のサステイナブルな繊維であることを改めて打ち出す。生分解性を持つことなどをアピールし、国際的な第三者認証も積極的に活用する。

 欧米を中心に自然界に排出される合成樹脂・繊維の悪影響が懸念されることから、生分解性を保有する素材への注目が高まる。こうした潮流を受け、ダイワボウレーヨンでは、改めてレーヨンが木材パルプを原料とした天然由来繊維であり、生分解性を持つ素材であることを打ち出す。

 そのため森林資源の適正な利用を確認する「FSC」認証や安全性の国際規格「エコテックス・スタンダード100」クラス1を取得している。さらに米国農務省のバイオプリファード・プログラムに基づき再生可能な原料から作られた製品であることを証明するバイオベース製品認証も取得した。

 SDGsを意識した取り組みも強化する。レーヨンを生産する益田工場(島根県益田市)の各工程や調達、廃棄物処理の取り組みなどを整理し、それぞれをSDGsのアイコンで表現することでレーヨン事業がサステイナブルな事業であることを可視化する取り組みを始めた。

 さまざまな機能レーヨンを得意とする同社だが、機能レーヨンの開発でも環境配慮の切り口を重視する。

 その一例がこのほど開発した撥水(はっすい)機能レーヨン「エコリペラス」となる。非フッ素系撥水加工によって撥水性とレーヨンの吸湿性を両立している。ヒ素イオン吸着レーヨン「クリンレイ」は、地下水に含まれるヒ素イオンを急速吸着・除去する。フィルターなどに使用することで水資源の安全性に貢献できる機能レーヨンとなる。

〈SDGsは事業ポリシー/第三者認証も積極活用/旭化成〉

 旭化成はグループビジョンに「健康で快適な生活」と「環境との共生」を掲げている。このため早くからSDGsやESGを事業ポリシーの中に組み入れてきた。これは繊維事業本部も例外ではない。各事業部がサステイナブルな事業を目指した取り組みを進める。

 繊維事業本部の中でも環境対応が大きな意味を持つのがベンベルグ事業部だろう。キュプラ繊維「ベンベルグ」は天然由来の再生セルロース繊維として独自の地位を築いている。特に近年は裏地やインナー、民族衣装に加えてアウター素材としての提案を強化しているが、欧州を中心に環境配慮素材としての訴求が成果を上げ始めた。

 こうした取り組みを消費者や取引先に向けて可視化するため第三者認証も積極的に活用する。2017年にはテキスタイル・エクスチェンジのGRS(グローバル・リサイクル・スタンダード)認証も取得した。環境関連の投資も拡大を計画する。製造工程での排出物回収などでも技術開発を進める。

 ロイカ事業部もSDGsやESGを重視。ポリウレタン弾性糸は通常、環境配慮素材としての打ち出しが難しいが、同社では生産工程で発生する不使用糸などを再処理して生産する「ロイカEF」を開発している。ポリウレタン弾性糸としては世界で唯一、GSR認証を取得した。

 旭化成スパンデックスヨーロッパが生産する「ロイカV550」も染色時に洗浄などの水使用量を削減できる持続可能な特徴を生かし、環境配慮型デザインなどの認証「クレードル・トゥ・クレードル」を取得した。

 不織布事業部が扱う人工皮革「ラムース」も水系ポリウレタン使用や直接紡糸法による有機溶剤非使用など環境配慮素材の側面を持つ。安全性の国際認証「エコテックス・スタンダード100」クラス1も取得している。

〈暑熱環境下の作業も快適/「冷却下着ベスト型」/帝国繊維〉

 帝国繊維が製造・販売を手掛ける「冷却下着ベスト型」が、暑熱環境下での体力消耗・熱中症対策として注目されている。宇宙航空研究開発機構、日本ユニフォームセンター、島精機製作所とのコラボレーションで誕生。首筋や脇の下などベスト内部に張り巡らせたチューブの中を、4℃前後の冷水が循環し上半身を涼しく快適に保つ。

 建築・建設現場などでの試用期間を経て、動きやすいリュック型(定価9万8千円)と長時間の作業に適したチラー型(同29万円)の販売を4月に開始。既に販売している簡単装備のタンク型(同7万2千円)を含む3型フルラインでの本格販売がスタートした。

 リュック型は冷水バッグを専用保冷剤で冷やす仕様のため、水交換不要で60~120分ほどの連続使用が可能。チラー型は、床置きの冷凍式氷温水チラーを冷却ベストにつないだタイプで、電源のある場所なら長時間連続して作業できる。タンク型は流量調整の新型コントローラー採用により、1回の水交換で60分程度まで冷感を保てるようになった。

 5月下旬に東京ビッグサイトで開かれた「2018NEW環境展/2018地球温暖化防止展」に出展し、建設業をはじめ、物流業や製造業など幅広い業界の関心を引いた。作業者の安全確保や労働環境改善はもちろん、人材確保の観点からも導入を検討する企業が増えているという。

 現在、上腕や大腿、頭部など体の部位別に、サポータータイプを含めた商品をコラボで開発している。細分化することで早く冷水が循環し快適な状態を保つ方向性を考えている。同時に、スポーツ後のクールダウンや医療分野での活用も視野に入れながら、新たな用途開拓も目指す。