2018夏季総合特集Ⅱ(4)/事例研究 次代を開く新たな取り組み」

2018年07月24日 (火曜日)

〈フジボウテキスタイル/糸販売で販路多角化へ〉

 フジボウテキスタイルは国内で製造する糸の販路を多角化する。現在、肌着用途が主力だが、ここ10年間でタオルやストール用途で少しずつ売り先を増やしてきた。

 同社の大分市にある国内唯一の紡績工場では綿を主体とした肌着用途の差別化糸に加え、超長綿など個性ある原料を使った糸やカシミヤ、ウール、シルク混、そして細番手糸といった特化素材を生産する。錘数は1万4千錘。

 独自の原綿調達網や紡績技術を組み合わせることで顧客の要望を反映させた糸を少量多品種で作る。糸の生産品種は毎月50種と幅広く、その用途は肌着をはじめ、キルト糸、カットソー製品、シャツ、ニットアウター、そして資材向けと多岐にわたる。

 タオル用途では近年、今治や泉州産地へ着実に供給実績を重ねてきた。現在、取り組み先は10社以上。販売するのはいずれもメーカーと共同で開発した顧客専用の商材。

 ストール、スカーフ用途では尾州や富士吉田といった産地のメーカー4社に販売実績がある。百貨店などで売られる商品の素材となる希少価値のある糸がメイン。今後も顧客と一体となってニーズに合った糸を開発し販売先を増やしていく。

〈クラボウ/繊維の再利用拡大に貢献〉

 クラボウの繊維事業部は「ループラス」の積極展開を進める。ループラスは、使用生地量に対して10~20%発生(アイテムで異なる)する裁断くずを廃棄処分せず、衣料品などへアップサイクルする仕組みと製品の総称で、金属やプラスチックと比べて低いとされる繊維の再利用率向上に貢献する。

 反毛の繊維製品への活用は珍しくないが、長年にわたって蓄積してきた開繊・反毛のノウハウで差別化。その一つが反毛の際に長い繊維を取り出す技術であり、リサイクルわた50%混で30番単糸の生産を可能(昨年は30%混で26番単糸)にした。さらに紡績、編織、染色・加工技術との融合によって付加価値を高めている。

 現在はバージンコットンとの組み合わせによる綿100%での展開を主体とする。丸編み製品と布帛製品の両方が生産でき、丸編み生地を布帛製品に、ジャケット生地を丸編み製品にアップサイクルすることが可能。赤色や黄色などの反毛わたの組み合わせによってカラーバリエーション(バージンコットン混)を持たせることもできる。

 同社は廃棄物の再資源化活動であるゼロエミッションに取り組んできたが、「自社が販売した生地でも実現したい」とする。

〈日清紡テキスタイル/情報通信×繊維の技術〉

 日清紡テキスタイルは導電繊維を使ったスマートテキスタイルの開発に力を入れる。日清紡ホールディングスグループの無線・エレクトロニクス分野の企業と技術的に連携して開発を進める。

 現在、商業化に向けて着実に前進しているのが、騒音の大きい環境下の人のコミュニケーションをサポートするユニフォーム素材。導電性テキスタイルが無線機から発信された人の声を受信し、受け手に伝達する。音質の高さや生地の軽量化といった改良を続ける。

 機械の駆動音が激しい工場での従業員同士の意思疎通であったり、そうした工場を来訪客に案内したりする際の利用を想定する。導電繊維を生地に織り込むテキスタイルの技術と日本無線、新日本無線の通信技術を組み合わせる。最終製品であるアパレルのニーズもくみ上げながら商品化する。

 導電繊維を使った妊婦帯も開発を進めている。胎児の心音を拾うことで、健康状態の把握をサポートする。医療系の大学と連携して試作を重ねる。これも通信技術と繊維の技術を組み合わせたアイデア。心音の解析や、データをどのように診断に生かすかなどの分析は大学が行う。音を聞くだけのため胎児に与える影響や検査に伴うリスクがないという。

〈トーア紡コーポレーション/界面重合で非塩素防縮加工〉

 トーア紡コーポレーションはソトー、森保染色と共同で塩素非使用の新しいウール防縮加工「ライフファイバーEFT」を開発している。2016年から試験プラントでの加工も始めた。

 ウールの防縮加工は、塩素などを用いてウール表面のスケールを処理して樹脂加工する方法が一般的。しかし、スケールが傷むことでウール本来の風合いや疎水性を損なう。塩素化合物はダイオキシンの発生源ともなることから世界的に非使用の機運が高まっていた。

 ライフファイバーEFTは界面重合によってスケールを傷めずにウール繊維の表面に樹脂被膜を形成し、ウールが本来持つ疎水性能を維持したまま防縮性を付与する。ウール本来の機能が残るほか、黄変しにくく、白度を高めることも可能。一般の家庭洗濯に使われる酵素系洗剤に対しても耐性を確認している。

 現在、試験プラントで加工したウールを使い、ヨガウエアやTシャツなどを「ONU」ブランドでネット販売するなど消費者への訴求も始めた。3社では18年度中に基礎研究を終え、19年度から量産設備の設計・開発に取り組む。

 20年度には海外の協力工場などに技術ライセンスを供与、量産化することを目指す。肌着などウールの新しい需要創出に取り組む。

〈セーレン/進化する「ビスコテックス」〉

 セーレンが展開するデジタルプロダクションシステム「ビスコテックス」が進化を続けている。バーチャルで商品の企画ができる「アトリエ プレイ」の展開を始めるほか、従来よりもリアルな3D表現(4D)も可能になった。市場の要望を実現するビスコテックスには、今後も目が離せない。

 新提案のアトリエ プレイは、ビスコテックスによる衣料品パーソナルオーダーシステムのB2B版「アトリエ(@LIER)」の特徴をスカーフ生産に落とし込んだ新機軸。タブレットで簡単に色や柄が選択・変更でき、バーチャルでシミュレートできる。リードタイムの短縮にもつながる。

 同社はスカーフを対象としたことについて「スタイリングがおしゃれの価値の一つとなり、注目のアイテムであるため」と説明したほか、「サイズも多くなく、(扱いが)比較的容易なことも理由」と話す。ITの活用による同社工場との連動も進めていく。

 4D(ニュー3D)は、既存のソフト(フォトショップなど)と自社開発のソフトの組み合わせに加え、ハードの進化によって立体感が向上した。より精緻な刺しゅうやフリルが表現でき、子供服のワッペンなどにも応用できる。

〈小松精練/先端技術で新価値創造〉

 小松精練は先端技術による新たな価値創造を重点課題の一つに掲げる。高次加工、デジタルプリント、炭素繊維複合材料などにより、これまでとは異なる用途の開拓を目指す。「美・健康・快適・安全・環境」の五つのテーマを軸に異業種・異業界との協業や取り組みも拡大。産官学による戦略的連携にも取り組む。

 新価値創造の一つとして期待するのが、熱可塑性炭素繊維複合材料「カボコーマ・ストランドロッド」だ。2018年の日本工業規格(JIS)化を背景に耐震補強材料用途への提案を強める。カボコーマ・ストランドロッドは、炭素繊維と組みひも技術を融合したロープ状の熱可塑性炭素繊維複合材料。軽量で引っ張り強度に優れ、さびず、耐久性があり、結露しない。作業現場への運搬が容易であるなどの特長を持つ。

 これが評価され「新市場創造型標準化制度」の活用対象として「JIS化審議会」採択を経て、18年にJISに制定される。

 炭素繊維複合材の耐震補強材としてのJIS化は初めてで、これを機に生産能力も増強する。

 ファッション衣料向けテキスタイルのイメージが強い同社だが、医療・福祉、車両、生活資材など非衣料分野も商品開発や海外を含めた市場開拓を図り成長を目指す。

〈ミマキエンジニアリング/テキスタイル・アパレル市場に先鞭〉

 インクジェットプリンター大手のミマキエンジニアリングは、テキスタイル・アパレル(TA)市場に向けた自社製品のラインアップを強化する。さらに、同製品とテキスタイルプリンターをネットワーク上でつなぐソフトウエアの提供もスタートする予定。生産データベースの可視化といったソリューションを提案し、アパレル市場のデジタル化に即応。スピード感が求められるマーケットに先鞭(せんべん)をつける。

 同社は、リムスロー社から事業を取得(2017年11月)したデジタル捺染用の前後処理装置を自社製品ラインアップに加える。前処理機1モデル、蒸し機2モデル、洗い機1モデルを「リムスロー シリーズ」として今年10月に投入。

 ネットワークを活用したソフトウエア「ミマキ ジョブ コントローラー TA」の展開も同時に始める。同ソフトウエアを導入することで、「生産条件管理」「バーコードスキャンによる生産条件読み込み」「生産データベースの可視化」といったメリットを享受できる。

 さらに16年から販売するテキスタイル向けベルト搬送方式インクジェットプリンター「タイガー―1800B」の後継モデルとして、高画質を実現する機能とプリントモードを追加した「タイガー―1800B MkⅡ」の販売を今月からスタートしている。同モデルは、高い設計技術による高速で安定したプリントを維持する機能を備えた。