2018夏季総合特集Ⅱ(5)/次代を開く検査機関/持続可能性の潮流受けて

2018年07月24日 (火曜日)

 国連は2015年9月に「SDGs(持続可能な開発目標)」を採択した。貧困・飢餓、安全な水といった開発途上国の開発支援から、クリーンエネルギー、持続可能な生産と消費といった経済関連、気候変動、海洋や陸上の生態系保護まで幅広い目標を掲げる。サステイナビリティー(持続可能性)は時代の潮流となった。検査機関もこうした事業環境の変化を受けて、次代を開く新たな取り組みを進めている。

〈カケン/CSR要望も増加/海外規格ラボが試験対応〉

 カケンテストセンター(カケン)は、海外規格ラボを東京事業所、大阪事業所に置く。京都検査所にも海外規格グループを設置する。ISO(国際標準化機構)、AATCC(米国繊維化学・色彩研究者協会)、ASTM(ASTMインターナショナル)規格などの国際規格・各種海外規格による業務に特化した部署で、海外バイヤー向けの試験・検査に対応する。

 「海外バイヤー向け試験は増えている」とカケン。国内衣料市場が伸び悩む中で、テキスタイルの海外輸出は繊維産業の活路でもある。中東民族衣装向け生地輸出もあるが、中国や韓国で急成長するアパレルが日本素材を使用するケースも増えてきた。

 このため、カケンは2013年にグローバルコミュニケーション(GC)戦略室を東京事業所の目黒ラボ内に開設。海外の法規制、市場や慣習など幅広く情報を収集、発信し、海外展開のアドバイスも行っている。海外規格ラボはその試験・検査の実践部隊といえる。

 とはいえ、「JISとISOでは試験の機器が異なる。洗濯堅牢度試験でも機械の改造が必要」と、海外規格に対応した試験設備を整えてきた。キセノン耐光試験機は大阪に3台、東京に2台設置する。洗剤など試験用消耗備品も海外に合わせる。

 提携するビューローベリタスグループとの技術提携も生かし、欧米の300以上のブランドの品質基準を共有、海外の20ブランド以上の指定試験機関にもなっている。海外規格は衣料に限らない。そうした分野の情報も収集し、今後の拡大に備える。「CSR(企業の社会的責任)的な要望も増えている。そうした情報も収集し、実現に向けて検討」を進めている。サステイナビリティーは有害化学物質の分析だけではないからだ。

〈QTEC/羽毛監査、抗菌試験等も/強い分野守り抜く〉

 日本繊維製品品質技術センター(QTEC)は4月、東京地区の拠点一本化として、東部事業所の試験部門を東京総合試験センター(東京都港区)へ移転、同センターを「東部事業所」に名称変更した。

 QTECは五つの検査機関が統合した成り立ちから遊休資産が多かった。QTEC3カ年計画(2016~18年度)では、東京地区拠点一本化に伴う本部ビル売却、本部事務所の移転による流動資産化で財務の健全化を進めた。経費やコスト削減だけでなく、納期短縮にも効果が出ている。

 新しい東部事業所はアパレルや生活用品、産業資材の試験を実施する一方で、土木繊維(ジオテキスタイル)の材料試験でも定評がある。建設技術の審査証明も担う土木研究センターの生地の指定検査機関として、耐候性、耐薬品性、引っ張り強度などの試験を行う。「産業資材は土木繊維に特化している。顧客に寄り添い、強い分野を守り抜き、新分野にも挑戦する」。

 微生物関係も強い分野。神戸試験センターは抗菌性や抗ウイルス性など微生物に関する機能性試験を行う。抗菌製品技術協議会の抗ウイルス委員会にも参加し、抗ウイルス性試験の開発、ISO化にも尽力する。中国では上海総合試験センター(上海可泰検験)が抗菌性試験を行う。

 QTECは防炎ラベルの登録確認機関でもある。福井試験センターはカーテンの防炎性能の評価、遮像性試験、断熱/保温性試験を担う。羽毛の組成表示や混合率試験などを行うのは中部事業所。羽毛製品の臭気試験、清浄度試験にも対応する。QTECはグローバルな規模で羽毛の品質試験やトレーサビリティー監査も展開する。動物愛護や各国のコンプライアンスに則った高品質な羽毛供給を支援する。

〈ニッセンケン/SC全体に安全性広がる/持続的成長を可能にする〉

 「エコテックススタンダード100の認証は日本も世界も増加している。日本の場合、輸出目的だけでなく、CSR(企業の社会的責任)として認証を継続する企業が多いのも特徴」。ニッセンケン品質評価センター(ニッセンケン)の駒田展大理事長は、サステイナビリティーへの世界的潮流を肌で感じている。

 エコテックスはグローバル・スタンダードの認証システムとして世界をリードし、年率5~7%で成長している。「持続的な成長を可能にする全体的なアプローチ」を次のステップに位置付け、広範なエコテックスファミリー規格を展開する。

 繊維製品の認証システム「エコテックススタンダード100」のほか、使用薬剤の認証システムである「エコパスポート」は、工場のワーカーに対する社会的責任の役割も担う。持続可能な繊維生産の認証システム「ステップ」、さらに消費者へ生産情報を伝えるラベリングシステム「メイドイングリーン」などがある。工場での規制物質のチェックから消費者保護まで対応できる体制をとる。

 エコテックススタンダード100は今年1月、国際環境NGOグリーンピースの「デトックスキャンペーン」に対応するため、新基準「アペンディックス(付属書)6」を追加した。着色剤のアニリンなどが対象となった。

 「エコテックス国際共同体は環境基準に沿って規制有害物質を更新する。エコテックススタンダード100はグローバルSPAの納入基準にもなっているが、さらにサプライチェーン全体での安全性に広がる動きもある」。青山商事がエコテックススタンダード100の認証シャツの販売を開始したように、高いレベルでの安全性を証明する企業が増えていきそうだ。

〈ボーケン/安心・安全を支える/幅広く評価・情報を提供〉

 サステイナブル(持続可能な)社会を構築する上で、安心・安全は欠かせない。ボーケン品質評価機構(ボーケン)は、安心・安全へのさまざまな取り組みを進め、FITI試験研究院やSGSとの業務提携により、SAC・ZDHCなどの化学物質への管理要求に対応する。

 製品では、SG認証試験を行う。SGマークは製品安全協会が定める基準に適合した製品にのみ表示されるマークで、ボーケンは56品目の型式確認・更新試験、ロット認証試験を行っている。

 抱っこひもも対象だが、15年からSG基準が改正されている。落下防止のため、内側部分にポケット、腰ベルト、股ベルトを付け、頭部を包む頭当ての装着も必要になった。

 同年12月には、「JIS L4129 子供用衣料の安全性―子供用衣料に附属するひもの要求事項」が制定公示され、7歳未満の子供用衣料に、引きひも、装着ひも、装飾ひもの使用が禁止されている。

 こうした子供用衣服の安全基準は国によって異なる。中国の「GB31701―2015乳幼児及び子供用繊維製品安全技術規範」では、乳幼児は36カ月以下を指し、生地では重金属、フタル酸エステルなどの使用を認めない。中国内販では注意が必要。

 食品衛生法に基づく器具・容器包装試験や化粧品の成分分析、有害物質の評価も実施する。こうした試験や情報提供だけでなく、新たなサービス提供にも取り組もうとしている。新設の未来研究所は大阪事業所の技術開発課、IT戦略課/システム開発課で構成。技術と情報を融合させることで、ITを利用した新たなサービス業務を開発する部門として期待されている。