2018夏季総合特集Ⅲ(4)/事例研究「次代を開く新たな取り組み」
2018年07月25日 (水曜日)
〈豊島/CVC通じて次代へ布石〉
豊島は次代の繊維ビジネスに求められるサステイナブル(持続可能な)な、スマートアパレル、そして電子商取引(EC)に対し、2017年1月に立ち上げたコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)ファンドを通じて投資を行うなど、次代への布石を着々と打つ。
サステイナブルは日本環境設計(東京都千代田区)と取り組む。再生ポリエステル事業などを手掛けるが、昨年10月に立ち上がった北九州響灘工場(福岡県北九州市)でのケミカルリサイクル技術を活用した再生ポリエステル製衣料品の開発、販路拡大を目指す。
スマートアパレルへはXenoma(東京都大田区)に投資。同社は東大発のベンチャー企業で、布状電子回路基板「プリンテッド・サーキット・ファブリック(PCF)」を使ったスマートアパレルとして「e―skin DK」を既に発売しており、スポーツの研究機関で採用が進む。
ECへの投資はインドネシア最大級のECモールであるVIP PLAZAインターナショナル。9月から東南アジアへの越境ECをスタートするが、プロパー品だけでなく、在庫処分品も手掛ける。日本の越境ECを固めた後、実店舗展開そしてPBも視野に入れる。
〈モリリン/レンチング製で持続可能性〉
モリリンはオーストリア・レンチング製のセルロース繊維を長年、取り扱ってきた。2018年レンチングは新ブランド戦略を発表。モリリンが取り扱う衣料用・寝装用の精製セルロース繊維、HWMレーヨンを「テンセル」ブランドに統一した。そして、植物由来や生分解性はじめサステイナビリティー(持続可能性)を重視したマーケティングをより推進する。モリリンも連携し、テンセルのサステイナビリティーを訴求する。
テンセルを加工度を高めて展開するのも同社の特徴だが、その一つがテンセル100%で特殊紡績を施したミシン糸「エムセル」。エムセルはポリエステル製に近い強力があり、製品染め用が主力だが、海外を中心にサステイナビリティー素材としてニーズが高まっており、国内への波及効果にも期待する。
テンセルに加え、セルロース繊維では最終製品でレンチング製セルロース繊維を使っていることが特定できる「エコベロ」にも力を入れる。
エコベロは特殊な製造方式により、テキスタイルや縫製品段階でもレンチング製であることが分かるもの。原料ソースまでを重視するアパレル・小売りに寄与する仕組みと言える。
〈ササキセルム/次世代へバトンを継承〉
尾州のテキスタイルコンバーター、ササキセルム(愛知県一宮市)は、若手社員の人材育成に力を入れている。モノ作りの技術などを習得させ、経験を積ませることに注力。4月には社長交代を果たし、新体制も発足した。次世代へバトンをつなぎ、企業の継続性を確立する。
2016年10月にインクジェットプリンターを導入。将来的にインクジェットプリントの需要が高まることを見据え、若手社員をプリントに慣れさせるのが狙い。社内には生地作りのベテラン技術者もおり、若手に技術を指導する体制も構築している。
さらに、今年から生産と貿易を担当していた2事業部の一部を統合して「TS部」を新設。東京への販売強化を図ることに合わせて、若手に経験を積ませることを目的とする。若手とベテランが商品について話し合う「商品部」も創設し、議論を深めている。
同社はボトム、スーツ地の生産を得意としており、コンバーターとして、原料、糸、撚糸、生地といった専門的知識を有する。尾州を基軸に、中国や韓国、台湾、ベトナムなどの海外にも生産拠点を持つ。今後もモノ作りを強みに、若手とベテランを融合させ技術の継承を図る。
〈マスダ/国産品の価値を発信〉
合繊織・編み物の備蓄販売を主力とする生地商のマスダ(名古屋市中区)は、「国産品の価値を発信することで、企業価値を高める」(片岡大輔社長)。生地だけでなく、国内で縫製する機能も生かしながら「消費者に共感してもらえるモノ作りを推進」。それが繊維産地の機能維持につながるとし、これをある意味でのサステイナビリティー(持続可能性)と位置付ける。
同社は北陸産地製の定番生地約200品種を構え、衣料だけでなく、資材など幅広い分野、顧客に生地を供給する。さまざまなニーズに応える一環として国産ポリプロピレンスパンボンド不織布の備蓄販売もスタートした。
主力の仕入れ先である北陸産地は生産好調にあるが、将来を踏まえて「危機感を持ち、今から動く必要性がある」とも強調。それが国内生産の良さの訴求になる。ホームページや会社案内、製品カタログなど販促物も工夫し、日本製であることをより訴える計画を組む。
4年前からマスダ・イノベーション・プロジェクト(MIP)として、介護・資材・海外の3分野に対し全社横断の取り組みも行うが、MIPを通じ「営業担当者の連携強化、新規開拓力の向上に結び付いている」と言う。