ジーンズ別冊(9)/spinning/素材・副資材メーカー、商社は変革にどう対応する?

2018年03月23日 (金曜日)

 ジーンズの企画、生産販売手法に大きな変革が訪れている。デニム・ジーンズの生産を多角的に支える素材・副資材メーカー、商社もどのように変革へ対応していくかが問われている。

〈大正紡績/綿花の個性最大限に〉

 大正紡績は綿糸製造でオーガニックコットンや高級超長綿など世界各国の多彩な原綿に独自のブレンディングや紡績技術を組み合わせ、綿花の個性を最大限に引き出す。取り組み先ごとの糸開発を得意とする。糸から一味違う着心地や表情のデニムを目指すメーカーにとってなくてはならない存在だ。著名なブランドや個性派アパレルのプレミアムジーンズで採用実績を着実に増やしている。

 近年ではジーンズ以外の装飾品や雑貨でもインディゴの人気が高まったことで、インディゴ染め糸の販売は底堅い。“日本の藍染め”がファッションシーンでも注目されていることでジーンズ以外でもインディゴ染め糸を使ったアイテムが増加した。こうした用途に対して大正紡績はデニム産地企業と連携してさまざまな糸を供給している。用途もカジュアルシャツ、ワンピース、カットソーなど幅広く、求められる糸種も多い。

 こうした要望に応えるために、有機栽培綿や超長綿など多様な原綿を使用し、さらに番手や糸形状にも違いをつけた糸を開発している。「ラフィ」はそんな素材の一つ。落ち綿と超長綿などを混綿して作る綿糸で、最近、ラフィから派生したムラ糸のバリエーションも追加した。こだわりを追求するアパレルにとって今後も大正紡績の糸は欠かせない存在だ。

〈クラボウ/PVに“プライムブルー”〉

 クラボウは、2016年に発売したハイエンド向けデニムブランド「クラボウデニムプライムブルー」のアピールを強める。

 ターゲットとするのは欧米のプレミアムジーンズ市場だ。店頭で100ドル超の商品に限ってブランドタグを提供する。ブランドの立ち上げから2年余りで著名なカジュアルブランドでも採用実績が出ている。

 今年2月中旬にはフランスで開かれた世界的なファッション素材総合展「プルミエール・ヴィジョン(PV)・パリ」にデニムをメインに出展、ブランドへの注目度は飛躍的に高まった。

 プライムブルーの中でも、今後の拡販を期待されるのが色落ちしにくいデニム「アクアティック」。濡れても色落ちしにくく、擦ってもほとんど色移りしない。さらに製品洗い加工によって本格デニム特有のビンテージ風の表現もできるという従来のデニムの常識を覆す新素材。

 PVではアクアティック以外にも日本ならではのオリジナルデニムも初披露。「かぶきもの」と題した市松柄や畳織りなど日本古来の織り技術にヒントを得た柄物デニムにも多くの来場者から関心が集まった。

〈イスコジャパン/商品の打ち出し方に工夫〉

 トルコの大手デニムメーカー、イスコの日本法人であるイスコジャパン(東京都渋谷区)は、19春夏から商品の打ち出し方を変えている。従来はストレッチやニット風など、生地の特長を訴えていたが、コンセプトに素材を当てはめるやり方に変更した。「分かりやすいと好評を博している」(山﨑彰也代表取締役)と言う。

 コンセプト・テーマとしているのは「週末」や「平日」「ストリート」など。週末では、子供と公園で遊ぶ父親に向けてストレッチの入った少し良いデニムを訴求。平日にジーンズをはく人に対してはスタンダードを提案し、ストリートでは見た目に変化のある面白い商品などをそろえるといったイメージ。

 山﨑代表取締役は「ジーンズは、ある人にとってはいつでもどこにでも存在する“新聞”のようなもの。一方で、見せ方や使い方によっては“宝石”に変えることができる」と話し、独自性のあるモノ作りやコンセプトに基づいた提案を続けていく。

 素材ではコーティングの引き合いが増えているほか、色のバリエーションが求められるようになってきた。縦・横にストレッチ性のある「BLUE SKIN(ブルースキン)」、ニット風ジーンズなども根強い人気を誇る。

〈東レインターナショナル/人気高まる「ミラクルエアー」〉

 東レインターナショナルのテキスタイル貿易部ストレッチマテリアル課は、差別化ストレッチ糸とテキスタイル販売を担う。いずれもデニムが主力分野であり、原綿・原糸からこだわったテキスタイル開発にも定評がある。最近では軽量ストレッチデニム「ミラクルエアー」の人気が高まってきた。

 ミラクルエアーは、緯糸に中空ポリエステルわたの紡績糸を使用することで軽量性を実現。「デニム・バイ・プルミエール・ヴィジョン」など展示会でも高い評価を得て、欧州のメゾンやNBでの採用が拡大した。

 このため、ミラクルエアーのバリエーションも拡大。中空ナイロンわたを使ったタイプやカラーデニムなども用意した。ジーンズだけでなくGジャンやブルゾンなどアウター向けへの提案も進める。

 「糸からこだわった開発が生命線」という同社。特殊綿糸使いデニムやストレッチコーデュロイなどもラインアップし、「プルミエール・ヴィジョン」など国際服地展示会でも積極的に打ち出し、人気を集めた。6月には東京で展示会を開催するが、ここでも新商品を発表する。

〈YKKスナップファスナー/表面加工でバリエーション〉

 YKKスナップファスナーはさまざまな表面加工を施した製品をラインアップする。「スーパーシャイニー」はノンニッケルでありながら、スーパーシャイニーの名前通り光沢感(輝き)に優れる。タックボタン、スナップキャップで展開、今春から受注を開始した。

 カラーはシルバータイプと、銅メッキ調のカパータイプの2色。タックボタンやスナップキャップであれば、一般的なサイズはおおむね対応可能。

 表面の光沢感を出すために「通常のメッキ工程とは別の前処理を行っている。周囲の環境変化に品質が左右されにくい性能も備えた」。ライダースジャケットや婦人物ジーンズなどに向ける。カジュアル分野では“超”輝きへのニーズがある。

 「GDカラー」は深みのある透明感を出しながら、メタリックな質感がある。衣料のほか、バッグにも展開する。

 「スペシャル$(ドル)エナメル」はタックボタンやスナップキャップに経年変化の表面処理を施した。刻印デザインの凸部だけをかすかに剥がし、デザイン以外の色が剥がれない新手法。ダメージ加工デニムやキッズなどに向ける。

 「=(イコール)エナメル2」は陶器調の表面感と風合いを表現したもの。ゆう薬のような濃淡を付けて実現した。同社は営業、開発、製造が一体となって毎シーズン新技術を生み出している。

〈YKK/耐久定番からビンテージまで〉

 YKKはジーンズ向けに「YZiP(ワイジップ)」を展開する。ジーンズの洗い加工に対応するため、エレメント(務歯)に丹銅・洋白を使用。通常の金属ファスナーより厚めのエレメント(務歯)にして強度を持たせ、耐薬品性にも優れる。テープはポリエステルとコットン・ポリエステル交織の2タイプで、エレメントは5色。要望により引手に顧客のロゴを入れてオリジナリティーも出す。

 ビンテージ向けには「Old American(オールドアメリカン)」を提案する。ジーンズだけでなく、カジュアル分野のビンテージ調ジャケットなどでも好評だ。

 Old Americanは、1940年~50年代の米国ビンテージジッパーをもとに復刻したもので、見た目はビンテージ、スペックは現代の最先端である。

 ファスナーのスライダーはプレス製で、針金、くさりタイプなども。スライダーのロゴも「UNIVERSAL(ユニバーサル)」を採用する。上下止もプレス製で、上止はコの字型、U字型などもそろえ、テープもコットン(13色)で深みのある味わいを演出する。

 サイズは№3、4、5のほか、重衣料向けに№10もある。№10はスライダーカバーに機関車のようなロコモーション型を開発し、カバーに「UNVSL」と刻印する。「ジーンズの定番分野は厳しさが続くが、ビンテージ分野には一定の顧客層がある」

〈レンチング/デニムも重要カテゴリー〉

 レンチングは今年2月、精製セルロース繊維「テンセル」、HWMレーヨン「レンチングモダール」をリブランディングした。ブランドを「テンセル」に統一し、B2B2Cマーケティングを強化している。“デニム”も“インティメイト”(インナーなど)、“アクティブ”(スポーツなど)、“ホーム”(寝装、インテリアなど)と並んで重要分野にカテゴライズする。

 デニムではテンセルのソフトな風合いや吸放湿性、デニムに求められる強度や耐久性など物性の優位性を打ち出す。天然由来原料と環境負荷を抑えた生産システムによる“サステイナブル・プロダクション”も打ち出す。廃棄綿布などをパルプ化してテンセルの原料にリサイクルとする「リフィブラ・テクノロジー」もデニム分野に投入する。

 東京地下鉄(東京メトロ)と「ぐるなび」による情報サイト「レッツ・エンジョイ東京」とコラボレートし、女優の広末涼子さんをモデルに起用したテンセル使いジーンズ、インナー、スポーツウエアを紹介するプロモーションも実施。ジーンズはカイハラが生産する綿・テンセル混デニムを使った「AG」のジーンズを紹介した。

 デニムは現在、新たな付加価値の提案が重要になった。そうしたニーズにレンチングはテンセルのボタニカルでサステイナブルな価値で応えることを目指す。

〈モリリン/地産地消の体制作り〉

 モリリンはミシン糸の地産池消に向けた体制整備を進める。「縫製地が移り変わる中で、地産地消に対応しないと乗り遅れる」との考えで、全ての品種をどの拠点でも生産できる体制作りに取り組む。

 ジーンズ向けに販売する精製セルロース繊維「テンセル」100%使いの「エムセル」もその一つ。このほど、ベトナムで紡績から染色までの一貫生産体制を確立した。エムセルは製品染めに適したミシン糸で、染色性の高さと綿製よりも高い強力を持つ。とくにイタリアを中心とする欧州のジーンズアパレル向けに採用されているが、安定的に流れているという。

 「MSC」もジーンズ向けの差別化品。芯部分はポリエステル長繊維などを使用し、鞘部分は綿からなる2層構造糸で、エムセルよりも強度が求められる商品に使われている。

 同社ではさらに、新商品としてストレッチ性を持つミシン糸なども開発中だが「プロダクトアウトではなく、マーケットイン」を基本として、重点市場の一つであるジーンズ市場に対しても、ニーズを吸い上げながらモノ作りを進める考えだ。

〈フクイ/ジーンズの顔作る副資材〉

 アパレル副資材メーカーのフクイ(東京都台東区)はラベルやパッチ、ネーム、下げ札などのファッションパーツで実績を持つ。特に大手NBとの緊密な取り組みで、日本のジーンズ・シーンを支えてきた。

 ジーンズのウエスト部分を飾るラベル類はブランドの顔というべきパーツ。オーソドックスな本革性をはじめ、シボ感とテラコッタ模様が特徴の「ビストロ」、ホルマリンを含有しないラベル、中にスポンジを入れ立体感を出した「キルティングパッチ」など、意匠性と高品質を併せ持った商品を開発している。

 新作は、色糸で縦糸をカバーした色鮮やかな「色経風織ネーム」、ロゴ部分をへこませ独特の立体感を出した「デボスネーム」、昔のネームを最新の技術でよみがえらせた「アンティークフィーリング」など意欲的なネームが目を引く。

 ファッションの多様化で、副資材への要求も高度化している。半面、専業メーカーが手掛けるベーシックなジーンズは踊り場だが、「デニムの魅力を年齢、性別問わず伝えられるパーツを手掛けていきたい」という思いは変わらない。

〈グンゼ/廃番染料の色再現に挑戦〉

 特殊な合成インディゴ染料の中には、廃番になり、入手できなくなったものがある。これにより、同染料で染めていた色の再現が難しくなってきた。これを受けて、岡山県津山市にあるグンゼの工場は、供給が続いている特殊染料を使って、かつてと同じ色のミシン糸を作ることに1年半前から取り組んだ。その成果が、ジーンズ業界で認知されつつあると岡修也取締役は語る。

 同社は、デニム用ミシン糸として、ポリエステル長繊維が芯で高級綿が鞘の「グンゼコアー」、綿100%の「グンゼコットン」、ナイロン長繊維が芯で高級綿が鞘の「ナイロンコアー」、ポリエステル短繊維100%の「グンゼスパン」などを展開している。いずれも、主要色、主要番手の糸については備蓄している。

 グンゼコアーは、ブラストやストーンウオッシュなどのハードな後加工にも耐える高強力低伸度のポリエステル長繊維と、ジーンズ素材の表情に合わせて発色させやすい綿を組み合わせたもの。この糸については、①塩素系薬剤による後加工でも変退色が少ないタイプを25色②塩素系薬剤である程度退色するが、その後の色変が少なく、自然な色の変化が得られるタイプを同じく25色――備蓄している。グンゼコットンについても、同様に各25色備蓄する。これらの糸をこれだけの色ぞろえで常備在庫している例は珍しい。

〈協同/複雑化する要求に応える〉

 アパレル副資材メーカーの協同(福井県坂井市)は、岡山営業所(岡山県倉敷市)に品質表示ラベルと下げ札の印字に用いるためのインクジェット(IJ)プリンターを導入した。

 ジーンズの品質表示ラベルは、ストーンウオッシュなどの製品洗いを経ても表示が消えないよう特殊なテープに熱転写で印字する手法がとられる。IJプリンターで特殊なインクを用いることで、通常のテープに印字して洗い加工を経ても印字が消えにくいラベルが製造できる。

 印字の耐久性が上がるだけでなく、小ロット対応力や生産効率の向上が見込める。特にジーンズでは、デザイナーなど個人から極小ロットの注文の問い合わせが入るケースが出ており、同社でもインターネット経由での受注体制の整備など対策を進める。

 同社は自社の各種サービス体制を「SoBaNi(そばに)」ブランドとして推進している。ラベルや織ネームなどのサンプルを多数収録した見本帳を作製し、販促ツールとして活用するなど、販売先の利便性を高める仕組み作りを充実する。

 製品差別化のために素材の複合化や加工などが複雑化しており、商品開発、提案に求められる知識も広がってきた。繊維品質管理士の資格取得を社内で推奨するなど人材育成にも注力する。

〈泉工業/多彩なラメ糸をジーンズに〉

 ラメ糸メーカーの泉工業(京都府城陽市)は、デニム・ジーンズ用途に多彩なラメ糸を提案する。ダメージ加工に対応したラメ糸やインディゴ染めラメ糸などユニークな糸を用意している。

 同社のラメ糸は、ジーンズの織りネーム向けやセルビッヂデニムの耳糸向けで実績豊富。ストーンウオッシュなどダメージ加工でも光沢が失われない縫製用ラメ糸「ピムストTW」もラインアップ。最近ではデニム以外の用途でも採用が進む。

 藍染めラメ糸も開発している。同社の反応染色可能なラメ「反応ジョーテックス」にレーヨン短繊維を接着したものをインディゴ染色した。これを使ったデニムやジーンズを洗い加工することでラメ糸上のレーヨン短繊維が部分的に剥げ落ち、露出した部分からラメの光沢が見える。ジョーテックスがアルカリ処理加工しても光沢が劣化しないため、デニムの仕上げ加工にも対応できる。

 そのほか、刺しゅう用ラメ糸「エンブライト」もジーンズで採用実績を重ねている。新たにデニム用むら糸とラメのコラボレーションによる開発も検討するなど、引き続きデニム・ジーンズ用途に積極的に取り組む。