ジーンズ別冊(10)/interview/TOYOSHIMA & CO.,LTD/豊島 東京本社 常務執行役員 東京三部部長 松田 敏彦 氏

2018年03月23日 (金曜日)

 カジュアル衣料分野では小ロット・QRニーズがさらに強まり、電子商取引(EC)も一般化する。こうした顧客動向や市場の変化に対面する中でサプライチェーンを支える商社は、店頭・市場の活性化に貢献できるサービスメニューを検討するとともに「納期・価格・品質」という根本の機能をさらに磨く必要がある。中国の生産環境が変わり、ASEANシフトが進む中で、その重要性はより高まる。豊島の松田敏彦常務執行役員に、現況や今後の見通しなどについて聞いた。

●環境変化にどう応えるか

  ――ファッション衣料消費の事業環境をどう見ていますか。

 17―18秋冬シーズンを振り返るとアウターの動きが良く、次の秋冬に向けた閑散期生産の引き合いが前年同期に比べても増えています。在庫が一掃されて足りなくなったことも後押ししているのかもしれません。ただ、適正在庫がどの辺りにあるのかを見極めなければ、供給過多になってしまう不安も抱いています。

  ――言い換えると衣料品消費の厳しい環境は続いているということでしょうか。

 レディース、カジュアルは、まだ厳しさが続いていると見ています。実需引き付け型の受注傾向が続いているからです。この秋冬のアウターのような動きが出てくれば別でしょうが、自信を持って仕掛けられるような、市場で存在感を示すヒット商品がないことが理由でしょう。

  ―― 一方、衣料全般に快適性を求めるニーズは高まっているようです。

 軽量性、イージーケア機能を持った楽で便利なファッションへの関心は高いですね。ライフスタイルが多様化していますから、そこに合わせた製品が浸透し、消費者の目が肥えています。

 もう一つ、重要なのは生産環境の変化です。収益の確保が難しくなっている状況を強く感じます。象徴的なのは中国生産です。環境規制強化で素材調達が滞るケースに警戒が必要ですし、縫製現場での人員確保難から、生産拠点に目を行き届かせることが難しくなっています。

 天候や為替といった外部要因に左右されない体制を丁寧、かつ、強固に整えることが必要な中で、生産拠点との関係を固めて顧客に合わせた体制をしっかりと提案する重要性を感じます。

●消費者起点の機能強化へ

  ――こうした環境下で豊島としてやるべきことは。

 生産する条件が、難度が上がる形で変化しているので、「納期・価格・品質」という製品OEM/ODMで商社が担う基本機能をしっかり果たすことが改めて求められるでしょう。品質管理のチームが問題を早期発見できる体制は、見直しながら強化しなければなりません。今期に実施したカジュアル部署の再編は、課単位ではなく組織全体での対応力を高めることが目的です。

 特に中国では、これまでも親密な関係を作ってきましたが、人手をかけずに生産できる体制・オペレーションも今後の重要な鍵です。工場の“スマート化”につながる技術を注視することもそこに含まれ、こうした投資に積極的な姿勢を持つパートナーとの取り組みを深める必要がありますが、優先すべきなのは生産進捗(しんちょく)を可視化することでしょう。

  ――ASEAN生産については。

 安定的な生産拠点を確保するためにもASEAN生産はより積極的に使う必要があるでしょう。原料も高止まり傾向なので、価格を合わせるためにも関税フリーのメリットを生む同地域の活用は欠かせません。自社工場を持つベトナムのほか、インドネシアで展開することに加え、その他のコストメリットがある国で手掛けることも想定して行きます。

  ――実需引き付け型の受注傾向と相反する部分もあります。

 確かにそうです。乗り越える工夫が必要です。企画提案できるアパレルの機能と素材・生産拠点を提供する商社が本来的にやるべき仕事を上手にミックスできれば良いですね。市場の状況は、すぐに必要な商材を供給できる機能を求めています。現状の展示会構成に加えて“期中展”のようなものを考えてもいいかもしれません。

  ――顧客の課題解決に貢献する機能の強化は、まだまだ余地がありますね。

 洋服だけ、リアル店舗だけでは売り上げが取りにくくなっています。生活雑貨の受注に力を入れているのはその一環です。18秋冬の婦人製品展では、スマートフォン用アプリやウェブサービスを展開する企業を集めた「デジタルスクエア」コーナーを設けました。ECの活用拡大につながるとの観点で業務提携を広げています。

 ファッションの盛り上がりに貢献するために、「消費者を呼ぶコンテンツ作りに積極的に関わる」という考え方が重要です。顧客の先にいる消費者に目を向けて理解することで、顧客に対する提案の精度も高まってくるでしょう。「オブレクト」「キャントンオーバーオールズ」といった自社製品ブランドも消費者に直接、発信する取り組みの一環で、分析を通じて消費者を理解して行きたいと考えています。