特集 差別化ヤーン/独自の糸で市場を切り開く

2018年09月05日 (水曜日)

 店頭に並ぶ繊維製品の同質化が指摘される中、独自の糸で新たなマーケットの創出に取り組む企業がある。個性ある糸で商品の高付加価値化を提案するメーカー、商社の戦略を紹介する。

〈東洋紡STC/特化素材の開発に力注ぐ/マナードから新素材登場〉

 東洋紡STCの独自糸の国内生産拠点は富山事業所にある。細番手を得意とする入善(富山県入善町)、複合糸を強みとする井波(同県南砺市)の2工場だ。織布・染色加工の庄川工場(同県射水市)ではわた段階での消臭や吸湿発熱の機能加工も可能で独自の差別化を支えている。

 富山で生産する糸の用途はシャツ、タオル、靴下、インナー、アウターなど多岐にわたる。アパレルメーカーに加え全国の生地産地やタオル産地に供給する。近年の衣料品消費の冷え込みを背景に小口需要が増えているため、少量多品種生産にも柔軟に対応する。顧客が継続して使う原料の場合は、顧客仕様の糸の生産に200キロから応じる。新規原料でも1俵使い切りを条件に別注生産する。

 独自の技術を強みに特化素材の開発に取り組む。長・短繊維を均一に複合する独自の技術「マナード」は2020年に技術確立から50周年を迎えるため今年から改めて打ち出しを強めている。この技術を応用した新素材の開発に力を入れており、7月の展示会で「マナードエアリー」を初披露した。

 マナードエアリーは、バルキー糸「エアリーコット」の技術も活用し、ふんわりと軽やかな風合いでありながら、高い強度を併せ持つ。綿が空気を多く含む糸の構造で温かく、洗濯耐性も高い。インナー用途で提案する。

 生産での環境保全や持続可能性が重視されるようになり、オーガニック素材の打ち出しも強めている。吸水速乾、抗ピリング性などを備えた100%綿糸「爽快コット」や、エアリーコットでオーガニックコットン100%のバリエーションを新たに投入。オーガニック原綿を扱う工場ではOCS認証を取得し認証マーク付きで販売する。

〈シキボウ/富山とベトナムで差別化糸/江南で連続シルケット加工〉

 シキボウの差別化糸の生産拠点は富山工場(富山市)とベトナムの協力工場が主力となる。富山工場は中・量産の拠点という役割に加え新たな商材の開発センターとしての顔も併せ持つ。3者混、二重構造糸、極細番手糸など難易度の高い糸の紡績やテスト販売用の少量生産にも対応する。

 一方、ベトナムはこれまで30番、40番、60番双といった汎用糸の生産拠点だったが近年、富山からの技術移管を進めたため差別化糸も量産できる技術水準にある。富山を“マザー工場”として販売が軌道に乗った商材はベトナムで量産する体制を敷く。

 米綿に極細マイクロアクリル繊維をブレンドした特殊紡績糸「ウインターコットン」、綿の肌触りと化繊の機能性を兼ね備える吸水2層構造糸「クイックドライコットン」、スーピマ超長綿とカリフォルニア長綿をブレンドした100番双の精紡交撚糸「プレミアムデュアルアクション」もベトナムで紡績可能だ。今年初めからは国内と同じスペックの強撚糸も紡績できるようになった。同国で強撚糸を生産できる工場は他にないという。

 子会社のシキボウ江南(愛知県江南市)も糸の重要な加工拠点だ。シキボウ江南は、織布・編み立て・染色加工に加え、日本でここだけという糸の連続シルケット加工を行う。シキボウはベトナムで生産した糸を江南で同加工を施し「フィスコ」というブランドで販売する。ニットに適した糸で婦人ポロシャツ向けなどに供給する。

 糸のシルケット加工には、シキボウ江南の連続法と、綛(カセ)状態で行う方法の2種ある。シキボウによると連続法の方が、光沢が増し、発色性も高く、加工ムラも少ないと言う。

〈新内外綿/渦流紡積で品種拡充/環境配慮素材にも力〉

 新内外綿は、国内紡績の中で杢(もく)糸や形状変化糸、さらにテンセル素材のパイオニアとして知られる。1967年に発売した国内初の杢糸は、半世紀経った今でも主力商品となっている。こうした独自性のある糸の製造拠点が岐阜県海津市にある紡績子会社のナイガイテキスタイルだ。

 2016年10月にこの工場内に渦流精紡機「ボルテックス」を導入し、新たに糸の品種拡充に乗り出した。精製セルロース繊維「テンセル」100%のメランジ糸(多色霜降り糸)やポリエステル100%の杢糸も開発している。

 ポリエステル100%の渦流紡績糸では多機能糸を今年初旬に開発した。わたで抗菌防臭加工を施し、糸の構造で吸水速乾性、さらに渦流紡績で抗ピリング性を持たせた。色は黒の原着が基本だが赤、ネービー、イエロー、ブルーと多色杢も可能だ。アウトドア・スポーツウエア用途で提案する。

 「ボタニカルダイ」シリーズも新内外綿独自の差別化糸の一つ。耐光堅ろう度を確保するために、植物染料と化学染料を併用して染めたわたを用いたメランジ糸。再生ポリエステル・オーガニック綿混の商材は、スポーツ衣料やユニフォーム用途での販路拡大を狙ったもの。従来のリング紡績で課題だったピリングを、ボルテックス機により解消した。

 環境配慮素材としては今年から全ての綿糸を10%のオーガニック綿混にしているほか、竹糸の販売にも力を入れる。竹糸は麻のようなシャリ感と肌に触れた時の冷感性などが特徴で、中国産の無農薬栽培の竹を原料に使う。アウトドアメーカーのアロハシャツとして採用実績がある。

〈豊島/天然、合繊と幅広く/差別化糸開発を強化〉

 豊島は綿糸、毛糸、合繊糸などさまざまな糸を取り扱う。定番糸はもちろん、各種差別化糸の備蓄販売にも力を入れる。

 綿糸、合繊糸を担当する二部は国内販売で「各種適品を備蓄販売するのがポイント」(天野裕之執行役員二部長)に挙げる一方、「日本の優れた技術による原料を海外に発信する」ことにも取り組む。そのためにも商品開発を強化するほか、既存品の他用途への展開を図る。

 昨今は特に長短複合糸の開発に力を入れており「一部備蓄販売も始めている」ほか、ストレッチ性やバルキー性などを高めた合繊加工糸の開発や数色の原着糸、さらに欧州で主流のサステイナビリティー(持続可能性)を意識しリサイクル糸開発にも取り組む。

 綿糸ではサイロスパン精紡によるコンパクト糸「スプレンダーツイスト」、スペイン産ピマ綿使いのサイロスパン精紡による甘撚糸「サンリットメローズ」などの差別化糸が「着実に広がりを見せている」と言う。

 梳毛糸、紡毛糸を担当する一宮本店一部は再生ウール使い「アプリクション」やノンミュールジング羊毛使い「ローバー」など自社ブランドによる差別化糸を18秋冬向けから投入。19秋冬向けには米国インビスタの軽量・保温ポリエステル「サーモライト」を使った、ポリエステルレーヨン混糸や紡毛との混紡糸を本格発売する。

 既に見本糸供給を始めており、生地試作もスタートしたが「手応えは良い」(伊藤彰彦一部長)と言う。ポリエステルレーヨン混糸でサーモライトの軽量・保温性。紡毛混ではナイロン使いとは異なる点を訴求し、原毛価格が高騰する中、新たな切り口で提案する。

〈モリリン/化繊差別化糸に強み/メーカーと取り組みで〉

 モリリンのマテリアルグループは化繊メーカーと取り組みによるセルロース繊維、合繊を使った独自の差別化糸開発に特徴がある。

 「イトからはじまる、すべてのコトへ」を全社コンセプトに掲げるように「素材開発は当社の武器。差別化をうたえる本物志向のモノ作りを追求し、存在価値をさらに高める」(水谷智廣マテリアルグループ統括部長兼素材2部長)と言う。

 19春夏向けではキュプラ繊維とポリエステル・レーヨンの混紡糸「ポルカ」、上質リネンとポリトリメチレン・テレフタレート(PTT)繊維混「ネオリネンソロ」を重点的に訴求する。

 同時に機能糸と後加工を組み合わせた新素材も開発中。特に涼感、消臭、UⅤカットなどの機能性をターゲットにしたもので「ファッション以外にもスポーツウエア、ユニフォームにも広げたい」と意気込む。

 編み地とは異なり、織物は糸の特性を発現しにくい。差別化糸の主力である編み地向けに加え、織物向けを強化するには機能糸と後加工を組み合わせた開発、提案が重要になると言う。

 国内向けに差別化糸販売に力を入れる一方で、日本のテキスタイルの輸出にも力を入れる。

 同社の差別化糸を使った産地企業のテキスタイルやコンバーター品を中国現地法人の上海茉莉林紡織品の上海マテリアル部と連携して中国内販するのもその一つになる。「マテリアルグループと上海マテリアル部は一種の一体運営」と位置付けて強化する方針だ。また、欧州輸出については化繊メーカーと連携しながら、市場開拓に取り組んでいる。

〈泉工業/ラメ糸の新たな可能性追求/ストレッチラメ糸など開発〉

 ラメ糸メーカーの泉工業(京都府城陽市)は、“相談できるラメ糸メーカー”としてユーザーとの対話を通じたニーズの掘り起こしと、それに基づく開発でラメ糸の新しい可能性を追求してきた。最近でもストレッチラメ糸など従来になかった糸の提案を進めている。

 ラメ糸はポリエステルやナイロンのフィルムに銀やアルミといった金属を蒸着して製造する。このため後加工時にラメの変色・剥離などが起こる可能性があり、後染めや後加工が必要な生地では使用が忌避される傾向があった。

 こうした課題を克服したのが泉工業の後染め対応ラメ糸「ジョーテックス」だった。減量加工などアルカリ処理にも耐えるラメ糸として、これまでラメ糸が使えないと考えられてきた分野にラメ糸の可能性を広げた。

 最近、新たに開発した差別化ラメ糸がウレタン100%のストレッチラメ糸。ウレタンフィルムに独自技術による金属蒸着を施した。ラメフィルム自体が伸縮し、その際に蒸着したフィルムにひび割れや剥離が生じないのが特徴となる。

 従来、ストレッチ織・編み物にラメ糸を使用する際には、ラメ自体は伸縮しないため、生地が伸縮を繰り返すうちにラメが飛び出したり、切れたりする問題があった。こうした課題を克服したラメ糸として提案を進めている。

 さらに新たな開発として研究を進めているのが生分解性ラメ糸。フィルムに生分解性素材を使用することで、世界的に高まる環境素材ニーズに応えることを目指している。こうした新しい開発で、ラメ糸のフィールドを一段と広げることを目指している。