特集 商社原料・テキスタイル/キーワードは「連携」「海外」「独自性」/産地との一体感も必須

2018年09月14日 (金曜日)

 主要商社の原料・テキスタイル事業の近況は、各社によってバラつきが激しい。中国の環境規制を背景に需要が旺盛な北陸産地との商いは全体として好調な推移を見せるが、その他の産地向けはそれぞれの産地の厳しさを反映して状況が厳しい。輸出は各社で分母に大きな違いがあるものの基本的には右肩上がり。国内事業で産地との一体感を強めて独自性のある商材を開発し、海外市場を切り開く。これが、商社の原料・テキスタイル事業の本流になりつつある。

〈蝶理/糸、生地販売が堅調推移/産地と一体で海外生産拡大へ〉

 蝶理で原糸、テキスタイル、資材向け、不織布などを販売する繊維第一本部の業績が堅調だ。同本部の売り上げはここ数年、国内事業が10%増、海外事業が30%増のペースで推移しており、今期(2019年3月期)もここまでほぼ同様の推移となっている。

 北陸産地などへの原糸販売は「定番糸から差別化糸までをタイムリーに供給できている」ことが奏功して5%前後の伸び。糸加工などで産地企業と一体で設備投資を進めてきた効果に加え、定番糸では中国だけでなくインドにも仕入れ先を拡大したことなどが奏功した。

 衣料向け生地販売は、国内は横ばいも輸出や外・外が拡大中。カーシートを中心とした資材向けは5年間で取扱高が倍増するなど大きく伸長。スペース確保とモノのインターネット(IoT)導入などによる生産合理化を推進し、今後も伸ばす。

 衛材向けなど不織布販売も総じて好調で、特に紙おむつ向けがけん引している。

 一方、利益はコスト上昇を受けて総じて苦戦中な上、産地で人員不足などを背景にスペース確保が難しくなっているため需要に対応しきれないケースも増えている。そのために力を入れるのが、メード・バイ・ジャパンの拡大。

 吉田裕志取締役執行役員繊維第一本部長は「需要は旺盛ながら、作れないといった機会損失も発生している」と現状を説明する。この改善に向けて、産地と一体となってメード・バイ・ジャパンを本格化する。産地の生産品をシフトするのではなく、「産地の生産を維持拡大」した上での海外生産の拡大を構想する。

 事業拡大に向けては環境商材や独自開発品の開発、提案も生かす。

〈ヤギ/海外向け糸販売拡大に力/糸と生地の連携もテーマ〉

 ヤギで綿糸や綿生機、浴衣などを販売する営業第一本部第二部門第一事業部は、主力の綿糸販売で海外市場向けの拡大に全力を挙げる。そのためグループ内や外部との連携を密にするほか、「少しの差別化」(石塚新紀事業部長)として糸加工の充実やオーガニック綿糸への切り替えを進める。

 国内向けは産地景況の低迷を背景に総じて苦戦を強いられているが、各産地で地域密着型の取り組みを進めて維持拡大に努める。一方、社内で編成する「テキスタイルプロジェクトチーム」とも連携して糸から生地までの一貫体制を構築中で、徐々に形になりつつあるという。

 今後の成長戦略は海外市場向け。オーガニック綿糸への切り替えが進んでおり、今後もさまざまな切り口で同商品を広げていくほか、子会社の山弥織物、あるいは外部企業との取り組みによって撚糸や混紡といった各種糸加工を充実。メード・バイ・ジャパンの信頼感を伴って香港市場や中国市場向けを伸ばしていく。

 リネン糸の取り扱いにも力を入れており、スペシャリストの育成も同時並行で進め、徐々に成果を出す。「オーガニック綿糸もリネンも、世界的な視野で見れば(拡大への)大きな余地がある」と見ており、人材育成も絡めて拡販に臨む。

 現状のインド、パキスタン、インドネシアのほか、紡績工場が急ピッチで整備される新疆綿にも対象を広げる。2年前にスタートした取り組みで、既に「スピリア」という自社原料ブランドとして拡販している。こちらもオーガニック綿糸としての展開で、強撚、甘撚り、ウール混、リネン混などで展開中。

〈東洋紡STC/独自技術強みに需要創出/小口需要にも柔軟対応〉

 東洋紡STCは独自の技術を強みにした特化素材の販売を強める。国内の差別化を支える生産拠点が富山事業所だ。細番手を得意とする入善(富山県入善町)、複合糸を強みとする井波(同南砺市)の2工場に加え、織布・染色加工の庄川工場(同射水市)でわた段階での消臭や吸湿発熱の機能加工などを行う。

 富山で生産する糸の用途はシャツ、タオル、靴下、インナー、アウターなど多岐にわたる。アパレルメーカーに加え全国の生地産地やタオル産地に供給する。

 近年の衣料品消費の冷え込みを背景に小口需要が増えているため、少量多品種生産にも柔軟に対応する。顧客が継続して使う原料の場合は、顧客仕様の糸の生産に200㌔から応じる。新規原料でも1俵使い切りを条件に別注生産する。

 紡績糸の別注生産に加え、備蓄販売も手掛ける。織物販売では、主用途の一つであるドレスシャツ分野に向けて、特化素材を特定ユーザーへ安定供給する。備蓄販売する糸として認知度が高いものの一つが「マスターシード」。米ニューメキシコ州立大学と東洋紡が共同開発した、「シーアイランドコットン」とピマ綿の交配種の綿花を使った。富山で紡績、織布、加工まで一貫して行う。

 純綿だけでなく、ポリエステル長繊維、同短繊維、綿を組み合わせた3層構造糸「アルザス」や、独自のY型断面マイクロポリエステル使いの紡績糸「トライクール」使いなどさまざまなシャツ地を提案している。

 タオル専用糸の備蓄販売にも力を入れる。今年誕生100周年を迎える綿糸ブランド「金魚」の拡販に取り組む。日本エクスラン工業と共同開発した抗菌アクリル混糸「金魚AG」や今年からオーガニック綿を使った商材も投入しバリエーションが広がっている。

〈帝人フロンティア/グローバル販売を拡大/“シンク・エコ”で新領域開拓〉

 帝人フロンティアで合繊糸・テキスタイル販売を主力とする衣料繊維第一部門繊維素材本部は、これまで積極的に取り組んできたグローバル販売のさらなる拡大を目指す。世界的に環境配慮などへのニーズが高まるなか、“シンク・エコ”をコンセプトに新規領域の開拓にも積極的に取り組む。

 同本部の糸・生地販売は2018年度上半期(4~9月)も堅調に推移した。特にスポーツ素材は海外販売が順調に拡大。メガブラン向けの増加に加えて新興アパレル向けも拡大している。ユニフォーム地も国内の企業別注に加えて東南アジアでの海外案件獲得を進めた。原糸は中東民族衣装向けなどが低調ながら、インテリア用途でヒット商品が生まれている。

 東政宏本部長は「今後も各用途ともにグローバル販売を拡大させる」と話す。ファッション用途もポリトリメチレン・テレフタレート繊維「ソロテックス」の短繊維紡績糸使いなど独自素材を生かし、海外展示会にも積極的に出展する提案を強める。各用途で機能素材の融合などで新規領域の創出に取り組む。

 世界的に環境配慮などサステイナビリティーへの関心が高まる中、“シンク・エコ”をコンセプトにエコ素材の活用などを進める。ヒット商品である高バランス素材「デルタ」の次世代タイプ開発にも取り組む。

 現在、同社のポリエステル繊維生産の主力はタイ子会社のテイジン・ポリエステル〈タイランド〉(TPL)だが、TPLによる独自ポリマー素材などを活用し、織布・染色子会社のタイナムシリインターテックスなどとの連携でグローバルな一貫開発・生産体制を強みとして発揮することを目指す。

〈モリリン/本物志向のモノ作り追求/国産生地の中国内販強化〉

 モリリンは国内向けで差別化糸の販売に力を入れる一方で、これらの差別化糸を使った国産テキスタイルの輸出にも力を入れる。

 「イトからはじまる、すべてのコトへ」を全社コンセプトに掲げるように、同社は各種差別化糸の開発に定評があり、特に原糸販売を担うマテリアルグループは化繊メーカーとの取り組みによるセルロース繊維、合繊を使った独自糸を手掛ける。

 水谷智廣マテリアルグループ統括部長兼素材2部長は「素材開発は当社の武器であり、本物志向のモノ作りを追求し、存在価値をさらに高める」方針を示す。

 その一つが織物向けの差別化糸の開発になる。編み地とは異なり、織物は糸の特性を発現しにくいという点がある。このため、織物向けの強化には機能糸だけでなく、後加工を組み合わせた開発、提案が重要になると見る。

 現在、機能糸と後加工を組み合わせ、猛暑に対応した涼感、消臭、UⅤカットなどの機能性を持つ新素材を開発中で「ファッション衣料以外にもスポーツウエア、ユニフォームなど向けにも投入したい」と言う。

 国内販売に加えて、中国現地法人の上海茉莉林紡織品の上海マテリアル部と連携したテキスタイルの中国内販も課題に挙げる。

 同社の差別化糸を使った産地企業のテキスタイルやコンバーター品をマテリアルグループと上海マテリアル部が「一種の一体運営」を行いながら、拡大する。欧州輸出にも取り組む。まずは化繊メーカーと連携して市場開拓する。

〈豊島/合繊糸開発を強化/天然繊維の差別化に加え〉

 豊島は原糸販売で綿糸、毛糸、合繊糸の定番糸を備蓄し、需要家に対し適品供給するとともに、各種差別化糸の備蓄販売にも取り組む。同時に国産糸の海外販売にも力を入れる。

 一宮本店一部は梳毛糸、紡毛糸などの定番糸に加え、自社ブランドによる差別化糸を18秋冬向けから本格化した。再生ウールを使った「アプリクション」やノンミュールジング羊毛使い「ローバー」はエコや動物愛護など欧州市場で高まるニーズを踏まえたもの。

 19秋冬向けからは米国インビスタの軽量・保温ポリエステル「サーモライト」を使った、ポリエステルレーヨン混糸や紡毛との混紡糸を本格化する。ポリエステルレーヨン混糸でサーモライトの軽量・保温性、紡毛混ではナイロン使いとは異なる点を訴求するもの。原毛価格が高騰し、梳毛糸、紡毛糸価格の上昇が避けられない中で、新たな切り口を訴求。見本糸供給による生地試作でも「反応が良い」(伊藤彰彦一部長)と言う。

 綿糸、合繊糸を担当する二部は定番糸に加えて、各種差別化糸の備蓄販売に力を入れる。綿糸ではサイロスパン精紡のコンパクト糸「スプレンダーツイスト」、スペイン産ピマ綿使いのサイロスパン精紡による甘撚糸「サンリットメローズ」などの差別化糸が「着実に広がりを見せている」(天野裕之執行役員二部長)と言う。

 昨今は特に長短複合糸はじめ合繊糸の開発に力を入れる。ストレッチ性やバルキー性などを高めた加工糸の開発、資材用に向けた数色の原着糸、さらに欧州で主流のサステイナビリティー(持続可能性)を意識しリサイクル糸の開発に取り組む。