在名商社輸出座談会/スピードアップが重要課題/国内の川中支援も検討/TX輸出拡大のポイント
2018年10月24日 (水曜日)
出席者(社名五十音順)
瀧定名古屋 国際貿易推進部長兼瀧定ヨーロッパ社長 黒田 剛臣 氏
タキヒヨー 国際営業部貿易部 部長 岩田 昇 氏
豊島 十部部長 濱野 貴志 氏
繊維企業はこの数年、海外市場の開拓に力を入れてきた。繊維専門商社も同様で、テキスタイル輸出の強化に取り組み、成果を挙げつつあるが、今後さらに海外販売を拡大する上で重要となるポイントは何か。瀧定名古屋、タキヒヨー、豊島のテキスタイル輸出担当者に語り合っていただいた。
〈TX輸出は順調に拡大/北欧、イタリア、中国など〉
――テキスタイル輸出の状況をお聞かせ下さい。
黒田氏(以下、敬称略)2018年度上半期(2~7月)も順調に拡大しました。伸び率については仕向地ごとに差はありますが、特徴的なのは米国向けです。14年からの4年間で倍増の売り上げ規模になっています。それ以前の10年間は緩やかな拡大でしたので、急成長しました。韓国向けは当初の目標値を設定し、これを達成して2年経過しました。安定した半面、やや天井を打った感があります。主力であった紳士服地、婦人服地もこの2年間、ほぼ変化がありません。このため、1年半前からスポーツウエア向けを強化しています。
また、ユーザーとの接点を増やすために、9月1日付で江南地区に新事務所を設けました。紳士服地や婦人服地のユーザーに対して当社からの企画提案だけでなく、要望にきめ細かく応えられる体制に変えるためです。
欧州は15年にオランダ・アムステルダムに事務所を開設し、今年現地法人化。瀧定ヨーロッパを設立しました。この3年間で北欧、スペイン、イタリアなどの市場調査を進めながらユーザーを開拓してきました。今後は現在の取引をいかに取り組みへと変えるかが課題です。
伸び率で見ると、中国50%増、韓国10%増、台湾20%増、米国10%増と順調に拡大しています。ただ、欧州販売は2%減と唯一、数字を落としています。かつて主力であったドイツやフランス向けが苦戦しているためです。それを新規開拓した北欧やスペインで下支えしています。その面では欧州に拠点を設けた効果はありました。
岩田氏(同)当社も輸出は順調です。今年の伸び率を見ると、米国向けは40%増、欧州向けも10%増となっています。欧州向けはドイツやスペインが少なく、イタリアやフランスが主体ですが、日本を中心にアジアでのテキスタイル開発を強化してきた効果が出始めています。
天然繊維使いが中心となりますが、顧客目線でモノ作りを行い、探すとあるようでない感じのテキスタイルが欧州市場で評価されています。お客さま目線で少しだけ手を加えた、当社のエッセンスを付け加えたものです。すぐにマスでの受注にはなりませんが、一つ一つ形になってきました。
一方で、中国を含めたアジア向けは若干苦戦しています。韓国事務所の協力を得ながら、アジアで販売活動していますが、多少の伸びは見込めるものの、いまだ元決済での回収リスクがあるのと、備蓄販売も行っていませんので、われわれの中国市場の開拓はなかなか難しいものがあります。
濱野氏(同)この1年で見ると、米国向けと韓国向けが数字を落としています。米国向けは新規のユーザーを開拓できているのですが、既存の落ち込みを補えていません。逆に規模は大きくありませんが、中国向けと欧州向けは20%増で推移しています。当社も備蓄販売ではなく、その都度の商いになりますので、特徴的なモノ作りが重要になります。
特にオーストリア・レンチングの精製セルロース長繊維「テンセル リュクス」には期待しています。現在、モノ作りを進めているのですが、これが起爆剤となって欧州、中国向けをさらに増やしたいと考えています。
人員は増強していますが、まだ足りないと感じていますので、拡大手法を改善する必要があると考えています。
〈持続可能性は当然/全社ポリシーにすべき〉
――各社ごとに輸出の状況には違いがありますね。
黒田 当社は2015年までドイツが好調でしたが、それが落ち込んでしまいました。それを北欧、スペイン、イタリアなどの開拓によって欧州全体を下支えしている形です。
濱野 当社もドイツ向けは4~5年前に比べて大きく落ち込んでいます。
――ドイツ向けが極端に落ちているのはなぜでしょうか。
黒田 ここ数年はドイツアパレルが元気を落としている部分も影響しています。また当社は人材育成という観点から市場規模も比較的大きく、モノ作りの背景を丁寧に説明することによって市場拡大が期待できるドイツに若手を投入しています。そのため、現段階で数字が落ちることは一過性の現象であり覚悟していました。米国はオール・オア・ナッシング。商品の良さ以上にスピード感があるモノ作りや価格が重要になります。一方、韓国や中国は備蓄品の説得販売が半数近く占めますので、一定の数字を確保できますが、欧州は商品ありき。そこでユーザーにどのように訴えられるかを学ぶためにも、最も若い担当者を配しました。
担当が成長してきたことと、現地法人設立に伴い多角的に手を打っていますので、回復の兆しはありますし取り返します。
濱野 ドイツでは一昨年ごろから、ミセス向けのアパレルが倒産するなどの影響も受けました。トリアセテート長繊維使いやウール使いが主体なのですが、ここに来て底打ちし、若干回復基調にはあります。
――イタリア市場はいかがですか。
岩田 イタリアは良い商品さえプレゼンできれば使ってもらえる市場です。モノ作りを評価する土壌があります。ですから、セールスポイントを四つ、五つと訴求できる、自信があるテキスタイルであれば購入してもらえます。特に現地企業が作れないようなテキスタイルであれば採用してくれます。
その面ではユーザーと緊密に情報交換を行い、それを基にしたモノ作りを行い、提案し続けることが重要です。もちろん、イタリアも景気全般は決して良くありませんが、当社はメゾン系が主力ですので、その影響はまだ少ないかと思います。
――欧州市場で関心が高まるサステイナビリティー(持続可能性)ですが、フランス・パリで9月に開催された「プルミエール・ヴィジョン」(PV)でも主流だったのでしょうか。
黒田 主流というよりは当たり前になっていますね。
濱野 それしか見ないという来場者も多く、欧州ではサステイナビリティーを企業ポリシーとしているところもあります。先ほど申し上げたテンセル リュクスを使ったテキスタイルもPVではピックアップが多かった。まだ、バルクにつながっていませんが、手応えはあります。原糸生産するレンチングの紹介で「サステイナブルアングル」という展示会にも出展しましたが、そこでも引き合いは強く、その面では時流に合致していると感じています。
――欧州市場以外のサステイナビリティーに対する関心はいかがですか。
黒田 北欧は当たり前になっていますし、欧州でも広がりを見せていますが、アジアはまだまだですね。米国は少し意味合いが異なります。商業的な意味合いの方が強いです。北欧企業は経営層から素材を選択する担当者までが理解し、浸透しています。当社もそうあるべきだと考えています。輸出担当者だけでなく、国内担当者もその理解を深めないと、モノ作りが進みません。そう考えてこの半年間で取り組みましたが、かなり社内の意識も変わりました。浸透してきたと感じています。
テキスタイル・エクスチェンジによる「RWS(レスポンシブ・ウール・スタンダード)」という認証もこのほど取得しました。原料段階までトレースしていることを証明する認証です。ノンミュージングも生産量以上の供給があるという状態でしたので、それらを払拭するためにも「RWS」認証ができました。
岩田 日本はサステイナビリティーに関してはまだまだです。アップサイクルはもちろん、リサイクルもユーザーには響きにくい面があります。ただ、海外では若者、特にミレニアム世代がサステイナビリティーに関心が高く、SNSなどを通じて発信されています。当社の新入社員も同じですが、日本でも若者の意識は変わってきていると思います。
〈国内生産の縮小懸念/投資など支援の検討も〉
――さて、テキスタイル輸出の生産基盤となる日本でのモノ作りにおける課題は何でしょうか。
岩田 キャパシティーの問題があります。これまで注文したものがキッチリ仕上がるという品質への信頼感や納期通りに収めるという管理面が日本のテキスタイルの強みだったのですが、国内のテキスタイル生産のキャパシティーが減っています。それが懸念材料です。
濱野 日本には品質管理、納期管理という優位性はありますが、キャパシティーの縮小は危機的だと捉えています。設備投資の動きも少なく、特に天然繊維の産地はその傾向が強い。その面でいかにリスクを張って備蓄できるかも重要になっています。
黒田 日本に対する信頼感は絶対的にあります。例えば他国の場合、リードタイムが1カ月と言うと、60日かかってしまうケースがあった。日本は納期通り30日で納品していました。こうした納期が大幅に狂わないという意識をユーザーは持っています。また、複合素材の再現性や加工技術の高さも強みです。
しかし、国内の生産規模は縮小しています。その面では発注側がリスクを張ることで、ユーザーが求める納期でいかに収められるかが課題ですし、そのためにもメーカーと共同で取り組む必要があります。
ファストファッション全盛期にあって、日本製の高価格とリードタイムの長さは致命的でもあります。これではボリュームはもちろん、準ボリュームにもはまらない。海外のメゾンは違うかもしれませんが、値段を下げる、あるいはリードタイムを削減するためのスペックで商品開発を行う必要があります。その面でスピードアップが日本でのモノ作りにおける最大の課題となります。そのためにもわれわれのような商社が産地の川中企業を下支えする必要があると考えています。
――スペースが限られている上、さらに縮小していますので、スピードアップは難しいのでは。
黒田 その面では設備投資についても考える必要があるかもしれません。川中企業を下支えしないと、日本で作れなくなる。現在は日本の品質基準を評価し、海外生産品も日本企業から購入していますが、海外も品質は向上してきます。そうなればわれわれが関与する必要がなくなってしまう可能性さえあります。
濱野 現状は海外生産品であっても日本企業を通じて購入していますが、外される可能性はありますね。その面では当社も川中企業の設備投資に対する支援は念頭に入れています。これ以上、国内の生産キャパシティーが減ることは致命的だとも捉えていますので、何らかのお手伝いをしなければならないというスタンスです。
岩田 当社は愛知県一宮市に小さな英式紡績工場を持っていますが、そこはモノ作りを学ぶ場所という位置付けも強く、生産性にも限界がありますので今は特定のお客さまへの商品供給でフル回転の状態です。川中製造業では高齢化が進んでいますので、その継承も含めて川中への投資も検討していかねばならないでしょうね。
〈人材の拡充も鍵/優位性あるモノ作りを〉
――最後にテキスタイル輸出での各社の課題をお願いします。
黒田 輸出を拡大することは全社方針ですし、当面の目標は売上高の10%です。そのためにも人材の拡充が重要です。攻めるマーケットはあります。テキスタイルそのものは自信を持って日本を中心に開発していますので、不足はありませんが、売り込むための人員が不足しています。約10年前に輸出拡大に着手し、それと当時に語学スキルを身に着けた人材採用を始めればよかったのですが、実際に着手したのは2年前から。2~3年は国内で基礎を学ぶので時間差があり、その間をどう埋めるのかが課題です。
彼らが海外を担当するまでに活躍できるフィールドを作らなければなりませんが、開拓するための人員が不足しています。
岩田 商品知識を高め、世界市場で優位性があるかどうかを分析し、それに基づいたテキスタイルをいかにアピールできるか。日本製の良さを明確に説明できる人材が必要です。そうしないと海外はもちろん、国内での拡大も難しい。また、海外では当社のテキスタイルを実際に目にすることができるショールームのような場を作りたいと考えています。そこで商品説明ができる人材も投入しなければなりませんので、彼らを早期に育成するのが課題です。規模としてはまずは現状に比べて30%増を目指します。
濱野 テキスタイル輸出は後発ですが、原料から一貫で手配できる全社の強みを生かして2社に追い付いていきたいと考えています。
やはり人材の問題もあり、時間はかかりますが、できるだけ早期に現状の3倍にはしたい。テキスタイルに限らず輸出拡大は全社で取り組む課題ですし、ECを活用した輸出についても検討を始めています。
また、日本の優位性は近隣に中国という大消費市場があることだと思います。9月に出展した「インターテキスタイル上海」はPVよりも活況でした。
今回展ではブースを広げ、高額品ばかりを出品したのですが、来場者数は前年の倍以上。PVでの欧米ユーザーへの販売以上に拡大を期待しています。
――ありがとうございました。