2018秋季総合特集Ⅲ(4)/top interview クラボウ/デジタル技術で消費者とつながる/社長 藤田 晴哉 氏/“共創”で新規ビジネスを確立へ
2018年10月31日 (水曜日)
「デジタル技術の進歩によってモノ作りのサプライチェーンと消費者が直接つながっていく。そこでどのような価値を創造していくかが重要になる」――クラボウの藤田晴哉社長は指摘する。世界的にSDGs(持続可能な開発目標)への要請も大きい。ここでもデジタル技術の活用が不可欠になる。こうした中、繊維事業でも“モノ消費”だけでなく“コト消費”も含めた新たな価値を生み出すことを目指す。異業種との“共創”も含めて「素材から一歩飛び出すことが必要」と強調する。
――繊維産業にとって今後、大きなインパクトを与える要素は何でしょうか。
中長期的には、やはりデジタル技術の一段の進歩でしょう。これにより生産、在庫、物流などモノ作りのサプライチェーンの情報が一つになり、それが消費者ともつながることになります。もう一つは、SDGsという考え方が世界的に一気に広まり、実ビジネスでもこれを無視できなくなったことです。
デジタル技術の進歩によって“コネクテッドインダストリーズ”、さらには“ソサエティ5・0”といった概念も登場しました。こうした社会構造の変化の中で、どのようにして付加価値を創造し、課題解決していくのかということが企業活動にとって重要になっています。そのためには生産、在庫、物流など各工程の“見える化”が必要になります。どこまで情報をオープンにするのかは別として、それを可能にする仕組みが必要になります。工場も自動化やAI(人工知能)の活用によってスマート・ファクトリー化せざるを得ません。そうすることで、例えばモノ作りのグローバル化が進む中で自社工場でなくともシステムを導入すれば自社工場と同じモノ作りができる。その上で、消費者ともつながることでマスカスタマイゼーション(多品種大量生産)にどのように対応するのかということになります。
SDGsに関しても各企業がそれぞれの立ち位置の中で、何を目指し、何をやるのかが問われる。そして、それを社会に対してアピールすることも重要になります。当社の場合、早くから環境憲章を制定し、グループ行動指針も定めるなど環境やサステイナビリティー(持続可能性)を重視した事業運営を実践してきました。ゼロエミッションやISOの自己宣言も実行しています。問題は、こうした取り組みや姿勢をビジネスとしてどのように展開するか。その一つが“もったいない”から生まれた“もっといい”をコンセプトに縫製工程で発生する裁断くずを再資源化する「ループラス」です。単なるリサイクル商品で終わらせてはいけません。ネットワークを構築し、回収・再生・販売のモデルを作ることが大切になります。
――2018年度上半期(4~9月)が終わりました。
グループ全体では売上高、営業利益とも、ほぼ横ばいで推移しており、もう少し伸ばしたかったというのが正直なところです。事業別に見ると繊維事業は国内外ともに苦戦しました。原綿価格上昇や原燃料高の影響も大きく、減収減益で推移しました。化成品事業は自動車関連の需要が旺盛なことで増収となります。ただ、利益面が厳しく前年並みにとどまっています。環境メカトロニクス事業はエンジニアリング分野で前期にあった大口案件がなかったことで減収でしたが、半導体関連の需要が旺盛でエレクトロニクス分野が好調です。工作機械分野も悪くありません。このため環境メカトロニクス事業の営業利益は前年度を上回っています。
――繊維事業の中身としてはいかがですか。
ユニフォームは堅調でした。機能性とファッション性を両立した商品の販売が拡大しています。ただ、この分野はコストアップを価格に転嫁するのが容易ではありません。このあたりが課題です。カジュアルは上半期に苦戦しましたが、下半期からは需要期となりますので巻き返しに期待しています。デニムは「クラボウデニム プライムブルー」の戦略商品である色落ちしにくいデニム「アクアティック」の販売が本格化してきました。特に最近では欧米でレーザー加工時の水使用量を削減できることへの評価が高まっています。原糸は厳しい環境でした。特に国内の産地で糸需要が一段と減退しています。
――18年度下半期以降の課題は何でしょうか。
今期は中期経営計画の最終年度です。「収益拡大に向けた事業変革」という基本方針は、ある程度は成果が出ていると見ています。ただ、数値目標の達成にまで至っていないところが課題です。目標を達成できた分野もあれば、できなかった分野もあります。ですから、今下半期はよく分析して今後に向けてPDCAサイクルをしっかりと回していくことが重要になります。繊維事業については、独自技術から生まれた商品を成長させることが必要です。ループラスや、生体情報の計測で熱中症対策などに活用が可能なスマート衣料「スマートフィット」などのビジネスモデルを確立することです。繊維も消費構造の中心が“モノ”から“コト”に変化しています。そうなると、自社単独の力だけでは限界があります。異業種も含めた他社との“共創”が極めて重要になってきます。スマートフィットも大阪大学や信州大学、日本気象協会、KDDIと共同研究・開発を進めています。新商品開発やスマート・ファクトリー化、生産管理技術の高度化とグローバル技術支援も課題。そこで今年新設したテキスタイルイノベーションセンターの役割が重要になります。
――次期中計の構想は。
「収益拡大に向けた事業変革」という基本方針は継承します。その上で世の中にないものを作る。そのためには“素材”から一歩飛び出すことが必要です。新しい価値を創造することで世の中に貢献することが目標です。
〈私のお気に入り/久しぶりに見てみたい圓通寺の庭園〉
「京都・岩倉に圓通寺というお寺がある。ここの庭園が大好き」と言う藤田さん。圓通寺は、元は後水尾天皇の山荘だった名刹(めいさつ)で、その庭園は比叡山を借景とした名作として名高い。藤田さんが初めて訪れたのは大学生のときで、京都に遊びに行ったときはドライブの目的地の定番として何度も足を運んだ。「庭園の面白さは、見え方がいつも異なること。それは、見る人の在り方が変化しているからだろう」。ちなみに社長に就任してからはまだ訪れていない。「久しぶりに見たいね。何か大悟があるかもしれない」と笑う。
〔略歴〕
(ふじた・はるや)1983年入社。群馬工場長、鴨方工場長、化成品業務部長などを経て2012年取締役執行役員企画室長、13年取締役常務執行役員企画室長、14年から社長。