不織布新書18秋(3)

2018年09月27日 (木曜日)

〈東レ/高次加工や特殊素材活用/アジア最大級の供給力生かす〉

 東レの不織布事業は2018年度上半期(4~9月)も好調に推移した。ポリプロピレンスパンボンド(PPSB)は紙おむつ需要の取り込みが成功しており、ポリエステル(PET)SBもフィルター用途を中心に販売を伸ばす。今後は高次加工の技術導入や特殊素材の活用で不織布事業のさらなる拡大と高度化を目指す。

 PPSBは現在、韓国のトーレ・アドバンスド・マテリアルズ・コリア、中国の東麗高新聚化〈南通〉、インドネシアのトーレ・ポリテック・ジャカルタのいずれも旺盛な紙おむつ需要を背景に堅調な生産が続く。さらに中国では19年度には東麗高新聚化〈仏山〉の稼働を予定しており、インドも新工場建設に向けた動きが進む。

 ただ、「紙おむつは中国の需要が予想ほど伸びていない。世界的にエアスルー不織布との競合も激化している」(松下達不織布事業部長)として、今後は滋賀事業場の開発設備やテキスタイル・機能資材開発センターとの連携で高次加工技術を導入した高付加価値品開発に力を入れ、「アジア・ナンバーワンの供給力を生かす」と話す。

 PETSBは引き続きフィルターが重点用途となる。環境規制の強化によって新興国を中心にフィルター需要の拡大が期待できるため。新規用途の開拓にも力を入れ、自動車の製造プロセスで使用されるフィルター部材なども開発する。

 ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維はバグフィルター用途で拡大を目指す。特に中国は東麗繊維研究所〈中国〉と連携した技術サービス体制が強み。PPSを応用した難燃・遮炎不織布「ガルフェン」も評価が高まっており、航空機部材などで採用の動きがある。今後はインテリア用途にも力を入れる。

〈三井化学/「エアリファ」拡販に力/来春には3極供給体制へ〉

 三井化学の不織布事業部は、柔軟高強度不織布「エアリファ」の販売拡大に取り組む。2017年5月に開発し、今年夏からタイの製造子会社で本格生産に入った。来春には中国での製造も開始する予定で、日本を含めた3極での供給体制が整う。紙おむつなどの衛生材料向けでの成長を狙う。

 エアリファは、柔らかさと強さを兼ね備えた、肌に優しい高機能不織布。独自のポリオレフィン紡糸技術を駆使して繊維を薄肉の中空構造とすることで、ソフト感や均一性を高めた。この薄肉中空構造によって使用するプラスチック原料の削減を可能にし、地球環境への負荷軽減にもつながる。

 海外では、タイの製造子会社であるミツイ・ハイジーン・マテリアルズ〈タイランド〉(MHM)で本格生産に入り、日系企業向けで一部商売も始まった。年産1万5千トンの不織布製造ライン(1ライン)を全量エアリファに切り替えることが可能で、20年春までに2ラインをエアリファ化する計画。

 来年の春には中国の三井化学不織布〈天津〉(MCNT)でも生産を始める。1ライン・1万5千トンの製造設備でエアリファを作る。来春には3極での供給体制が整う。

 子供用紙おむつ向けの不織布は需要の伸びが期待できる国・地域での生産(地産地消)を基本的な戦略とし、インドでの生産も念頭に置く。

〈ダイワボウポリテック/SLの販売が順調に拡大/付加価値化で成長図る〉

 ダイワボウポリテックは、スパンレース不織布(SL)の販売を伸ばしている。コスメティック関連や除菌シート(ウエットティッシュなど)向けが順調で、2018年上半期(4~9月)は前年を上回る水準で推移している。今後も高付加価値化に注力し、一層の成長を目指す。

 SLの伸長は、安定した品質力がけん引役になっているほか、「多層構造タイプなど世の中にない商品の開発・提案」(同社)が奏功した。中でも拡大を見せているのが、フェースマスクや制汗シートなどのコスメティック分野で、その比率は全体の35%(販売数量ベース)になった。

 コスメティック分野には引き続き注力し、3年後には50%に引き上げる。ただ、中国品や台湾品の台頭も予想されており、高付加価値品の提案による差別化で存在感を示す。高付加価値化は播磨工場(兵庫県播磨町)内の播磨研究所と連携を深め、わたから開発する。他社とのアライアンスも視野に入れる。

 同社の不織布関連事業では、エアスルー不織布用熱融着性複合繊維とインドネシアのダイワボウ・ノンウーブン・インドネシアのエアスルー不織布を展開する。エアスルー不織布用熱融着性複合繊維は設備増強(従来の年産2万8千トンに、8千トンをプラス)を実施し、今年5月から操業を開始している。

〈宇部エクシモ/「エアリモ」本格販売/一層の細繊度化も視野〉

 宇部エクシモ(東京都中央区)は、ポリオレフィンコンジュゲートわた「エアリモ」を2019年度から本格販売する。一部テスト的展開を始めているが、薄さや軽さ、強度などの特徴が評価を得て、顧客の評価は高い。同社は市場浸透への期待感を強めている。

 エアリモは、「世界一の細さを誇る」ポリオレフィンコンジュゲートわた。鞘部に低融点樹脂、芯部に高融点樹脂を用いた芯鞘複合繊維でありながら0・2デシテックスの細繊度を実現している。このわたを使うことで1平方㍍当たり目付3㌘の不織布の生産ができる。緻密さも特徴となり、産業資材用途を中心に耳目が集まっている。

 フィルター分野やマスク用途などを中心に来期から一気呵成(かせい)に拡販を図りたいとし、順調にいけば生産設備の増設も行う。既に0・15デシテックスの生産も可能にしているが、最終的には「0・1デシテックスの商品化を目標」(同社)に置いている。0・1デシテックスは高機能フィルター用途や他の用途にも広げる。

 主力の衛生材料不織布向けでは、芯部がポリプロピレンで鞘部がポリエチレンの熱融着複合繊維「UCファイバー」の訴求にも力を入れる。不織布加工時の熱で油剤が繊維中に潜り込む(脱油)タイプや不織布加工後に超撥水(はっすい)・撥油(はつゆ)性能を発揮する商材などもそろえる。

〈東洋紡/新商品の採用が拡大/自動車用途も堅調続く〉

 東洋紡の機能性不織布の採用が拡大している。強みの分子配列制御技術による物性の改質など素材開発の成果が上がり始めた。

 同社はポリエステルスパンボンド(SB)不織布大手の一角を占める。2018年上半期もフル稼働が続くなど好調。自動車用途が堅調で「米国でのSUV(スポーツ用多目的車)ブームが不織布の使用量拡大の追い風になっている」(田中茂樹スパンボンド事業部長)と分析する。

 トノカバー向けの販売も拡大した。塩ビ代替として採用が拡大しており、同社は中国での委託生産でもVOC(揮発性有機化合物)規制に対応していることが強みになる。

 新たな動きがあるのが機能性不織布。ポリエステルSBに重金属イオン吸着材をコーティングした重金属イオン吸着材「コスモフレッシュNANO」が建築発生土(残土)の仮置き場などで採用され始めた。日本は土壌中に自然由来の重金属が多く、残土の仮置きや再利用で重金属が流出しないように処理することが法律で義務付けられた。こうしたニーズに対してコスモフレッシュNANOの性能が評価された。

 そのほか、グループ会社のユウホウが製造する導電性ニードルパンチ不織布も遮水シートの水漏れ検知用部材として販売が拡大する。「特徴のある機能を持った新商品の開発を進める」ことが基本戦略となる。

〈フロイデンベルグ・スパンウェブジャパン/靴資材向け本格化/リサイクルへの評価高まる〉

 台湾のフロイデンベルグ・ファーイースタン・スパンウェブの日本販社であるフロイデンベルグ・スパンウェブジャパンは、主力のカーペット基布や建材向けポリエステルスパンボンド不織布に加えて靴資材など新規用途の開拓で成果を上げ始めた。

 同社の2018年上半期の販売は、売上高、数量ともに増加するなど好調だった。特に建材向けは競争力を発揮することで拡販が続く。カーペット基布も競合他社と異なるタイプの開発品の販売が拡大している。

 新規提案を続けてきた靴のソール材や靴紐を通す穴部分の芯材など靴資材でも大きな成果が上がり始めた。メガブランドの2019年モデルから本格採用される見通しとなり、今後の大口受注が期待できるという。

 16年に台湾の工場で生産工程に生じる端材やB反をチップに再原料化するリサイクルラインを更新したことへの評価も高まる。海外では“サステイナブル”(持続可能な)への意識が急速に高まっていることが追い風となる。

 台湾工場は3号機の増設も決定しており、20年4月以降の稼働を計画する。このため「カーペット基布、建材・フィルター、靴資材を三大用途とすることで増設分の販売拡大を目指す」(城福淳平社長)。日本独自に積層タイプなど複合化による付加価値品開発にも力を入れる。

〈ユニチカ/新規用途を開拓へ/要素技術の研究にも重点〉

 ユニチカは、ポリエステルスパンボンド(SB)不織布、コットンスパンレース(SL)不織布ともに新規用途の開拓に取り組む。また、不織布製造に関する要素技術の研究にも力を入れる。

 同社の不織布事業は2018年上半期(4~9月)も増収増益で推移するなど好調が続く。17年にタイのSB製造子会社であるタスコで3号機を増設したことによる増産効果に加えて、産業資材用途が堅調だった。SLも衛材やコスメなど生活資材用途で拡大した。

 同社では引き続き需要は堅調に推移すると見ており、タスコの3号機もカーペット基布向けを中心に生産拡大と稼働率向上が見込まれる。このため通期でも増収増益を確保することを目指す。

 一方、「既存用途だけにあぐらかいていては事業の将来はない」(吉村哲也執行役員不織布事業部長)として新規用途の開拓に取り組む。例えばタスコで生産する成型用SB「マリックスAX」はプレス成型することでさまざまな形状、薄さ、重量にできる。樹脂と比較して軽量性や剛性、通気性にも優れることから、樹脂代替の用途開拓を狙う。

 「次世代の不織布の開発に向けて要素技術の掘り起しも進める」として、ポリマー、シート化、仕上げそれぞれの基礎研究を同社の中央研究所と連携して取り組み、新領域の開拓につなげることを目指す。

〈タピルス/技術開発に磨きかける/海外市場開拓にも視線〉

 メルトブロー不織布(MB)を製造・販売するタピルス(東京都港区)は、エアフィルターと液体フィルター、マスク、電池セパレーターを主用途に展開を図っている。それぞれが順調な動きを見せるが、技術開発に継続して取り組み、存在価値を高める。

 フィルターは今後も重点分野と位置付ける。独自の帯電技術を駆使して機能を高めた商品や極細のポリプロピレン繊維を使った商品、30マイクロメートルの極太糸使いなど幅広いラインアップを武器に攻める。

 同社が展開するフィルターは、低圧損で高い集塵(しゅうじん)効果を得られるなど省エネルギー化につながる。高い機能を誇る商材は市場でも好評で、技術開発力にさらに磨きをかける。技術開発によって生まれた商品や機能向上で他社と差別化し、「タピルス」の価値を幅広い顧客に浸透させる。

 さまざまな樹脂を用いたMBも市場に投入している。熱可塑性樹脂であれば基本的に不織布にすることができ、耐熱性に優れるポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂やポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂のほか、生分解性樹脂(ポリ乳酸)を使った製品の提案も進めている。

 グローバル展開も加速。タイの自社工場は順調な稼働状況にあるが、海外市場への供給拠点としての役割は十分ではないとし、同拠点を基軸とした販路開拓を進める。