特集 人工皮革/サステイナブルを志向/海外戦略を加速

2018年11月21日 (水曜日)

 人工皮革の世界的な市場規模は銀付き1億平方メートル、スエード8千万平方メートルとの試算があり、今後も天然皮革の代替需要やカーシート地での需要増を背景に2019年度には2億平方メートルを突破するとみられている。ファッションやインテリア用途にはかつての勢いが見られないものの、カーシート分野を中心とする旺盛な需要を背景に、人工皮革メーカーは拡大戦略と取り組んでいる。高級車を中心に今後もカーシート地に人工スエードを採用する動きが加速するとの見方が強く、今後は中国、インドといった新興国で生産される高級車のゾーンをにらんだ海外戦略も加速されそうだ。サステイナビリティー(持続可能性)を意識した企画提案も活発になってきており、環境に配慮した原料、製法を改めてアピールしていこうとする機運が高まっている。

〈東レ/ウルトラスエード/ファッションでの取り組み強化/3~5年でフル稼働へ〉

 東レは現在、「ウルトラスエード」の生産能力を現行の1・6倍となる年産1千万平方メートルへと増強する設備投資を進めている。

 2018年度上半期はフル生産・フル販売を達成。現在の用途構成は、カーシート35%、コンシュマーエレクトロニクス25%、インテリア15%、衣料10%、その他15%となっており、増設後は「カーシートを中心とする拡販で3~5年後にフル稼働させたい」考えだ。

 ターゲットとする高級車の需要はクルマ全体を上回るペースで伸びるとみられている。さらに、カーシートだけでなくドアパネル、インストルメントパネル、天井、ステアリングなどへも部位が広がることで、1台当たりの使用量増大も期待できるため、「しっかりとした設備投資で需要増を取り込んでいきたい」との意欲を示している。

 東レは衣料素材としての開発・販売にも力を入れており、スエードの質感と適度な光沢を両立させた「ウルトラスエード・ヌー」を前面に衣料商戦に臨んでいる。

 ベースクロスの極細繊維に再生ポリエステルを使うエコ素材もラインアップ。インテリア向けの販売を先行。19秋冬からファッション素材としての販売を立ち上げる。

 「プルミエール・ヴィジョン」や「ミラノ・ウニカ」では「『ヌー』のサステイナブルな特徴が高い評価を受けた」と言う。

 衣料素材としてさらに浸透させるため、国内外のデザイナーや専門学校とのコレボレーションを積極化させており、アオイ・ワナカ、多摩美術大学、エスモード・ジャポン、北京服装学院などへの素材提供や、特別授業と取り組んでいる。

〈旭化成/ラムース/日米伊連携で海外戦略を加速/第4系列導入に意欲〉

 旭化成は2017年度、主力のカーインテリア向けや資材、エレクトロニクス向けの販売が好調で、年間を通じてのフル生産・フル販売を達成した。2018年度も引き続き好調を持続しており、カーインテリア向けを中心とする事業規模拡大を計画する。

 現在、ラムース工場で3系列目を導入する増設工事を進めている。現行の年産600万平方メートルを同900万平方メートルへと増強。来年上半期からの操業を予定している。

 増設中の設備を早期にフル稼働させるための取り組みを強化しており、欧米日の各パートナー企業と共に「グローバル市場での拡販に充てたい」と言う。

 かねて伊ミコと連携し、欧州連合(EU)域での商圏拡大と取り組んできた。欧州の高級車メーカーが人工皮革の継続的採用に意欲を示していると言い、今後もミコとの協働を強化しEU域でのシェアアップを目指す。

 米セージには技術者を派遣し、ラムースを安定的に加工する体制構築を進めており、セージを経由する取り組みで北米OEM向けの拡販を計画する。

 最近の環境問題や規制強化などで、ラムースの持つ環境親和性がカーインテリアに限らず、さまざまな分野で着目されつつある。今後も単に生産能力を引き上げるだけではなく、環境に配慮した原料構成や製法へと高度化していく予定。

 旭化成は19年度にスタートさせる次期中期計画の策定を進めており、早くも次の増設を構想。「次期中計では4系列目の増設を提案できるよう先々の事業環境を見据えていきたい」との意欲を示している。

〈帝人コードレ/コードレ/フィルムタイプが好調/通気性「エアリー」打ち出す〉

 帝人コードレは、「コードレ」をシューズやボールなどのスポーツ用途、紳士靴、婦人靴、ランドセル、かばんなどの資材用途に展開している。

 2018年度上半期はフル生産・フル販売を達成。売り上げで10%強の増収を達成したという。

 3~4年前に販売を立ち上げたフィルムタイプの販売が順調に拡大しており、今ではコードレ全体の20%前後を占める基幹素材に成長させている。

 靴下状の合繊ニットにフィルムやソールを貼り付けて作られる新しいサッカーシューズの製造方法に対応し開発した素材。

 つま先の摩耗強度、ベースクロス(合繊ニット)への追随性、剥離強度、ボールコントロールのしやすさなどが特徴となっている。

 このフィルムタイプはワールドカップクラスの選手が使用するサッカーシューズのトップゾーンで大きなシェアを占めているといい、今後も欧米メガブランドへのアプローチを強化し、シェアの維持・拡大を目指す。

 18年度上半期はサッカーやバスケットといったボールゲーム向けの販売も好調に推移。欧州のあるサッカー・プロリーグの公認球に採用された。

 数年前に一般靴やランドセル用途での販売を立ち上げた「コードレ・エアリー」の販促も重視。人工皮革らしからぬ優れた通気性をアウトドアを中心とするスポーツ用途へ売り込んでいく。

 最近は「環境をうるさく言われるようになってきた」ため、再生ポリエステル使いのコードレの特徴、溶剤を使わない「フリード」を改めて打ち出し、「横展開と取り組んでいきたい」と言う。

〈クラレ/クラリーノ/エコでの立ち位置見つめ直す/新たにヌバック調「ロベニカ」〉

 クラレは国内に年産1550万平方メートルの、中国(ヘーシンクラレ)に同1500万平方メートルの生産設備をそれぞれ構え、「クラリーノ」を靴やランドセル、バッグ、ITアクセサリーなどの用途に販売している。

 このほど国内向けにヌバック調の新素材「ロベニカ」をラインアップ。来シーズンからの店頭展開をにらみ、婦人靴やバッグを中心とするラグジュアリーゾーンに売り込んでいく。

 中国では、環境規制が強化された影響で、ヘーシンクラレでの増設が当局からの認可待ちの状態となっていた。その後、ほぼめどが立ちつつあり、「年明けにも2系列を導入する設備投資に着手したい」と考えている。

 クラレは製造工程から有機溶剤を一掃した環境に優しい新製法で生産する「ティレニーナ」の販促に力を入れている。

 当初はなかなか稼働率が上がらず苦戦を強いられていたが、ここに来て注目されるようになってきており、中計最終の20年度でのフル操業を狙う。

 しかし、無溶剤だけでエコを主張するのは不十分との認識を示しており、今後はプラスアルファとしてのリサイクルも取り入れながら、「環境に優しいとはどういうことなのか、今一度、当社の立ち位置を整理し、改めてエコ素材であることを訴求したい」と言う。

 18年1月から中期経営計画をスタートさせており、初年度は「原燃料高騰でコスト面が厳しいが、販売量は順調に拡大している」。当面、コストアップを転嫁するための値上げを重視しており、採算の低いアイテムからユーザーとの値上げ交渉をスタートさせた。