特集 コットン・ルネッサンス(1)/綿回帰への追い風吹く/商社に聞く/どうなる綿花相場

2018年12月11日 (火曜日)

 マイクロプラスチックによる海洋汚染問題を契機に生分解性などを持つ環境配慮型繊維素材への注目が急速に高まった。このため汎用性に富む綿素材への追い風が吹く。この好機を生かす“コットン・ルネッサンス”に向けて、商社に綿花相場の現状を聞くと同時に、有力綿紡績の取り組みを紹介する。

〈東洋棉花 代表取締役 岡田 光生 氏/米中対立影響も需給は固いか〉

 ――2018~19綿花年度の綿花市況をどのようにみていますか。

 ニューヨーク定期市場は7月に1ポンド80~90セントを付けていたものが11月は70セント台にまで下げています。この理由をどのように理解するか。17~18綿花年度の世界期末在庫が8039万俵。世界消費は1億2328万俵、生産は1億2370万俵でした。これに対して18~19年綿花度の期末在庫は7261万俵、世界消費は1億2688万俵、生産は1億1939万俵と予想されています(11月段階)。つまり消費が伸びているのに対して生産は減少し、在庫も減少している。需給バランス的には価格が上昇するのが自然です。

 ところが、やはりここに来て米中貿易戦争の影響が顕在化していると見るべきです。綿花の最大消費国である中国が米国の関税措置への対抗として米綿にも関税を課したことから、輸入が細ってきました。一部で米綿へのオファーにキャンセルも出ています。

  ――米国以外からの輸入が増えることになりませんか。

 実際にそうなっています。中国は今季、89万トンの綿花輸入枠を設定していますが、さらに80万トンの輸入枠が追加設定されました。このため米国以外の国で生産されている綿花が買い進められています。この影響が綿花相場全体にどのような影響を与えるかでしょう。

  ――米国はハリケーンの影響も大きい。

 米綿の今季収穫量は1841万俵と予想され、前季から約250万俵の減少です。しかし、輸出も1500万俵と予想され、前季から85万俵の減少。収穫量減少で本来なら需給バランスがタイト化するはずですが、そこに米中貿易戦争による輸出減少が起こる。このため相場も全体としては弱含みながら、需給バランスは意外と固いという奇妙な均衡が起こっているのが今の状態かもしれません。

  ――世界的に環境問題へ意識が高まっています。

 脱プラスチック、脱合繊の流れがあり、綿花にとっては追い風でしょう。今すぐではなくとも、中長期的には大きな影響があると考えています。

  ――今後の戦略は。

 国内の取引先はフェース・トゥ・フェースで取り組む重要なパートナーです。オーガニックやトレーサビリティー(追跡可能性)を確立した綿花など高付加価値品への関心が高いですから、それらをきちんと提供することが重要。一方、グローバル市場に対しては、強みであるアジア市場を重視します。特にベトナムやインドネシアでの拡販に力を入れます。

〈豊島 執行役員 十二部部長 軽部 亮太 氏/米中貿易摩擦で不透明〉

  ――2017~18綿花年度(17年8月~18年7月)を振り返っていただけますか。

 米国農務省によると、17~18年の世界綿花生産高は1億2370万俵と前季比16%増となりました。その中で米綿は2092万俵と前年に比べて2割強の伸びと供給量は増えましたが、中国の買い意欲が高まる気配から綿花ビジネスは活発でした。

 中国は昨年、今年と備蓄綿花を放出してきました。元々、年間100万トン強の綿花を輸入する中国ですが、在庫が適正化することによって、綿花輸入量は2~3倍に膨らむのではないかという見方が強まり、早めの原料手配から先物も抑えられてニューヨーク綿花定期相場は上昇。6月には1ポンド当たり95セントに達しました。

 しかし、7月以降は下げに転じました。米中貿易摩擦問題が顕在化したことがその要因です。当初、綿花は対象品目から外れていましたが、追加関税が課されました。10%程度の課税であれば為替相場で吸収できるとの見方もありましたが、25%では需要家も手が出せない状態に陥りました。さらに中国製の縫製品にも10%追加関税がかかったことが追い打ちをかけ、中国における米綿需要は一気に冷え込みました。

 中国は89・4万トンのクオータがあり、縫製品を再輸出するのであれば関税率1%で綿花輸入は可能ですが、追加関税がかかった縫製品の輸出に対する先行き懸念が強まり、需要家の買い意欲は弱まった形です。

 米綿に代わりブラジル、豪州、インドの綿花を調達する見方もあり、トレーダーはその手当てを進めました。しかし、その米綿以外もストップ。ベトナムやバングラデシュから中国への綿糸輸出も滞り、両国の綿花需要も弱含みました。前年の活況さを背景に早めの手配が行われていたこともあります。しかも、新綿が出る中で、トレーダーは古綿の現金化に向けて投げ売りも始めており、相場の下げ圧力になっています。

  ――それを踏まえて18~19綿花年度はどのように動くとみていますか。

 米国農務省によると、米綿は作付面積が増えたものの、ハリケーン被害で収穫量は1840万俵と減る見通しです。

 綿花相場は米中貿易摩擦の影響を受けていますが、1ポンド当たり75~80セントのレンジで動いています。

 これは農家にとっても良い水準です。今後も価格変動や天災次第ではありますが、米綿生産量は2千万俵超えが定着していく可能性があると考えています。

  ――供給量が増える一方で、中国需要が弱い状態です。

 現実的には中国は綿花を買わなければならないのですが、実際には買えていない。10月の89・4万トンに続いて追加80万トンのクオータを出しましたが、枠は余るかもしれません。やはり、今の米中貿易摩擦が解消されるかどうかが大きな問題ですが、それはまだ読めません。その面では先行きは不透明な状態が続くとみています。