特集 環境新書(3)/有力繊維企業/環境への取り組み

2018年12月07日 (金曜日)

〈先駆け「ビスコテックス」/サステイナブル生産を/セーレン〉

 セーレンのデジタルプロダクションシステム「ビスコテックス」は1989年に発表、90年から量産体制に入った。その機能と効果は、現在のサステイナブル(持続可能な)モノ作りの先駆けであった。

 同社は11月に「20春夏セーレンスポーツ商談会」を東西で開いた。クール、ドライ、コンフォート、パフォーマンスアップとスポーツシーンに要求される四つの機能性を着て体感できる高機能・高快適スポーツ素材を提案した。その中のパフォーマンスアップとして、パワー&通気コントロール素材「ビスコマジック」が紹介された。

 ビスコマジックは特殊設計で作られた素材と、特殊ビスコテックス処理との融合による多段階着圧コントロールファブリック。多彩な柄との組み合わせで、幅広い着圧レベルが設定できる。ウエア設計上で必要となる着圧コントロールリスクにも対応可。着圧変更による縫い目がないため、肌当たりが少ないストレスフリーでもある。

 小ロット・短納期・カスタマイズできるビスコテックスシステムは、同一生地でのサイズ展開で生地ロスの削減が可能になる。無駄なものを作らないという点でも今の時代が求めるものを具現化した。

〈合繊に替わる選択肢/トレーサブルレーヨンも注目/レンチング〉

 レンチングの再生セルロース繊維「テンセル」への注目が世界的に高まる。マイクロプラスチックによる海洋汚染などが問題となる中、合繊に替わる選択肢としてテンセルの存在感が高まってきた。

 テンセルはコンポストや土壌中だけでなく海水中での生分解性もあり、国際認証も取得した。合繊がマイクロプラスチックの発生源として懸念される中、合繊代替素材として引き合いが急増している。

 例えば、合繊フリースは起毛加工して製造することからマイクロプラスチックの発生源とされる。これを代替する形で、テンセルのフリースが欧州を中心に増加している。同様に縫い糸やインナー向けトリコットなど従来は合繊が主流だった用途にテンセルを採用する動きが強まる。

 廃棄綿布などをパルプ化して原料とするリサイクルテンセル「リフィブラ」の普及にも取り組んでおり、ZARAやリーバイス、パタゴニアなどが採用した。

 トレーサブルレーヨン「エコベーロ」も注目。ビスコースレーヨンに特殊な処理を施したもので、原綿にエコベーロを使用した糸、生地、製品は特殊な方法で分析することによって実際にレンチングのレーヨンが使用されているのかを確認することができる。

〈サステイナブル訴求/エコから範囲を広げて/豊島〉

 豊島はオーガニックコットンを通じて地球環境に貢献する「オーガビッツ」プロジェクトを推進する。19秋冬に向けてはサステイナブル(持続可能な)素材として、オーガニックコットン×リサイクルポリエステルなどトレーサビリティー(追跡可能性)認証を取得した安心安全素材、エコファー、リユースダウンなども提案する。

 リサイクルポリエステルとの組み合わせでは、オーガニックコットンのほか、動物愛護の観点からノンミュールジングウールとの複合もある。エコだけでなく、より広範なサステイナブル素材として開発する。リサイクルナイロン使用タイプも投入する。中わたでも糸状のわたで、洗濯しても型崩れが起きにくい「グースリー」、リユースダウン「ウイルサイクルダウン」を提案。動物愛護の観点ではエコファー、ボアも展開する。

 日本環境設計の繊維製品からポリエステルを再生するケミカルリサイクル技術を使った「ブリング」プロジェクトにも参加。この再生原料使用Tシャツも来春に販売する。

 食品廃棄物を再活用するプロジェクト「フードテキスタイル」も推進している。「サステイナブルは企業にとって不可欠なものになる」と言う。

〈川中、川下へブランド訴求/廃水処理システムも提案/双日〉

 双日は、販売を担当するレンチングの再生セルロース繊維「テンセル」「ヴェオセル」「レンチング」のブランディングに力を入れる。染工場廃水の脱色など廃水処理システムの取り扱いもスタートした。

 レンチングは今年、再生セルロース繊維のブランドを再編し、衣料用をテンセル、不織布原綿をヴェオセル、産業資材向けをレンチングとする新たなブランド戦略を実行している。販売を担う双日もレンチングと連携しながら、特に川中と川下に向けてブランドの訴求に力を入れる。中でもヴェオセルは新規立ち上げのブランドとなるため認知度向上を進める。

 レンチングの再生セルロース繊維の生分解性や木質原料によるサステイナブルな素材である点を打ち出し、環境への意識の高まりに対応した需要の掘り起こしを進める。

 一方、レンチング素材の販売とは別に国内の機械メーカーとの取り組みで廃水処理システムの取り扱いも開始した。一般的な活性汚泥法とは異なる方式の処理システムであり、脱色やCOD(化学的酸素要求量)やBOD(生物的酸素要求量)の削減が可能。廃汚泥が少なく、エネルギー消費も少ない。こうした新規システムを染工場などに提案することで繊維産業の環境負荷削減を支援する。

〈生分解性や調温機能に焦点/「ホープ」ブランド再構築/オーミケンシ〉

 オーミケンシは、レーヨンの生分解性や機能性を前面に打ち出した開発と提案を強化し、同社のレーヨン短繊維ブランド「ホープ」シリーズのブランド再構築を目指す。

 マイクロプラスチックによる海洋汚染問題を背景に生分解性のあるレーヨンへの追い風が強まったというのが同社の認識。このため今後はレーヨンの生分解性を前面に出しながら、合繊を代替できる物性や機能を実現する開発に力を入れる。

 重点テーマの一つが調温機能レーヨンの開発。他素材との組み合わせも含めて、スポーツや中わた材など、従来は合繊が主流だった用途で環境を意識した販売戦略によってレーヨンのシェア拡大を目指す。同社は折り鶴をレーヨンに再生するなど廃紙のパルプ化とレーヨン化のノウハウも持つ。こうした技術を生かした開発も進める。

 計画的な森林資源活用を確認する森林認証(FSC)も取得するなど原料面でも環境配慮を重視するほか、レーヨンの生産プロセスでの環境負荷低減にも取り組む。加古川工場の石炭ボイラーで燃料の一部を廃プラスチック燃料に切り替えるなどサーマルリサイクルにも取り組む。

 こうした取り組みを通じた開発と提案で、同社のレーヨン短繊維のブランドである「ホープ」のブランド再構築に取り組む。そのために今年、上級グレード品として「ホープ極」シリーズを打ち出した。今後もホープ極のバリエーションを拡大する。その一つとして生分解性を高めたタイプなどの開発も進めている。

 衣料用途だけでなく不織布原綿や製紙用ショートカットファイバーの用途にも積極的に提案することで、環境配慮型素材としてのレーヨン需要の掘り起こしに取り組む。

〈機能レーヨンで合繊代替/“リビング・ウィズ・ネイチャー”打ち出す/ダイワボウレーヨン〉

 ダイワボウレーヨンはSDGs(持続的な開発目標)を積極的に事業戦略へ組み入れる。その一環として、新たに“リビング・ウィズ・ネイチャー(自然と共に生活する)”を同社のレーヨンのコンセプトメッセージとして打ち出した。

 メッセージでは、レーヨンが生分解素材であり、木質原料によるカーボンニュートラル素材であること、さらに原料の木材も計画的に管理されていることを紹介する。そのために森林認証(FSC)なども取得している。

 そのほかにも繊維製品の安全性に関する国際認証である「エコテックス規格」や、米国農務省が再生可能資源から製造した製品を認証する「バイオベース製品認証」を取得するなど第三者による認証を積極的に活用する。

 生産プロセスにおける環境負荷低減にも重点的に取り組み、主要原料と副原料のリサイクルと副生品の再利用に努めるなどレーヨンがサステイナブル(持続可能)な繊維素材であることを広く知らせることにも取り組む。

 さらに3R(リデュース、リユース、リサイクル)に“リプレイス(置き換える)”を加えた「3R+R」という考え方を提唱する。化石原料素材の使用をできる限り減らし、レーヨンなど生分解性を持つ再生原料素材への代替を進めることで低環境負荷の循環型社会を目指す。

 そのために機能レーヨンで合繊の機能を代替することに取り組む。今年開発した撥水(はっすい)機能レーヨン「エコリペラス」も量産がスタートした。マイクロプラスチックによる海洋汚染問題などを背景に世界的に脱プラスチック、脱合繊の機運が生まれる中、衛材などの分野で合繊の機能の一部を代替できる機能レーヨンとして提案を進める。

〈「エコプロ」に出展中/環境配慮のモノ作りを/YKK〉

 YKKは6~8日、東京ビッグサイト東ホール(東京都江東区)で開かれている「エコプロ2018」に出展(ブース番号№5―025)している。第20回目となる今回のエコプロは「SDGs(持続可能な開発目標)時代の環境と社会、そして未来へ」をサブタイトルにした。YKKはブースで「エネルギーを上手に使おう」「資源を大切にしよう」「自然を次世代に残そう」をテーマに、体験型展示を行っている。

 欧米を中心にファッション業界もサステイナビリティー(持続可能性)が潮流となっている。エコプロでも環境問題を中心にさまざまな社会で発生している問題や課題を解決するイベントとして多くの企画を実施。持続可能な社会構築を目指す。

 YKKはエコプロに初回から継続出展。今回も身近で使われているYKKの商品を紹介する。ファスナーを作る工程での資源リサイクルの取り組みや環境を守る工夫などを訴求。リサイクルファスナー「ナチュロン」、植物が原料のファスナー「グリーンライズ」、水を使わない染色「エコダイ」といったものだ。

 富山県黒部市での、ふるさとの森・水辺づくりの取り組みも紹介している。

 エコプロは一般の来場者が多く、展示では「触る」「遊ぶ」要素を組み込むことで、テーマパークのような空間を演出した。ゲームをしたり、動かすことのできる遊具型の展示や体感実験機に触れたりしながら、遊び感覚で楽しくYKKグループの環境に配慮した商品やモノ作りを知り、体験できる。

 同社は「グループの環境配慮型商品や環境への取り組みを、行政、企業、子供たちや一般消費者の方々に理解していただくことで、企業ブランド、商品ブランドの認知と向上を図りたい」と言う。

〈リネンをブランディング/素材特性で差別化支援/帝国繊維〉

 ナチュラル志向やサステイナビリティー(持続可能性)の観点からも関心が高まるリネン。帝国繊維は日本のリネン産業のパイオニアとして、数千年続くリネン文化を含め、誰が・どこで・どう作ったかに焦点を当てた素材のブランディングを強化している。

 例えば市場にはフレンチリネンが多く出回るが、同社が提案するのは「サフィラン」のフレンチリネン。サフィランはリネン大国フランスで240年続くリネンの紡績メーカーで、ルイ16世やナポレオンなどの庇護を受けたこともある。

 そのほか、フラックス(リネン原草)から生地までトレーサビリティー(追跡可能性)を確立した「テレデラン」、異素材複合の「アルケミックリネン」、日本の製織・加工に特化した「ニッポンリネン」、カラートップ糸が特徴のイタリアのリネン紡績メーカーによる「リニフィッチオ」、リネンの起源であるエジプトを訴求した「エジプシャンフラックスファイバー」、自社の名を冠した定番の「テイセン」をラインアップ。

 こうした素材背景や歴史的知見を生かしたブランディングが、差別化を求めるアパレルやセレクトショップなどに受け、今期(2018年12月期)も前期比増収の見通しだ。

 アルケミックリネンでは、帝人フロンティアの「ソロテックス」と複合した高ストレッチのリネン糸を開発。これを利用したパンツが今春夏、大手セレクトショップで大ヒットした。現在“高いストレッチ性を備えたリネン”として織り・編みで特許を申請中。サフィランなどとコラボした生地や製品も仕掛け、提案の幅を広げる。

 製品OEMでは寝装品やタオル、パジャマに加え新たに帆布のバッグも打ち出す。今後も各ブランドの世界観を生かし、素材から製品まで一貫性のある提案を追求する。

〈環境配慮+高品位を追求/オーガニック綿の強み一段と/大正紡績〉

 大正紡績はオーガニック綿糸を中心に環境配慮と高品位を追求するモノ作りのパイオニア的存在であり続けた。こうした強みを一段と強化する。綿花農家、機業・ニッター、アパレルとチームを構成することでサステイナビリティー(持続可能性)とトレーサビリティー(追跡可能性)を確立したモノ作りを今後も推進する。

 同社は米国の契約農家からオーガニックコットンを調達しているが、改めて農家との関係強化を進めている。加えて新たに複数の綿花農家ともオーガニックコットン調達で提携を結ぶなど調達ソースを拡大した。より安定的な原綿調達が可能になる。そのほか、インド、トルコ、アフリカでも綿花生産者と連携することでオーガニックコットンの調達ソースを拡大してきた。

 トレーサビリティーの確立にも力を入れる。そのためオーガニック素材の認証である「グローバル・オーガニック・テキスタイル・スタンダード(GOTS)」を取得している。大正紡績だけでなく、綿花栽培農家やジニング業者、そして大正紡績のオーガニック綿糸を採用する機業・ニッター・染工場、アパレル・流通とも連携し、原綿から最終製品までトレーサビリティーが確立したモノ作りに取り組む。

 サステイナビリティーやトレーサビリティーだけでなく、綿製品としての品質や品位にもこだわることでプレミアム素材としてのオーガニックコットンを市場に認知さることでも成果を上げる。米国超長綿「スーピマ」やインド超長綿「スビン」のオーガニック綿など最高級素材をラインアップするほか、紡績工程で発生する未利用綿(落ち綿)を再利用した「ラフィ」も高い人気がある。未利用綿の活用という環境配慮型素材であることに加えて、独特の糸表情への評価が高い。環境配慮と高品位を融合する同社のモノ作りへの注目が一段と高まる。

〈次世代ミシンでスマート化/工場の電力削減に貢献/JUKI〉

 ファッション業界のスマートファクトリー化に向けてさまざまな新機種を投入しているJUKIは、2016年に国内外で発売したダイレクトドライブ高速本縫自動糸切りソーイングシステム「DDL―9000Cシリーズ」で工場内の作業時間を短縮し、電力削減に貢献している。

 本縫いミシンは、縫製工場で数多くの台数が稼働するものの、素材に応じた最適な縫い目に調整するのが課題だった。JUKIでは、「アパレル縫製工場は扱う素材が何十種類もあるので、素材が変わるたびにその調整作業を行っている。時間を要するのが喫緊の課題だったが、同システムを採用することで大幅に時間短縮が可能になった」と説明する。

 同機は、本縫い自動糸切りミシンの最上位モデルで、縫い目を形作る五つの駆動をミシン本体のタッチパネルから数値を入力し、データを記憶することができる。数値化した縫い調整データをタブレットに蓄積し、ミシンのパネルに近づけるだけでデータの転送も可能だ。

 こうした「通信機能」を使いながら、段取り作業時間等も短縮し「照明器具、空調などの電力の削減につながる」(JUKI)とする。グローバルに展開する企業や工場からの評価は高く、データの共有に威力を発揮。品質の安定化が容易になったことで、生産性も高まったと言う。

 同社は通信機能を搭載したミシンをほかにも用意。高速電子閂止めミシン(ソーイングシステム)「LK―1900BN」、高速電子本縫いボタン付けミシン「LK―1903BN」、高速電子眠り穴かがりミシン「LBH―1790AN」、電子鳩目穴かがりミシン「MEB―3900」、高速腕型3本針二重環縫ミシン「MS―1261A/DWS」が代表的な機種になる。今後も次世代ミシンで電力削減に貢献する