新春対談/繊維は面白い/川中だって最先端!

2019年01月04日 (金曜日)

シバタテクノテキス株式会社 社長 柴田 和明 氏×茶久染色株式会社 社長 今枝 憲彦 氏(社名五十音順)

 繊維企業は炭素繊維をはじめ先端材料の開発に力を入れている。ただ、それは大企業だけではない。最先端を走る中小の川中繊維製造業も少なくない。ファッション衣料用の毛織物が主体の産地である尾州も同様。導電繊維や導電性織物という先端材料の開発に取り組む、茶久染色(愛知県一宮市)の今枝憲彦社長とシバタテクノテキス(同)の柴田和明社長に先端材料への参入のキッカケ、開発から販売までの課題、今後の展望などについて語り合っていただいた。

〈10年前から開発/電気通す糸、生地〉

  ――まずは、それぞれの会社の概要をご紹介ください。

 今枝氏(以下、敬称略) 当社は1916年創業で、3年前に100周年を迎えることができました。元々、綛(かせ)染めから始まり、チーズ染色に広げてきました。カーシート地用の糸染めを主力に手掛けて業容を拡大したのですが、近年は大衆車のカーシート地が後染めにシフトし、先染め糸は差し色に使うぐらいに減少しました。高級車もモケットから天然皮革に変わる中でシート地用としては電車・バス向けが主体となっています。このため、衣料向けにも用途を広げて昨今は染色だけでなく、さまざまな機能加工にも力を入れています。

 柴田氏(同)当社の創業は1948年で、昨年70周年を迎えられました。創業者である私の祖父が戦後、地元に戻り、闇市で衣料品などの取引を始め、それで得た資金を元手に織物販売を始めたと聞いています。しかし、売るよりも作る方が良いと判断し、織物生産を始めたそうです。1989年ごろに現在の場所に工場を移し、2001年には会社組織になりました。私が家業を手伝い始めたのが02年ごろです。

  ――それぞれ導電繊維、導電性織物への参入のキッカケは何だったのですか。

 今枝 10年ほど前にカーボンナノチューブのコーティング(CNT)糸を開発したのですが、元々はクラレリビング(大阪市北区)さんから、カーボンナノチューブの分散液を紹介され、これをポリエステル長繊維に付けてほしいとの要望があったのが始まりです。当時、炭素繊維(カーボンファイバー)は知っていましたが、CNTは全く知りませんでした。しかし、先端材料なので関わっておくべきと判断し、開発に着手しました。

 柴田 当社が導電性織物を手掛け始めたのもリーマン・ショックの頃です。全くやるつもりはなかったのですが、その少し前に形を残すシャツ地の依頼があり、そのためにステンレス繊維を使った織物を生産していました。その頃に大阪大学の方が当社を訪れ、ある構造の物を作ってほしいと。それは織物が理想的な構造ということでした。しかし、手掛けてみると、非常に細いポリエステル長繊維を使う。しかも品質も厳しい。それを何とか仕上げて納めました。そこで「何に使うのですか?」と聞くと、「メッキを施して電気を通せば電磁波シールド材になる」と言うことでした。通常、シールド材は電磁波を反射するのですが、これは電磁波を吸収するということでした。

 完成品は展示会に出すということだったので面白そうだと思い展示会を見に行きます。すると、電磁波シールド材として織物が提案されており、需要があると分かりました。そこで自らやってみようと思いました。ステンレス繊維を使った織物を作れば電気は通る。ただ、電磁波シールド材では後発ですので、注目され始めていたウエアラブル素材なら、元々衣料用に織物を作っており可能性があると考え、本格的開発を始めました。

〈自社で試作機を開発/抵抗値下げて電線用も〉

  ――それぞれ開発の苦労があったのでは。

 今枝 CNTの分散液は墨汁のような見た目は液体の黒い染料に似たものでした。ですから簡単にできると思っていたのですが、1㌔のチーズ染色機で付けようとしても付かない。結局、手でこねるようにして何とか付けることはできたのですが、これが面白いとなってもう少し量が求められました。このため、自社で試作機を開発し、連続的にCNT分散液をポリエステル長繊維に付与することに成功します。

 その商品をクラレさんが09年にドイツ・フランクフルトで開催された世界最大の産業用繊維・不織布の見本市「テクテキスタイル」に出品しました。CNT糸はそれまで夢のある素材として世界的に注目されるものの、応用開発がされていませんでした。それが繊維に付与することで最終製品に一歩近づいたわけです。

 話題になりましたし、反響は大きかった。一般紙にも大きく取り上げられ、注目を集めます。そこで量産化に動き出しました。北海道大学も含めた産学官連携の「地域イノベーション創出研究開発事業」に応募・採択され、2年間の助成金を得て当社に専用設備を導入しました。

 柴田 CNT糸はチーズ染色機を使っていないのですね。

 今枝 マルチフィラメントのコーティング糸です。チーズ染色機では分散液が繊維の中にまで入り込みません。分散量に違いがあると、抵抗値も変わってしまいますので、全ての糸に分散液を浸透させる必要があります。そのCNT糸を緯糸に使用し、経糸に電極を通せば発電することも分かり、これを生かして融雪用ヒーターとして、製品を作り北海道大学で実証実験を行います。融雪用ヒーターでは主流のニクロム線使いとの比較も行い、データを取ると、全面で発熱するので効率も良かった。

 それが評価され、当社、クラレリビング、北海道大学、松文産業(福井県勝山市)のチームとして「ものづくり日本大賞」を受賞することもできました。しかし、軽くてしなやかなという特徴がある半面、高価格でニクロム線使いにはコスト的に勝てませんでした。現在、融雪ヒーターは丸紅情報システムさんを通じてNEXCO中日本のETCレーンに使っていただいているぐらいです。

 一方で、抵抗値を下げることで電線への応用も考えました。電線は難しくても、信号線は可能ではないかとして開発に取り組み、現在はヒーター用に「Qnac―T」に加え、電線用「Qnac―S」を商品化しています。共に当社が商標登録して独自に販売しているものです。電線用は、ヘッドフォンで音を聞け、映像を映し出すことも可能です。特徴は軽くて屈曲疲労に強い点。屈曲試験も行いましたが、何度やっても切れません。先に被覆が切れました。

〈着用できる電子部品/「面白いね。何に使う?」〉

 柴田 当社はステンレス繊維を使い電気を通すが、見た目は普通の布という導電性織物を、着用できる電子部品として打ち出しました。展示会にも出展したのですが、皆さん「何これ。面白い」と言ってくれましたが、同時に「何に使うの?」「どう使うの?」との反応です。そこで悔しく、導電性織物を使ったセンサーを自ら作って、使い方の提案も始めます。

 スピーカーも試作しました。音が出る布としてさまざまな場所で紹介するのですが「面白いね。でも何に使うの?」と言われてしまった。それでも続けていると、知らぬ間に、導電繊維や導電性織物を知っている人がどんどん増えてきて「何これ?」から「知っている。これか」と変わり始めます。特にこの2~3年は導電繊維を知った上で試作依頼が増えてきました。しかも自動車やメディカル、家具などさまざまな業種から。何に使うのかは教えてもらえないところもあります。試作が増えていますので、これからの量産を期待しています。ただ、電気に詳しくても繊維を知らない人が多い。例えば織物サンプルを送ると、「端がほつれている」とか。

 今枝 シバタテクノテキスさんは導電性織物のみを販売しているのですか。

 柴田 現在は導電性織物よりも、導電繊維の要望が多いですね。糸もお分けしています。その際はメートル単位で販売します。

 今枝 導電繊維はキロ単位ではなく、メートル単位で販売することが重要ですね。繊維業界の常識にとらわれる必要はありません。電線はメートル単位で販売されていますから。ところで、導電繊維に何を使っているのですか。

 柴田 ステンレス繊維からスタートしましたが、信号を通すために銅線も使います。ただ、金属繊維が入ると織物が硬くなりますので、風合いを求められる時は銅箔をメッキしたスリット糸も使っています。用途によって使い分けています、

  ――茶久染色さんのCNT糸は使っていないのですか?

 柴田 お話はよくお聞きしていますし、抵抗値を変えることもできるので驚いていました。使ってみたいとは考えていましたので、今回、今枝社長と直接お話しすることができましたので何かコラボレーションできればと考えています。抵抗値を変えることができると、抵抗器が作れますし、コンデンサーのような仕組みもできる。さらにコイルまで行けば、三つの電子部品がそろうので繊維だけで電気製品ができます。少なくともAMラジオは可能です。

〈繊維を知れば変わる/コイル状でモーターが夢〉

  ――ウエアラブル素材は大手繊維企業の事業化もあって注目度が高まっていますが、中小の川中繊維製造業としての課題は何でしょう。

 柴田 企業の大小に関係なく、導電繊維、導電性織物は皆、販路開拓に苦労していると思います。最終的な使い方がまだ定まっていないからです。どう使えば良いのか。こちらからも提案する必要があります。当社では東京・秋葉原の電気部品メーカーで基盤を作ってもらい、布をスナップボタンでつなげたセンサーキットを作り、秋葉原や大阪の日本橋の電気屋街で販売しています。使ってもらう機会を増やすためです。こうした場所には電気技術者がよく訪れています。技術者が知らなければ広まらないと考えたからです。技術者は電気工作が趣味の人もいますので。また、草の根ではありませんが、小学校の電子工作や工業高校の教材に使えないかも検討しています。

 今枝 当社は元々、大手企業との取り組みからCNT糸をスタートしたので、販売は任せて生産技術と性能向上に集中してきました。ただ、開発時にウエアラブルという言葉はなく、導電繊維と言えばワーキングウエアに使う制電防止用ぐらいでしたが、今はウエアラブルという言葉が普通に使われる時代です。ウエアラブル素材は作業者や高齢者の見守りなどさまざまな可能性がありますから、現在は自社ブランドを設けて自ら用途開拓にも取り組んでいます。

  ――中小企業もウエアラブル素材を手掛けています。競合は激しいですね。

 柴田 大手企業にPRしていただいていますので、導電繊維や導電性織物を知っている異業種は増えています。ただ当社への問い合わせもニーズがさまざま。スペックも異なります。そのニーズに応えられるだけの引き出しを幾つ持てるかも重要です。中小でできるのは細かいニーズを聞き、具現化できること。そのための蓄えが必要です。

 今枝 マーケット規模もあります。異業種からの問い合わせも、いきなり大量ということはありませんから、大手企業では対応しにくい。そこは中小企業の方が細かい対応は得意です。もちろん、当社もいきなり大量発注されてもできません。ですから、互いに必要なマーケットサイズがあり、それがマッチするところとの取り組みが良いと考えています。

 柴田 ウエアラブルは華やかですが、導電繊維や導電性織物は結局、裏方の仕事です。開発者が壁に当たった際、選択肢に導電繊維が上がってくる時代にはなってきました。最初は大手企業にたどり着く。そこから、さまざまな理由で当社のような中小企業が選択肢の一つとして浮かび上がれば良いと考えています。

  ――最後に導電繊維、導電性織物に対する夢を語っていただけますか。

 柴田 異業種にはまだまだ繊維を知らない人の方が多い。それは当然ですが、衣料品でも糸や織・編み物を知ることでデザインが変わりますが、電気技術者が繊維を知ればモノ作りの形も変わると思います。最終的には導電糸をコイル状にしてモーターを回せるぐらいにはしたいですね。

 今枝 当社も導電糸でコイルを作り大きなモーターを回せるようにまでしたいと考えています。そうすれば軽量モーターになるので、社会が大きく変わります。ぜひ、やってみたいですね。そう考えると、繊維はまだまだ可能性はあります。

 柴田 技術的には磁性糸もやりたいと考えています。電気と磁石は微妙に関連しています。今はまだ開発段階ですが。

  ――繊維は面白い材料ですね。ありがとうございました。