繊維ニュース

スマートウエアが街にやって来た/実用化に向け採用広がる

2019年01月04日 (金曜日)

 繊維製品による新たなソリューションとして注目されるスマートウエア。多くの繊維企業が開発に力を入れており、ここに来て実用化に向けた採用も増えている。スマートウエアに取り組む企業とスマートウエア商品の現状を追った。

〈東洋紡/「ココミ」/データビジネス参画も目標〉

 スマートウエアの材料として最も重要な性質は激しい屈曲を繰り返しても導電性など電子材料としての特性を失わない耐久性とフレキシビリティーだろう。こうした課題をクリアする素材として東洋紡が開発したのが「COCOMI(ココミ)」。元々は化成品として開発した導電性ペーストを伸縮性のあるシート状にし、スマートウエア用素材として実用化を進めている。

 2013年から14年にかけて文部科学省のプロジェクトとしてスポーツによる国民の健康維持に関する産学官共同研究がスタートした。その中で運動中の生体情報をリアルタイムでモニタリングするスマートウエアの開発もテーマとなっていた。そこで有効な材料として注目されたのがココミ。激しい運動をしても電極部が肌の指定部位に密着し続ける追随性を確立した。そこには東洋紡の衣服シミュレーション技術も活用されている。

 こうしたココミの特徴が、意外な用途での実用化につながる。16年に動物向けセンサーソフトウエア開発・販売のアニコール(横浜市)が、競走馬の心拍数測定用腹帯カバーにココミを採用した。競走馬が全力疾走しても生体情報を安定的にモニタリングできる。

 17年には計測機器などに強みを持つユニオンツール(東京都品川区)と長距離ドライバーの居眠り運転検知システムも共同開発。現在、運輸会社などと実用化に向けたテストとデータ収集が続けられている。東北大学東北メディカル・メガバンク機構と「産後うつ」研究向け妊婦用スマートテキスタイルを共同開発し、メディカル用途でも実績を作りつつある。

 一方、現状では電極部材としての素材販売にとどまっていることがココミの課題。スマートウエアの場合、従来の素材・製品売り切り型ビジネスから、IT分野で主流となりつつあるサブスクリプション方式(利用権販売)への対応が不可欠との見方が強い。この点に関してココミの開発を担当する繊維機能材生産開発部の作田光浩主幹は「当社単独ではハードルが高い。サブスクリプション方式のビジネスに取り組んでいるパートナー企業と連携して取り組む。場合によっては資本参加などもあり得る」と話す。

 もう一つ、東洋紡として重視しているのがデータビジネスへの参画。スマートウエアは収集した膨大なデータから必要な情報を算出するアルゴリズムの開発が重要になる。東洋紡はこれまで「衣服内気候」研究で培った生理計測のノウハウがある。これを生かし、現在も総合研究所(滋賀県堅田市)のコーポレート研究所でアルゴリズム開発が進められている。

 今後、ココミを糸口にIoT関連ビジネスへの参入などにも取り組む。

〈東レ/「ヒトエ」/クラウドからアプリに転換〉

 東レが「hitoe(ヒトエ)」の開発に着手したのは2013年。シルクと導電性樹脂との組み合わせでスマートウエアの開発に取り組んでいた日本電信電話(NTT)との共同開発をスタートさせた。

 当時、東レは生体情報の可視化へのニーズが高まるのに伴い、「いずれウエアラブルの時代が到来する」と見通していた。

 東レ、NTTは14年3月に、装着するだけで心拍数、心電波形などの生体情報を取得できる機能素材ヒトエを開発・実用化したことを発表している。

 ヒトエは、電気を通す導電性高分子を含浸させたポリエステルナノファイバーによるストレッチニット。

 通常のポリエステルでは着用や洗濯の繰り返しで導電性高分子が脱落してしまうものの、ヒトエの場合は細かな隙間に入り込んでしっかり固着されているため、長期間の着用や繰り返し洗濯に優れた耐久性を示すという。

 このヒトエの裏側に着用者の心臓を挟む形で二つの電極が取り付けられている。身体に密着し、心臓の近くでデータを集められるため、リストバンド型やほかのスマートウエアなどに比べ「正確に心電波形をとれるのがヒトエの強み」と言う。

 価格は「ヒトエみまもり用ウエア」が1万円。ヒトエで収集したデータをクラウドまで転送するための「ヒトエトランスミッター」が1万円。

 東レは16年の夏から「ヒトエ 作業者みまもりサービス」の提供を開始。サービスには心拍数などの取得、クラウドシステムを活用した取得データの可視化、危険が推定される可視化項目を取得したときのアラート(警報)の発信――が含まれており、利用料は月額4千円となっている。

 例えば、建設現場の労働者をモニタリングすることで、平常時と異なる状態にあることが判明し、その状態が危険かもしれないと判断されたときにアラートを発信する仕組みとなっている。

 現場作業者を抱える建設業、工場ワーカーを抱えるメーカーなどから引き合いを集め、これまでに数万着の販売実績を積み重ねてきた。

 見守りサービス第1弾では、取得したデータをクラウドに転送するシステムを採用していたが、年明けからスタートさせる第2弾では、コストのかかるクラウドから個人のスマホにシステムトータルをインストールできるアプリに切り替える。システムの利用料は未定。

 現在、東レや関係会社のスタッフが建設業や製造業などの企業を訪問し、ヒトエの販促と取り組んでいる。

 スマートウエア、ウエアラブルに対する「関心は高まってきているが、まだまだこれから」と今後も地道な活動を強化し、ヒトエの普及・拡大を目指す。

〈クラボウ/「スマートフィット」/農業・漁業・林業へも普及めざす〉

 クラボウは進化を続けるモノのインターネット(IoT)技術と繊維で培ってきた技術とを組み合わせ、「何らかの形で社会貢献ができないか」を模索してきた。

 当時、いろいろと騒がれていた熱中症対策に特化したリスク管理システムの開発をスタートさせ、スマートウエア「スマートフィット」を開発した。

 まず、2017年3月、大阪大学や日本気象協会、信州大学などと産学連携プロジェクトを立ち上げ、「スマートフィット」を使った200人規模のモニター調査を5月から実施すると発表した。

 屋外や高温・多湿な環境での作業を強いられる建設業や運輸業。暑熱環境下での作業リスクを減らすための対策が求められており、クラボウは心拍センサーなどが備わったスマート衣料の活用で作業者にリスクが高まっていることを知らせるシステムの具体化を目指した。

 同年5月から9月にかけて、主に建設現場の作業員にスマートフィットを着用してもらい、心拍の状況、衣服内の温度、加速度を測定した。

 データをスマートフォンでクラウドサーバーに送信。作業エリアの気象条件もミックスした解析アルゴリズムで作業中のリスクをリアルタイムで推定し作業者や作業管理者に通知することを目指すもの。

 集めたデータは延べで7千人分となり、このデータを基に暑熱作業リスクのアルゴリズム、体調変化推定のアルゴリズムの開発を大阪大学などとともに進めた。

 熱中症を発生させる主要なリスク因子である熱ストレスと作業負担を指標化できることが分かり、この指標を使い作業者ごとのリスクをリアルタイムで評価できるようにした。

 この成果を踏まえ、引き続き建設会社や運送会社の協力を仰ぎながら、10月から2回目のモニター調査を実施。前回の7千人分のデータを詳しく解析するとともにリアルタイムの気象情報も連動させ、現アルゴリズムの精度を向上させた。

 そして、暑熱環境下での作業リスク管理を支援するシステム「スマートフィット フォー ワーク」を完成させ、18年5月から受注を開始するに至った。

 人工知能(AI)機能が搭載されており、心拍や加速度といった個人データが蓄積されていくため、その人の普段の状態と例えば就業中の状態とがどう違うのかが分かる。

 初期設定費用が1ユーザー当たり3万円、月額の費用が6千円、スマートフィットシャツが4千円となっている。

 ウエアラブル関連の展示会などへの出展で販促活動を進めてきたほか、ホームページなどを通じ問い合わせてきた顧客との個別商談を強化してきた結果、建設業を中心に約20社から受注があったと言う。今後は建設、製造、運送、警備の4業種や農業、漁業、林業に従事する作業者への普及を目指す。

〈ミツフジ/「ハモン」/月額制で使いやすく浸透〉

 ミツフジ(京都府精華町)が展開するウエアラブルIoT製品のトータルサービス「ハモン(hamon)」が活躍の場を広げている。建設業や製造業、運送・物流業などでの採用が増え、今後はスポーツやファッション分野でのOEMも拡大する。そのほか、IT関連企業との連携によるグローバル展開の強化も図る。

 ハモンは、銀メッキ導電性繊維を素材にしたIoTウエアラブルデバイスから、着用者の心拍などの生体データを収集し、それによって得られたさまざまな情報を健康管理や従業員見守り、介護・福祉、スポーツ・コンディショニングなどに活用するサービスを提供する。買い取り制と月額料金制の二つで販売している。

 特に伸びているのが月額料金制。1ユーザー当たりの料金は5千円(法人向け)で、これにはウエア6枚とトランスミッター1台、システム利用料金が含まれている。建設業や製造業、運送・物流業などが主要ユーザーで、体調管理や眠気の予兆などに利用されている。買い取りと合わせて年間数億円の規模に育ってきた。

 三寺歩社長は「ユーザーからもっと精度を上げてほしいとの声がある」とし、そうした要望に応えていく。位置情報と体の状態を同時に把握し、眠気に対する分析ができるソフトウエアを開発しているが、「(眠気を)30分前に感知できるようにするのが努力目標。複数の要因が絡んで発生する事故の抑制につなげたい」と強調する。

 現在伸びている分野・領域に加え、業務提携などによって医療関連や介護現場への浸透にも視線を注ぐ。さらにスポーツとファッション分野ではOEM戦略も加速する。スポーツ分野での需要は当然ながら、「消費者とのタッチポイントを拡充したいと考えるファッションアパレルが増えており、好機到来」と見ている。

 昨年には日本IBM、日本情報通信と連携し、ハモンのクラウド・プラットフォームにIBMの産業用IoTソリューション「IBM Maximo Worker Insights」を採用した。このIoTソリューションはクラウドで全世界でのサービス提供が同時にできるため、グローバル企業の顧客のビジネスを支えることができる。

 供給面では昨年9月に操業を開始した福島工場(福島県川俣町)が比較的順調な立ち上がりを見せ、3カ月間で約2万着の生産を済ませた。三寺社長は「これまでは投資(1人当たり年間6万円)に対する効果を慎重に見極めている企業も多かった。ただ、これからの半年(2019年1~6月)では導入する企業が確実に増えてくる」と予想している。