転機を好機に変える PV・MU レビュー(5)/産地企業の戦い方は
2019年03月04日 (月曜日)
「プルミエール・ヴィジョン(PV)ファブリック」と「ミラノ・ウニカ」(MU)には多くの産地企業も出展する。厳しさを増す納期対応や小ロットの要望は生地商社以上に悩ましい。それでも、出展企業の大半が一定のめどとされる3年以上の出展を重ねて常連に仲間入り。「日本ならでは」のモノ作りを評価する固定客を得て、評価を現地ニーズに丹念に適合させ商機につなげている。
10年近くPVに継続出展する坪由織物は、レンチングが新たに投入した精製セルロース長繊維「テンセル リュクス」使いのトリコット地、織物を今回初披露。ナイロンと交編・交織した生地は「シルク以上の光沢感」と大好評だった。実は今回、「送付トラブルでトレンドフォーラムに1点も生地が掛からず」来客は減ったが、メゾン系の既存客はほぼ来場。この数回はブロッサムPVも絡めた体制で固定客をしっかりつかむ。
通算8回MUに出展してきた福田織物は今回、新基軸を打ち出し、昨年の5割増のスワッチ依頼を得た。出展品の3分の1を「色では絣(かすり)、原料ではヘンプ、組織では刺し子が軸」の新作生地に置換。メインで出展してきた綿細番手高密度の先染め織物で一定の評価を得て「オンリーワンも自負するが、いずれ絶対に他国、他産地の類似品が出る」。“和”調が色濃い複数要素の掛け合わせで「単なる和調でない」新テイスト創造を目指した。実は刺し子組織は出展当初も展示したがバイヤーの目には留まらず。出展を重ね、日本固有の技術要素を欧州人の好む文脈に組み替えるコツをつかんだ上での新挑戦が成果を生んだ。
メーカー兼コンバーターのサンコロナ小田は、希少なポリエステル極薄地織物の圧倒的品番数の備蓄品で新規客を引き付ける従来の訴求に加え、商談の「質」重視へ軌道修正を図る。深耕を図るファッション用途を念頭に、綿・麻の緯糸交織品も含めてポリエステルサテン地のバリエーションを拡充した。同時に、商談内容を詳細に記録する特注ソフトを備えたタブレット端末で来場者の傾向・要望を見える化。顧客との息の長い取り組み構築を目指す。「来場者は減ったが、それでも200件超。一方、商談の質、具体性は確実に上がった」
こうした努力の一方で、国内の織り・編み、加工のリードタイムが厳しくなる。海外相手では特に「素材にほれ、待ってくれ、計画性もある顧客しか相手にできない」。そうした姿勢の強い海外メゾンも「実際の発注数量はせいぜい中量産程度。しかも品番ごとの数量は減る傾向で、継続出展の費用対効果は小さくなった」という声も漏れる。
ただ、「表地向けのシルク薄地をハイエンド製品の裏地に」「組織が評価され生機が欲しい」(MU出展者)など予想外の要望に出会えるのも海外展ならでは。「国内アパレルへの宣伝効果も確実にある」。産地からの団体出展以外に中伝毛織が単独で春夏展に出展を続ける文脈も同じ。「実際の取引は結果的に同じ出展者でもある国内商社経由でも構わない。重視するのは、世界に向けた企業名と素材のアピール」。他のMU出展者とのコラボ出展など新たな取り組みの糸口にもなった。産地企業にとって、商談の場にとどまらない波及効果も継続出展を続ける理由になる。