特集 尾州産地総合(1)/ウール軸足に進化する尾州産地

2019年03月27日 (水曜日)

〈輸出や春夏強化で繁閑差是正〉

 尾州産地はウールを中心にさまざまな天然繊維に加え、最近では合繊との複合素材へのシフトも進んでいる。用途もファッション衣料がほとんどだが、一部では産業資材に手を伸ばす企業もある。素材から用途まで多様化しており、ウールを軸にしながらも年々進化している。尾州の現況や課題を探った。

 毛織物を得意とする尾州では秋冬向けの受注や生産量で業績が大きく左右される。そのため多くの企業は19秋冬向けの受注が今後も継続するかどうかを注視している。ただ現状では、暖冬による店頭不振の影響で「5月連休明け以降は不透明」という声が大勢を占める。

 18秋冬向けは急激な冷え込みによって受注が増加。後継者不足によって生産キャパシティーが縮小している中、受注が一気に集中したため納期遅れなども一部で発生した。その反省を踏まえて19秋冬向けは早めに発注が入ったという経緯がある。

 ファッションはトレンドだけでなく、天候や気温にも大きく左右されるため、尾州の企業は不安定な操業にならざるを得ないのが実情。しかも、秋冬向けの依存度が高く春夏向けが低い。安定した工場の稼働ができず、今後は繁閑差の是正も必要になってくる。

 その打開策の一つが衣料用途以外の開拓。産業資材向けはもちろん、雑貨や小物向けへの展開もあるだろう。そして、もう一つが輸出。2月に日EU・EPA(経済連携協定)が発効し、生地輸出がしやすい環境が整った。尾州の生地は欧州と比べて品質が高いという声もあるぐらいだ。

 ただ、輸出となるとサステイナビリティー(持続可能性)の打ち出しは避けて通れない。先進的な欧州では、エコやエシカルといった考えは根強い。近年、尾州の中でもサステイナビリティーをうたった商品を提案する企業は増え始めている。

 もちろん単純に春夏向けを強化すれば、繁閑差の是正につながる。ウールは高い機能性があり、春夏向け素材としてうってつけでもある。しかし、最終消費者にまでその良さが届いていないため、どうやって訴求するかが尾州にとって長年の課題となっている。

 尾州のように紡績から撚糸、製織、編み立て、染色整理、仕上げ、修整まで一貫した体制があるのは全国の産地でも限られる。あらゆる素材を扱っており、何でもこなせる器用さがある。今後も分業体制を維持していくためには、産地としてより一層まとまりを強めていくことが求められる。

〈有識者が語るウールの魅力/ウールは最高の衣料素材/一宮地場産業ファッションデザインセンター 人材育成コーディネーター 野田 隆弘 氏〉

 ウールは人類とともに発展してきた素材で長い歴史を誇る。高い機能性があることから、主に衣料用途の素材として使われてきた。ただ、現在では合繊の台頭により、そのポジションは取って代わられつつある。元大学教授で一宮地場産業ファッションデザインセンター(FDC)の人材育成コーディネーターを務める野田隆弘氏に改めてウールの魅力とともに、ウール再興への道を聞いた。

 イタリアのビエラ、イギリスのハダースフィールド、そして日本の尾州。世界三大毛織物産地として世界的に知られている。文明の発展に伴い何度も羊の品種改良が行われ人類に合った素材として進化してきたウール。日本に初めて輸入されたのは江戸時代で、毛織物の生産が始まったのは明治以後とされる。

 尾州ではそれまで絹・綿織物の生産が盛んだったが、明治中期にあった濃尾大地震で大打撃を受けたことをきっかけに、毛織物の生産に転換する機業が増加。その後徐々に生産量を拡大していき、日本のみならず、世界有数の産地として成長を遂げた。野田氏は「毛織物工場が多く集積していたので、他社と差別化を図るため、技術を磨いていったことも発展の要因だろう」と指摘する。

 今でこそウールはファッション衣料というイメージが強いが、昭和の時代には消防服やカーテン、カーペットなどさまざまな物にも使われていた。野田氏の「毛織物の産地、尾州産地の過去、現在、未来」(『繊維製品消費科学』日本繊維製品消費科学会発行)によると、ウールは保温性や防火性、弾力性、防汚性に優れる機能性繊維として紹介されている。

 さらに、野田氏は「これらの特徴に加え、ウールは深く染まりやすい」と付け加える。ファッションショーなどでスポットライトが当たると合繊とは異なった雰囲気を醸し出すと言う。「ドレープ性があって美しく見える。ウールは最高の衣料用素材だと思っている」と続ける。

 ただ、ファッション衣料はもちろん、かつてウールが使われていた消防服やカーテンなどもコストやメンテナンスの問題により、安価で大量生産がしやすいポリエステルやアクリルといった合繊素材に変わっていった。ウールを中心とする尾州にとっては不遇の時代とも言えそうだが、「これから楽しみな時代が来そうだ」と前向きだ。

 その一つが世界的な潮流にもなっている「サステイナビリティー(持続可能性)」。イタリアで開かれる欧州最大規模の服地見本市「ミラノ・ウニカ」でもサステイナビリティーをテーマに掲げるなど注目度は年々高くなっている。国内にも浸透しつつあり、尾州の産地企業の中でもエコやエシカルをうたった商品を打ち出す企業が増えている。

 ウールは生分解し循環できるため元々エコな素材。毛織物を得意とする尾州にとっては、サステイナビリティーの高まりは追い風になると野田氏は見る。「尾州としてもサステイナビリティーを念頭に、すぐに動けるような体制をとっておくのが大事。衣料品は廃棄も多いので尾州のモノ作りで長く着られることもアピールできるだろう」と語る。

 のだ たかひろ 2013年に岐阜市立女子短期大学を定年退職後、14年にFDC着任。繊維製品品質管理士、技術士(繊維・縫製)の資格を有し、博士(工学)の学位を持つ。