特集 アジアの繊維産業Ⅰ(6)/わが社のアジア戦略/ダイワボウホールディングス/アジアからイノベーション/取締役兼常務執行役員 繊維事業統括 斉藤 清一 氏/生産・販売ともに多面化、多層化

2019年03月28日 (木曜日)

 ダイワボウホールディングスの繊維事業はインドネシアや中国、香港を中心に衣料品・生活資材事業から化合繊・機能資材事業まで幅広い分野の製造・販売拠点を整備してきた。繊維事業統括を務める斉藤清一取締役兼常務執行役員は「アジアを起点に多面的、重層的な事業構造が完成しつつある」と話す。こうした基盤を生かし、アジアからイノベーションを発信することを目指す。

  ――2018年度(19年3月期)も海外での事業運営が堅調です。

 海外生産・海外販売という、いわゆる“外・外ビジネス”が順調に拡大しました。衣料品・生活資材事業はインドネシア縫製子会社のダイワボウ・ガーメント・インドネシア(DAI)がフル稼働となっています。米国向けのアンダーウエアやパジャマの販売が底堅い上に、日本向けインナーや医療用コルセットも堅調。婦人ショーツなども増えています。中国子会社も縫製の蘇州大和針織服装は特徴のある原料や開発糸を使った商品に特化することでフル稼働が続いています。第三者監査にも対応する生産管理体制が評価され、グローバルブランドからの受注につながっています。成形編みの大和紡工業〈蘇州〉はインナーだけでなくスポーツなどの受注も増えてきました。検品・物流のSKL物流〈蘇州〉も順調です。

 一方、化合繊機能資材事業ではインドネシアの不織布製造子会社であるダイワボウ・ノンウーブン・インドネシア(DNI)の稼働率が徐々に高まってきました。産業資材のダイワボウ・シーテック・インドネシア(DSI)やダイワボウ・インダストリアル・ファブリックス・インドネシア(DII)もまずます順調。いずれもアジア市場の開拓で地産地消型ビジネスの拡大を進めています。その意味で繊維事業はアジア地域を中心に多面化、重層化された収益構造ができつつあると言えます。

  ――今後のアジア戦略のポイントは。

 一つは人材の育成です。現在、ダイワボウポリテックとダイワボウノイともに女性の営業職を拡充しています。アジア地域のビジネス界では、日本以上に女性が重要な役割を担っているからです。その上で、開発、生産、販売をアジア各地の拠点で同時に立ち上げる仕組みが重要です。そのために中国やインドネシアの関係会社、大和紡績香港、そしてダイワボウノイの上海事務所とニューヨーク事務所などが連携しながら取り組みを進めます。インドネシアに関しても現在の工場だけでなく統括的な機能を持った拠点をジャカルタに置くことを検討しています。

 もう一つは、ESG(環境、社会、ガバナンス)への視線が世界的に厳しくなっていることがあります。具体的にはアジア地域でも環境規制はますます厳しくなるでしょう。環境配慮素材への引き合いもますます大きくなる。こうした中で事業におけるESGをどのように確保するかが極めて重要になります。例えばダイワボウポリテックはオレフィン系原料や再生ポリエステルの活用を進めていますし、ダイワボウレーヨンの機能レーヨンを活用することで環境に配慮した商品をアジアに売り込むこともできます。

 そのためには、日本、中国、インドネシアなど国別の拠点で環境規制などに関する情報を共有化する必要もあります。ESGに関する情報などを共有する仕組み、一種のソフトウエアのようなものを構築することを考えなければなりません。これができれば、先ほど述べたように日本などで開発した商品をアジアの各拠点で同時に量産し、販売することも可能になるからです。

  ――アジアでの事業のさらなる高度化が必要と。

 繊維業界に今必要なのは“改善”ではなくゼロセットによる“革新”です。アジアでの事業は、特にそれが必要になるでしょう。現在、アジアを中心とした新興国では最新鋭の設備が次々と導入されています。今や繊維の最先端技術が真っ先に実用化されるのは、先進国ではなくアジアの新興国です。そしてIoT(モノのインターネット)など情報通信技術の発達と普及は、アジア新興国の生産現場と先進国の消費市場をダイレクトにつなぐことを可能にします。アジア地域はいわば“リアル”と“バーチャル”が重なり合う巨大なインキュベーターとなる可能性があります。そこで生まれるイノベーションをどのように事業に取り込んでいくのか。そして、そうした取り組みを可能にする人材の育成が一段と重要になると言えるでしょう。