2019春季総合特集Ⅱ(12)/トップインタビュー  カケンテストセンター(カケン)/ニーズに応じたサービスを/理事長 長尾 梅太郎 氏/独自性増し、情報力強化も

2019年04月23日 (火曜日)

 「計画に四つの方向性を明記した」とカケンテストセンター(カケン)の長尾梅太郎理事長。その内容は独自性を打ち出し、不採算分野を整理する一方で、需要増が期待できる分野に注力すること。さらに、情報力の強化である。情報力にはデジタル技術の導入も含む。令和時代は人口減少がさまざまな分野に影響する。そうした対策も必要と指摘する。

  ――繊維産業にとっての平成時代とは。

 米中貿易摩擦問題もありますが、この30年間は「中国の時代」でした。中国進出ラッシュです。カケンも中国進出は1988年でした。最近はASEANシフトの動きもありますが。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)の「2018年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」によると、「輸出拡大を図る企業がターゲットにする国・地域」として、中国が最も高い58・4%でした。以下、米国42・3%、タイ41・2%、ベトナム40・1%と続きます。12年度は中国49・1%、タイ40・6%、インドネシア38・2%。日中関係が落ち着いてくると、輸出先として中国重視の流れは拡大します。

 同じく「今後海外進出の拡大を図る国・地域」でも中国は55・4%とトップ。2位のベトナム35・5%を大きく引き離しています。国際協力銀行の調査でも製造業の「中期的有望事業展開先」でも、中国はトップ、次がインドでした。人口も多く、中国を無視した経営はありえません。

  ――令和時代の課題 は何でしょう。

 人口の減少が課題の根底にあります。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来人口推計(2017年推計)」によると、生産年齢人口(15~64歳)は48年に現在より2割強減る見通しです。高齢者人口が37・4%を占めます。

 これでは需要減は否めず、働き手不足で省人化やFA化を進めないと、産業が成り立ちません。同時に環境や安全、快適性に対するニーズが高まると予想され、検査機関もそうした分野の試験を開発していく必要があるでしょう。マイクロプラスチック問題への対応、防蚊性試験も、そうした潮流の下にあります。

  ――18年度(19 年3月期)の業績は。

 増収計画でしたが、内外とも厳しい見通しです。国内は後半に厳しさが増していますが、機能性試験は穏やかに伸びています。

  ――海外拠点それぞれの状況は。

 海外では中国の南通、無錫、上海が好調で、大連と寧波が苦戦しています。ベトナムも伸びており、インドネシアは黒字基調で落ち着いています。タイはパートナーを変えて、ビューローベリタスと提携しました。これにより化学分析のリソースが豊富になり、欧米向けも可能になるなど今後に期待しています。

  ――新年度の方針は。

 17年7月に中期5カ年経営計画を策定し、内外ともに増収を図ることを計画しました。今年度は3年目で増収計画ですが、10月には消費増税が予定されています。この反動減も予想されますから、下半期は厳しいでしょう。今年度は最終目標を変えていませんが、来年度は計画の修正が必要になるかもしれません。

 18年度は事業計画の基本姿勢に「5C&5D」を掲げました。学習と情報収集、熟慮、コミュニケーション、迅速な判断と行動、組織内のコラボレーションの五つのCです。五つのDは開発の意味で、ビジネスシーズ、市場、顧客、業務方法、人材の開発。これは継続しています。

 人事制度も昨年変えました。目標管理として、事業収入、営業収支、顧客数、試験受付数、労働生産性の五つの目標を設定しました。

 今年度はこうしたことに加え、方向性を明記しました。まず、カケンでしかできない独自性を積み上げる。将来需要の伸びそうな分野を拡大します。縮小分野や不採算分野の整理、情報力を強化することです。

 ――主要な取り組みは。

 事業のコアは人材です。新人事制度を実施しましたが、運用が大事です。外部機関の活用も検討しています。事業は試験だけでなく、情報や技術アドバイスも提供していきます。

 評価試験方法の開発も進め、独自メニューを増やします。防蚊性試験や防護服分野の評価試験もその一つ。機能性試験も強化します。海外では上海科懇検験服務がSEKの抗菌性試験を行っていますが、消臭試験も今年度から本格稼働します。

 商標登録するジネテック社との繊維製品取り扱い記号に関する契約では、昨年度2社と契約し、7社になりました。「カケン多言語表示サービス」も本格的に展開する。海外17カ国の法規制に対応したアパレル製品の表示(絵表示、組成表示、原産国表示、デメリット表示、警告表示)を提供します。CSR監査サービスの提供、新設の「カケンインド バンガロール事務所」も軌道に乗せます。

〈平成の思い出/デザインの年にする〉

 「仕事で工業デザイナーやプロデューサーの方々とお付き合いいただいたことが印象深い。私個人の考え方や行動原理の形成に影響を受けている」と長尾理事長。通商産業省(現経済産業省)に在籍していたとき、1989年をデザインの年にする運動に取り組んだ。そのとき、フリーランスの人たちから、「あなたにはマネージャーでなく、プロデューサーになってほしい」「イベントでは大義と実益の両方の説明が必要」と言われた。プロデューサー機能の重要性、参加企業への呼び掛けのポイントである。

〔略歴〕

ながお・うめたろう 1974年4月通商産業省(現経済産業省)入省。92年6月日中経済協会北京事務所長、2001年8月環境事業団理事、2007年7月東京工業品取引所専務理事に就任。12年6月からカケンテストセンター理事長。