2019春季総合特集Ⅲ(9)/トップインタビュー  ダイワボウホールディングス/“勝てる”ファイバー開発を/取締役 常務執行役員繊維事業統括 斉藤 清一 氏/ESG、SDGsの重要性一段と

2019年04月24日 (水曜日)

 ダイワボウホールディングスの繊維事業は、独自性のある原料や加工を活用するファイバー戦略を推進してきた。繊維事業統括と大和紡績社長を務める斉藤清一取締役兼常務執行役員は「次の時代も、やはりファイバー戦略のブラッシュアップが重要。競争に“勝てる”ファイバーの開発にかかっている」と指摘する。ESG(環境、社会、ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)を重視する流れも一段と強まる。ここでもリサイクルや環境負荷低減の革新的な生産プロセスの導入が欠かせない。

  ――平成年間は繊維産業にとってどのような時代だったのでしょうか。

 やはり総体として日本の繊維産業が元気をなくしていった時代だったと言わざるを得ません。川上分野だけを見ても、紡績から染色加工まで全てがコスト競争力を失い、海外生産にシフトしていきました。人材面でも繊維産業で働く人が減少しました。一方で、平成の前半は中国が繊維の生産国として存在感を大きくし、後半からは東南アジアが台頭します。ここ5年ほどは、マーケットとしても中国と東南アジアが大きく台頭すると同時に、中国は生産国としての役割が曲がり角に差し掛かっていると言えるでしょう。国内の繊維産業が縮小する中で、中国が生産国として安定していたことは、ある意味で日本の繊維産業にとって助かった面もあると言えます。そして、国内でも革新的なファイバーを開発していた企業は現在まで生き残っていることも見逃せません。その意味で、ファイバーの力が顕在化した時代だったとも言えます。

 市場の変化も大きかった時代でした。それまで流通の中心を担っていた百貨店やGMSが苦労するようになり、SPAが力を持つようになります。最近ではフリーマーケットアプリの登場など、従来とは販売のフィロソフィーが根本的に異なる業態も勃興しています。SPAなどはファイバーの力をうまくミクスチャーすることで価値を作り上げてきました。さらにEC(電子商取引)やフリーマーケットアプリはリアルとバーチャルの組み合わせで成功しているわけです。

  ――ダイワボウの繊維事業も大きく変化しました。

 繊維事業の中でも、特にダイワボウポリテックを中心とした不織布分野の事業が拡大しました。ダイワボウレーヨンも底堅く推移しています。やはり独自性のあるファイバーを持つ事業は伸びたわけです。ここでもファイバーが強みになることを証明しています。衣料品事業は約30年前から中国やインドネシアに縫製子会社を設立するなど海外進出を本格化させましたが、これも正解でした。日本向け縫製からスタートしましたが、対米輸出にまで広がるなど“外・外ビジネス”をやれたことが大きかったと思います。

  ――5月に新しい元号、令和が始まりますが、今後の繊維産業の課題は何でしょうか。

 やはりファイバー戦略をブラッシュアップすることに尽きるのではないでしょうか。“勝てる”ファイバーをいかに開発するかです。それと、ESGやSDGsに関する要求は、今後も一段と強まることが確実ですから、そうした動きにいかに対応できるかが重要になります。例えばリサイクル技術によって生み出す原料の重要性が高まるでしょう。こうした技術に関して日本の企業には既にある程度のノウハウが蓄積されていることが強みになるでしょう。一方、超臨界染色など環境負荷の小さい革新的な生産プロセスが、先進国ではなくアジアの新興国で導入されていきます。これらを活用することも欠かせません。

 販売面では、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)の普及で生産とマーケットがダイレクトにつながるようになります。バーチャル化の流れも強まり、よりクイックな生産体制の切り替えが求められます。そうなると、大企業だから生き残ることができるという時代ではなくなる。小規模でも機動力のある企業が生き残る。ブランド価値の在り方も変わります。モノの価値だけでなく、背景にあるフィロソフィーも含めて、消費者との共感がブランド力を作っていくことになるでしょう。生産、流通、ブランド価値いずれも一段と多面的、多層的になっていきます。その中で、どのように利益を獲得していくのかが問われる時代になると思います。

  ――2018年度(19年3月期)も終わりました。

 繊維事業全体として増収の流れは変わっていません。ただ、利益が増収に追随していません。やはり原料高騰の影響が大きかった。一方、物流コストの増加に対しては早くから積載率の向上や集中配送の実施など物流改革に取り組んできた成果が出ています。ダイワボウノイは海外事業が順調でした。インドネシアの縫製子会社が順調ですし、中国の縫製子会社もフル稼働が続いています。第三者監査に対応した工場運営を早くから実践してきたことが欧米アパレルからの受注につながっています。ダイワボウポリテックはインドネシアの不織布製造子会社がやや不安定でしたが、これも19年に入ってからは順調です。中国やインドネシアでの需要が拡大しました。ダイワボウプログレスも産業資材や建築資材を中心に好調が続いています。

  ――19年度の重点戦略は何でしょうか。

 引き続き各事業会社とも徹底してファイバー戦略を推進することです。例えばダイワボウプログレスもファイバーの特徴を生かしたフィルター製品などを強化します。ダイワボウポリテックやダイワボウレーヨンはコスメ用途の開拓を進めたい。ダイワボウポリテックの自己修復機能コンクリート強化材「マーキュリーC」も徐々に採用が始まっています。そのほか、ポリプロピレンの改質などでも開発が進んでいますから、期待が持てます。やはり今後も「利は“わた”に在り」と言うのが戦略の基本となります。

〈平成の思い出/痛恨事だった福島第一原発事故〉

 「最大の痛恨事は福島第一原発事故」――福島県出身の斉藤さんにとって、子供の頃に社会見学でも訪れたこともある原子力発電所は、日本の輝かしい科学技術の象徴に思えた。「だから事故が起こった時、メーカーの人間として真剣に反省した」と話す。日本人はモノ作りの技術には優れる。「でも、保守や安全管理に対して慎重さが足りなかったのではないか」と自問自答した。故郷・福島の苦悩は現在も続いている。それだけに企業人として斉藤さんの保守・安全管理への思いも、ますます大きくなっている。

〔略歴〕

さいとう・きよかず 1982年大和紡績(現・ダイワボウホールディングス)入社。2009年ダイワボウノイ取締役、10年ダイワボウノイ常務、11年大和紡績取締役兼ダイワボウノイ社長、16年ダイワボウホールディングス執行役員、18年ダイワボウホールディングス取締役兼常務執行役員兼大和紡績専務兼ダイワボウポリテック社長。19年4月からダイワボウホールディングス取締役兼常務執行役員兼大和紡績社長兼ダイワボウポリテック社長。