特集 快適素材・加工(1)/環境、持続可能性もテーマに

2019年05月28日 (火曜日)

 日本の紡績や合繊メーカーはこれまでも多彩な機能素材・加工を世に生み出してきた。繊維製品を通じて快適や衛生・清潔を実現するために、これらは欠かせない素材となっている。近年は抗ウイルスや防虫といった新しい機能も拡大し、現代人の生活環境の変化に対応する。一方、ここにきて原料や加工剤、生産・加工プロセスでの環境配慮やサステイナビリティー(持続可能性)といったテーマも極めて大きくなっている。こうした新たなニーズにも応える素材や加工が一段と求められるようになった。

〈機能素材でSDGs実現/シキボウ〉

 シキボウは国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)を全面的に組み込んだ商品開発・提案に取り組む。そのために「エコテクノ」ブランドをリニューアルし、生産プロセスや機能性に焦点を当てた商品を「ブルーエコ」「アースエコ」カテゴリーとして打ち出す。

 エコテクノはオーガニックや生分解性、リサイクルなど原料の特性に焦点を当てた「グリーンエコ」、生産プロセスなどでの環境負荷を低減する「アースエコ」、機能性や耐久性などで環境負荷低減につなげる「ブルーエコ」の三つのカテゴリーブランドで構成する。

 アースエコのカテゴリーでは食品などにも使用される多糖類のトレハロースを繊維に付与することで熱伝導性と放熱性を高めた涼感生地「トレハクール」、茶葉の抗菌作用を活用した抗菌防臭加工生地「チャバフレッシュ」、ヤシ油成分を活用した撥水(はっすい)加工生地「ヤシパワー」など天然由来成分を活用した加工素材をラインアップ。近年、世界的に化学物資の使用への規制や忌避感が強まる中で天然由来成分活用への注目は高い。

 ブルーエコには校倉(あぜくら)造り構造織り組織の高通気生地「アゼック」などをそろえる。同社はそのほか、抗ウイルス加工「フルテクト」や消臭加工「スーパーアニエール」などでも実績が豊富。機能素材でSDGsの実現を目指す。

〈機能加工も“環境”重視/ダイワボウノイ〉

 ダイワボウノイは快適や清潔に関連する機能加工で生産・加工プロセスでの環境配慮の取り組みを強めている。そのために加工剤の切り替えなどにも積極的に取り組んだ。

 同社は、1980年代からケミカルフリーの染色加工を実用化するなど、環境を切り口とした商品開発に力を入れてきた。その取り組みの一つとして、機能加工で使用する加工剤を全て繊維製品の安全性に関する国際規格である「エコテックス規格」に準拠したものに切り替えている。

 例えば注目度の高い抗ウイルス加工「クリアフレッシュV」も、従来の有機化合物系から無機物系に加工剤を転換した。無機物系の加工剤を使用することで成分の溶出がないなど安全性が高まる。さらに、繊維評価技術協議会が認証する「SEK抗ウイルス加工マーク」も加工剤切り替え後に再取得した。

 革新的な染色加工プロセスも開発した。カセイソーダを使用しない染色加工プロセスの開発にこのほど成功し、2月には特許も出願。新プロセスでは廃水処理のアルカリ中和工程を省けるため、薬剤や水の使用量削減が可能など環境負荷低減が期待できる。こうした新技術を機能加工に応用することにも取り組む。

〈繊維評価技術協議会/日本発の試験方法普及へ〉

 繊維製品の機能性を示す「SEKマーク」などを認証する繊維評価技術協議会(繊技協)は、SEKマーク認証で採用されている試験方法をベースに国際標準規格(ISO)化された繊維製品の機能性試験をアジア・太平洋地域で普及させる「APECプロジェクト」に取り組んでいる。米国、インドネシアでセミナーを開催し、多数の参加国を集めるなど、日本発の機能性試験への関心が高まってきた。

 同プロジェクトはアジア太平洋経済協力会議(APEC)の基準適合性小委員会(SCSC)が自由貿易推進と非関税障壁の排除を目的に実施しているもの。その一つとして日本の経済産業省が繊維製品の四つの試験方法(抗菌、消臭、抗カビ、抗ウイルス)のISO規格に関する技術能力向上とAPEC域内での非関税障壁排除を目指す取り組みを提案し、採択されている。この実務を担っているのが繊技協となる。

 プロジェクトを通じて日本発信の機能性試験方法をAPEC域内で定着させ、SEKマークの国際化と普及も狙いの一つとなる。2018年11月には米ワシントン、19年2月にはインドネシアのジャカルタで試験方法に関するセミナーを開催した。ワシントンでは日本と米国、ベトナム、ペルー、フィリピン、ロシアの6カ国から関係者12人が参加。ジャカルタでは日本、米国、インドネシア、中国、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム、台湾の9カ国・地域から48人が参加するなど各国の関心は高い。

 6月には台湾の台北、11月には中国の上海でのセミナーを予定する。両会場では試験方法の説明だけでなく抗菌性試験と消臭性試験のラウンドロビンテストも実演し、より実践的な議論を進める。こうした取り組みを通じてSEKマークの国際化につながることへの期待も高まってきた。