特集 スクールユニフォーム(7)/アパレル編/制服供給からさらに一歩踏み込む

2019年05月29日 (水曜日)

 学生服メーカーの今入学商戦は、新入学生が前年より増えたとはいえ、地方を中心に少子化による生徒減の影響を受けたケースも少なくなかった。これまでの制服供給からさらに一歩踏み込んだ事業の構築が、今後の生き残りに向けた戦略を描く上でも重要性を増してきた。

〈菅公学生服/より特化して専門性高める/教育ソリューション事業で〉

 菅公学生服の今入学商戦は、学校制服のモデルチェンジ(MC)校の獲得、店頭商品、スクールスポーツとも販売目標を達成し、前年よりも増収になりそうだ。MC校は関東、関西、中京での獲得が多く、中でも関東が健闘した。スポーツも「カンコープレミアム」を中心に自社ブランドの採用が増えた。

 特に教育ソリューション事業が市場拡大に少しずつ貢献しつつある。2013年から総合展を「スクールソリューションフェア」という形に変え、教育現場が抱えるさまざまな課題のソリューションを総合的に支援する姿勢を強めてきた。昨年のフェアでは非認知能力を育む独自プログラムなどを紹介。フェアへの来場者は毎年増加する傾向で、新しい学校との関係構築だけでなく、制服を供給する「既存の学校とも関係を深めることができている」(問田真司常務)と言う。

 学校へのキャリア教育だけではなく、行政へも取り組みが拡大。岡山県井原市の「ふるさと井原の未来を創るひとづくり事業」ではアドバイザーとして参画。他の地域の行政とも連携が進む。

 事業が広がる中で「より専門性を持った社員が必要であり、特化してその専門性を高めていく必要がある」(問田常務)ことから事業を分社化し、8月をめどに新会社を立ち上げる。事業拡大を加速するとともに、今後、学校の教育現場で人づくりへの「課題が大きくなる」可能性から専門性を持つ人材育成も強める。

 来入学商戦に向けてもMC校の獲得は順調。一方、販路拡大で商品供給の体制強化が課題になりつつあることから、群馬県高崎市と宮崎県都城市に倉庫を11月に設置し、安定供給に努める。

〈トンボ/コト戦略でシェア広げる/独自性高い商品と連動で〉

 トンボの今入学商戦は、マイナーチェンジを含めて、前年よりMC校の獲得を増やした。ブランド「イーストボーイ」の採用校が2桁台に乗ったほか、自社ブランド「バーシティメイト」によるファッションデザイナーの松倉久美氏とのコラボ企画も採用校が増加。店頭販売もニットの詰め襟服「ビクトリー」や抗菌防臭機能を進化させた詰め襟服「マックスプラス」の販売を堅調に伸ばした。

 来入学商戦に向けて生徒募集や学校支援といった取り組みの充実によるコト戦略に加え、マイナーチェンジをブラッシュアップという形で学校のニーズに応じて「分かりやすい提案」(谷本勝治執行役員営業統括本部販売本部長)によってシェア拡大を図る。

 ブラッシュアップでは昨年の総合展からより要望に合わせて素材やシルエットなどを分かりやすく提案できる仕組みを構築。MC校の新規獲得だけでなく、同社の制服を採用する学校に対しても他社にシェアを奪われないように提案力を高める。

 素材面では独自開発の「ミラクルニット」を採用した制服の販促も強化。今年は中学校を中心に10校以上の学校に採用され、ウール混率が15%と決して高くはないものの、表面を織物風にするなど上質感を高め、ブラッシュアップでも採用につなげる。スポーツも昇華転写プリントによる提案を強める。

 コト戦略では11月29日の「いい服の日」に合わせた「アイデア・デザインコンクール」も毎年規模が拡大し、重要性が高まる。昨年は全国の学校からアイデア、デザインの応募が初めて1万点を超え、新たな学校との関係構築もできてきた。今年は「体育着デザインコンクール」の表彰も一緒に合わせて実施するなど、「ブランディングの向上」(谷本執行役員)につながる取り組みを加速する。

〈明石SUC/個々の学校への対応力強化/防災教育で新たな市場へ〉

 明石スクールユニフォームカンパニー(明石SUC)は今入学商戦、「個々の学校への対応力を強めてきた」(柴田快三常務営業本部長)ことで、学校制服MC校の獲得が、前年を上回り計画通り推移した。防災教育の「明石SUCセーフティプロジェクト(ASP)」を広げながら、来入学商戦に向けても今年を上回る制服MC校の獲得を目指す。

 今入学商戦はAKB48グループの衣装制作などを手掛けるオサレカンパニー(東京都千代田区)との共同企画の制服ブランド「O.C.S.D.」をはじめ、順調にMC校を獲得。制服を供給していた学校が他社に奪われる喪失校も少なかった。スクールスポーツは「デサント」の新規採用校が100校以上となり、累計で1800校を超えた。

 ただ、当初は「計画以上の上乗せを期待していた」(柴田常務)ものの、「今年は想定していた以上に生徒数が減少し、結果的には計画通りだった」と、少子化による市場縮小を危惧。地方で通信制の高校が生徒数を増やすなど市場の変化や、学校による制服の選定も単なるデザインコンペから企業を選ぶ姿勢が強まる傾向から、ニーズへの対応力の強化で、来入学商戦も今年を上回るMC校の獲得につなげる。

 防災教育のASPでは小学校向けに防災学習教材を開発。今年から一部の小学校が採用し、今年は中高向けの商品化を予定する。

 昨年はこれまで出展したことがなかった「オフィス防災EXPO」などの展示会に初出展、今年もさまざまな展示会への参加を計画。これまでにない取り組みで「新たなアイデアが出てくることもある」と、学校への販路拡大での相乗効果も期待する。

〈オゴー産業/ブラッシュアップで販売増へ/大手ができない戦い方で〉

 オゴー産業(岡山県倉敷市)は今入学商戦で、全般的に制服MC校が少なく厳しい商戦だったものの、制服のマイナーチェンジへの対応を増やし前年並みの売り上げを確保しそうだ。素材や細かいデザイン、シルエットを変えるなど、単に制服の一部分を変えるだけでなく「ブラッシュアップという形で提案する」(片山一昌経営企画部長)ことで売り上げを維持。生徒数の多い学校の案件も獲得できたと言う。

 ポリエステル100%生地の詰め襟服「鳩サクラネオ」や、ダブルフェース生地使いのスクールニット「アクティ」、ノーアイロンシャツ「スーパーノーアイロン」といった昨年発表した店頭向けの新商品も販売が堅調。防災頭巾付きの多機能ランドセル「プレセーブ」では一部の販売代理店を通じたインターネット販売も始まった。

 来入学商戦へも引き続き、制服採用校や他社商品を併売する地域の学校に対し、ブラッシュアップで新たな生地、シルエットなどによる制服の提案を強める。1、2割しかシェアがない併売の地域に対しても「選んでもらえる商品の開発や売り方の工夫」によって販売増につなげる。

 6月に本社で開く展示会では文具メーカーのサクラクレパス(大阪市中央区)と共同で開発した商品を披露する予定。小学校低学年や女子児童向けのアイテムを想定し、体操服の半袖シャツやポロシャツ、ソックスなどの商品を打ち出す。パッケージを工夫するなど、競合他社と違った視点での販促を試みるなど、「大手メーカーと違う切り口で当社にしかできない戦い方をする」(片山一昌経営企画部長)ことで販路開拓を進める。

〈時代映した制服、一堂に/東京・弥生美術館〉

 戦前から平成までの制服の移り変わりをまとめた展覧会「ニッポン制服百年史」が、東京都文京区の弥生美術館で6月30日まで開かれている。90年代に社会現象になったコギャルファッションなどを時代背景とともに紹介している。

 同館学芸員の内田静枝さんが企画した。日本で初めて洋装の制服が登場したのは1919年で、山脇学園(東京都港区)の初代校長、山脇房子氏がデザインした。戦後に中学校が新設され“高嶺の花”だった制服は多くの人が着る“大衆服”に。

 女子高生の制服が大きく変わったのが80年代で、都内の女子校が先駆けになった。ブレザーにタータンチェックのスカートのスタイルは、大きな反響を呼び、入学希望者が殺到した。

 90年代初め、一大ブームになったコギャルファッションが登場する。ブレザーを着崩し、ルーズソックスや人気の男子校のバッグを持つスタイルが流行した。内田さんは「女子高生の街、渋谷から全国に広がり社会も注目した」と説明する。

 2000年代に入ると制服は一転、清楚なスタイルに落ち着く。そして令和元年の今のトレンドは、無理をしないゆるい着こなし。スカート丈は長くなり、寒いときにはタイツをはく。「バーチャルの世界で“盛れる”からリアルでは無理しない」という考えがあるという。

 内田さんは「制服は世代や性別を超えて語り合えるアイテム。ぜひ来館を」と呼び掛けている。

〈瀧本/EC販売で業務効率アップ/「ミズノ」詰め襟が順調〉

 瀧本(大阪府東大阪市)は同社初となる、入学時の学校別注制服の電子商取引(EC)販売を成功させた。奈良市立一条高校と組んで、今年4月の入学生を対象に実施した。今後も同校ではこの取り組みを継続する。

 合格者に対して3月、制服のEC販売や実際のサイズ確認をする説明会を開いた後、指定期間内にインターネットを通じて購入するようにした。学校での採寸は行わなかった。

 この取り組みによって、保護者・生徒には、制服の価格がより詳細に分かるようになり、カード払いも可能になった。学校にとっては採寸場所が必要なくなり、瀧本や販売店にとっては、少人数で販売に対応できるようになった。

 寺前弘敏執行役員は、「働き手の高齢化、減少が進む中、こうした効率アップは不可欠」と話し、「結果的に目立ったクレームや大きな問題もなく、無事終えることができた」と総括する。

 今回のEC販売で、幾つかの課題や修正すべき点も浮上した。例えば、これから販売店への負担をいかに減らすか、キャッシュレス化をどう進めるか、追加発注もECで対応するのかなどが目先の課題と言う。

 これらの課題の解決やEC販売で得られたデータを分析した後、ゆくゆくは、ECで利点のある学校に対し、この手法を提案する方針。

 2019年6月期の業績は厳しい見通し。失った案件を新規採用校でカバーできなかった。

 全体では厳しい商況だったが受注を増やしたブランドもある。店頭販売の「ミズノ」ブランドの学生服は、スポーツ用品メーカーならではの動きやすさや優れた快適機能が好評で販売数量を増やした。

〈ハネクトーン早川/早期受注へ営業力強化/工場の設備投資も進む〉

 スクールネクタイ製造のハネクトーン早川(東京都千代田区)は、2019年の入学商戦で例年より追加の受注が多く、売り上げは前年を上回った。早川智久社長は「2020年に向けて、制服のモデルチェンジを行う学校が増えている」と説明する。

 最近は性的少数者(LGBT)対応だけにとどまらず、生徒自身が着たい制服を選べるように女子用のスラックスを採用する学校が増えている。この流れに伴い、リボンタイプではなく自分で結ぶネクタイの需要も増えていると言う。

 国内の縫製工場の多くが人手不足に悩む中、栃木県下野市の自社工場では毎年、新卒の従業員を採用している。19年4月には5人の従業員が入り裁断、縫製、仕上げの各工程を担当する。工場の従業員77人の平均年齢は現在30代後半で「良いサイクルに入って来ている」(早川社長)。人材育成とともに、CAD/自動裁断機(CAM)の導入など設備投資も行う。同社が生地を仕入れる織布工場も世代交代がスムーズに進み、安定した。

 20年の商戦について早川社長は、早期の受注を課題に挙げる。19年は受注が後半に集中し、入学式直前の3月上旬まで製造が続いた。今年は工場の安定した稼働に加え営業力も強化する。5月からは、若手社員2人をスクールネクタイ専任にし、提案のレベルを上げる。

〈このみ/学校指定制服に参入/来春に向け営業スタート〉

 フリー学生服販売のこのみ(新潟県妙高市)は、2020年春の入学商戦から指定制服の製造と販売に参入する。自社で営業所を置かずに、大手学生服メーカーよりも低価格での販売を目指す。

 4月から本社を置く新潟県内の学校を中心に営業をスタートした。日常的に学校に出入りする教材メーカーを初期営業の代理店にする。制服の価格は地域や学校によって異なるが、一般的な学生服より2割ほど安い価格を計画する。相浦孝行社長は「関東のインターナショナルスクールへの納入が既に決まり、公立校からのサンプル依頼も入り始めた」と話す。

 制服の生地は、素材メーカーと6、7年かけてオリジナルを開発し、国内の協力工場で生産する。ストレッチや帯電防止といった学生服に求められる機能も持つ。

 学生服を巡っては、公正取引委員会が17年、全国の制服の価格や販売状況をまとめ、制服が安くなるような方策を提言している。相浦社長は「誰もが平等に着ることができるのが学校制服の良さ。本当に必要な機能は付けた上で、価格を抑える努力をしたい」と話す。

 フリー学生服の販売にも引き続き力を入れる。入学シーズンの毎年3月には首都圏や地方都市の百貨店に期間限定店を出している。

 デザイン性の高い制服は、海外にもファンが多い。中国では大学生から20代まで幅広い年代の顧客を持つ。1月には中国に現地法人を立ち上げて内販を強化した。香港店もリニューアルし波に乗る。相浦社長は「日本文化として制服が受け入れられている。ファンを増やしたい」と前を見据える。

〈吉善商会/公立校向けの生地開発/日中間の教育交流も支援〉

 吉善商会(東京都中央区)の2019年の入学商戦は、主力にする首都圏私立校の入学者数の増加や、新規案件の獲得で前期より売り上げが伸びた。吉村善和社長は「納期遅れがなく、スケジュール管理がうまくいった」と説明する。

 昨年秋には、生産から販売まで一貫した新システムを導入し、生産性が一気に上がった。このため繁忙期でも従業員が休める体制が整ったと言う。メールやファクスでの連絡が多かった協力工場とは、対面でコミュニケーションをとり、連携を深めた。

 2020年の商戦に向けては、新たに公立校への提案を始める。公立校の要望に沿うように、価格を抑えたオリジナル生地の開発も進めている。来春に向けて、モデルチェンジや新規案件の依頼がきており「できるだけ多くの学校に出せる体制をつくりたい」(高栖敏文取締役)と意欲を見せる。

 吉村社長が理事長を務める日中新世紀会の活動の一環として、日本と中国の教育交流も活発に行う。

 日中平和友好条約締結40周年の昨年秋には、中国政府の招待で都内の高校19校の校長が訪中した。北京市内の美術学校や教育機関などを視察し、15校が現地の学校と姉妹校として提携した。交流事業は19年も継続する予定で、吉村社長は「交流を積み重ね、両国の相互理解を深めたい」と話している。

〈佐藤産業/高機能の詰め襟発売/関東アパレルの存在感を〉

 ニッケグループのユニフォームアパレル佐藤産業(東京都千代田区)は今春、受注から生産、納品までスムーズに進捗(しんちょく)した。主力である首都圏の私立校のMC案件も引き続き堅調という。

 一方、環境の厳しさも顕在化する。原材料や物流コストの上昇、価格要求に加え、地方では百貨店、販売店の縮小が進む。国内工場、販売代理店と連携し、シェア拡大とコンペの成約率上昇を課題に掲げる。

 その一環として詰め襟学生服「エレガンスブラック」を発売した。ニッケのプロモート素材「ミライズ」を採用、ウール高混率(60%)ながら家庭洗濯に対応している。

 同社の学生服は高級ラインの「エッセスコラ」、ベーシックデザインに機能性・快適性を加味した「グリーンメイト」が主力。詰め襟は別注案件が多かったが、好評を受けて高機能学生服として定番化した。

 ミライズは特許技術「インスパイラルスピン製法」による糸で織られた素材。ウール糸の内側にポリエステルをバネのように入れた糸構造で、これにより表面はウールの美しさを保ち、かつ家庭洗濯も可能になった。

 ウール本来の特性も随所に生かした。商品名になっている深い黒、軽量で滑らかな着心地、程よいストレッチ性、表面はテカリや毛玉を抑え、上質感をキープする。

 成長に合わせて袖出しが2段階でできる「袖丈2段階グローイング」「消臭脇パッド」「抗菌裏地」など。いずれも成長期の男子の快適なスクールライフと、家庭の負担軽減に配慮した。現代風のスリムシルエットで、肩パッドも自然なライン。大きめのサイズでもスッキリ着こなせる。

 20年は創業120周年の節目の年。「関東アパレルとしての存在感を発揮していく」(スクールウェア事業部)と語る。

〈光和衣料/進化する制服アパレル/「学生服オーダーメイド生産システム」〉

 光和衣料(埼玉県久喜市)はユニークなアパレルメーカーだ。設立は1953年、婦人、子供服、学校制服を手掛け、定番品を主力とする。自社工場は生産・在庫管理のスマート化を進めるとともに、オーダーメード学校制服の製造を可能にする「学生服オーダーメイド生産システム」の提供を2017年に開始。全身の寸法を0・5秒で計測し、着用者の体形と要望に合った一着を作れるとあって、大手アパレルも注目している。

 定番の制服は既製サイズから選んで購入する。近年は生徒数減で合格発表から入学までの日数が短くなる傾向があり、入学式に間に合わせるための負担も大きくなる。同システムは運搬が可能で、学校、生徒、販売店の三者にとってソリューションといえる。2020年に商用サービスが開始予定の5G(第5世代移動通信システム)により、伴英一郎社長は「さらに速く、利便性が高められる」と期待する。

 社外への発信も積極的だ。周年行事として縫製工場内にランウエーを設けてのファッションショー、14年には「伝統・クリエイティブ・ファッション・国際性」の四つのテーマの下「トーキョー・コーワ・スクールエンターテインメント」という事業ブランドを開始。さらに17年から「デザイン・ファーム」としてコンサル事業も手掛ける。こうした活動の効果もあり、人材採用もスムーズ。

 デジタル技術を駆使しながら、基幹にあるのはメーカーとしての品質へのこだわり。「さらなる品質の向上そして学校制服の価値創造のために手間を惜しまず、モノ作りを追求していく」と言う。