夏季総合特集Ⅲ(4)/事例研究/令和を生き抜く 発展への道「わが社の次代ビジネスへの萌芽」

2019年07月24日 (水曜日)

〈宇仁繊維/新規販路開拓に全力〉

 「新たな芽は幾つか出つつある」と宇仁繊維の宇仁龍一社長は手応えを示す。創業20周年を迎えた同社が狙うのは、新規販路の開拓。

 同社は創業以来20期連続で増収決算を計上するが、ここ数年その伸び率は鈍化している。「再び大幅増収基調に」として取り組むのが、プロジェクトも組んで進める新規販路開拓。特に注力するのが①ファッションユニフォーム②見せる裏地③エレガンスソフトデニム④ジャカード⑤メンズ分野――で、それぞれ進展が見られる。

 ユニフォームは「あくまで当社の生地」での開拓を原則とし、ワークウエアではなく小口のデザイン性のある商材をターゲットにする。裏地もプリントやジャカードで「見せる」ことを意識しており、同社生地の範囲を逸脱しない。デニムもあくまでソフトでエレガンスなものを取り扱う。

 ジャカードはプロジェクトも力を発揮して設備投資も着々と進む。メンズは現状、売り上げの10%強だが、20%への引き上げを目指し、チームを編成し取り組む。

 同社の主力商材はポリエステル薄地織物で、その販路はレディース60%、インナー20%、メンズ10%、雑貨10%という構成。レディース分野の開拓は一定進んだとし、メンズやファッション以外の分野を開拓することで増収につなげる。

〈澤村/海外事業の再構築に成功〉

 澤村はかねて、新規商材の開発、新規販路の開拓を繰り返してきた。近年で言えば海外事業の再構築やトリコットのシャツ地開発がその成果として挙がる。

 同社では以前、他の商社と同じく生地輸出がコア事業の一つだった。プラザ合意後の円高でこの商権はほぼ消滅し、長らく低迷した。10年ほど前から取り組み、着実に拡大しているのがアウトドアブランド向けコーティング生地の輸出と外・外ビジネスだ。

 関係の深い北陸産地企業との協業によりコーティング生地を生産し、それを中国、韓国、台湾などに販売するもので、世界的なアウトドアブームも追い風に輸出だけでなく外・外ビジネスも拡大中。「失敗を繰り返しながら挑戦を続けた」ことが活路を開いた。

 2年前からは外資系合繊メーカーと取り組み、その原糸を日本で編み立て、北米ブランド向けに直接販売するという新規販路も開拓。今後の拡大にも手応えを得ている。

 以前からの主力商材であるトリコットではシャツ販路の開拓に成功。大手紳士服チェーンが採用したこのシャツは織物と編み地の特性を併せ持つ点が消費者に受け、ヒット商品となった。現在は追随する競合他社の乱立で日本向けは停滞しているが、ベトナムやタイでも供給をスタートし、それぞれ軌道に乗せている。

〈サカイオーベックス/繊維販売事業を強化〉

 サカイオーベックスは2021年3月期からスタートする3カ年の新中期経営計画で、引き続き染色加工をコア事業に位置付けてコスト改善を図る一方、テキスタイルやアパレル製品の繊維販売事業を強化する。さらに長年取り組む複合部材事業を将来の柱の一つに育成するための基盤を固める。

 前3月期は中計での目標値はクリアしたものの、前期比でみると営業減益を強いられた。染色加工事業が染料などのコスト上昇分を吸収できず、減益となったことが響いた。土田雅幹専務は「将来的に染色加工だけでは展望を描きにくい。染色加工技術を生かした繊維販売、特に従来のユニフォーム、スポーツだけでなく、ファッションにも力を入れ、幅を広げる」と語る。

 強みになるのが、得意とするトリアセテート長繊維。イタバシニットなど縫製子会社と連携しながら婦人服ODMを強化する。テキスタイル販売では生地ブランド「オーベックス テック―ラボ」も立ち上げた。

 主力の染色加工事業は染料などコスト上昇への対応が引き続き課題となる。「粘り強く、コストに見合う加工料金の見直しを図る」一方、サステイナビリティー(持続可能性)など環境対応が「厳しくなることを踏まええた経営が重要」とする。物流改革にも着手する。現中計同様、企業価値を高めるためのM&Aも検討する。

〈マスダ/新顧客の開拓に重点〉

 生地備蓄販売のマスダ(名古屋市中区)は新規顧客、新用途の開拓に重点を置く。片岡大輔社長は「今後、国内市場は一つ一つの案件が小さくなる。売上高を維持するには顧客を数多く持つことが重要」と強調する。

 2020年3月期は以前から目標に掲げる売上高80億円を目指し、基本とする「既存顧客の深掘りを行いつつ、新規顧客の開拓」に力を入れる。営業担当がより細かな市場に対応するため、人材育成をさらに強化。また、昨年6月に戦略推進室を新設し、自社に適したデジタル化も進める。

 19年3月期は643件の新規顧客を開拓した。その効果で売上高は79億円(前期比6・5%増)、営業利益は1億9500万円(42・9%増)、経常利益は2億5500万円(32・3%増)、純利益は1億7200万円(33・3%増)の好業績だった。中でも国産の定番品を主力とする生地販売は過去最高の売り上げを計上した。

 マスダ・イノベーション・プロジェクト(MIP)と名付ける介護・資材・海外3分野の全社横断の取り組みも新規顧客、新用途開拓に寄与した。さらに「若手が顧客開拓に対して前向きに取り組んでおり、成長していることを実感できた」との手応えも示す。

 前期増収に転じた製品販売も「生地の顧客開拓には製品知識が必要」として、生地と製品の連携も強化する。

〈豊島/サステがマイ・ウィル〉

 豊島はサステイナブル(持続可能な)素材群を「MY WILL(マイ・ウィル)」という企業ステートメントとして事業展開するなど、持続可能なモノ作りをより強化している。同社のサステイナブル素材の歴史は長い。その代表格がオーストリア・レンチングの精製セルロース繊維「テンセル」リヨセルだ。

 同社が取り扱い、モノ作りをスタートして、既に30年という歴史を誇る。テンセルリヨセルは計画植林された持続可能な森林から供給される木材パルプを原料とし、安全性の高い溶剤に溶かした後、ろ過し紡糸する。溶剤は100%回収・再利用されるため、工場外に排出することはない。

 テンセルリヨセルは通常、短繊維が主体だが、同社は長繊維「テンセルリュクス」も手掛ける。長繊維によるテキスタイルを日本で手掛けるのは同社のみ。ビジネスパートナーとして歴史が長く、高品質なモノ作りのノウハウを持つことがレンチングに評価された。

 その他、15年という歴史を持つオーガニック素材「オーガビッツ」、廃棄食材を染料として活用する「フードテキスタイル」も手掛ける。さらに2018年には運営するコーポレート・ベンチャーキャピタルファンドを通じて、再生ポリエステル事業を手掛ける日本環境設計(東京都千代田区)にも出資。再生ポリエステルにも力を入れる。

〈モリリン/持続可能性に重点置く〉

 モリリンはサステイナビリティー(持続可能性)に重点を置いた素材、製品、仕組みを打ち出している。

 「つくる責任」「つかう責任」「作らない責任」とう三つの柱を軸にした「モリリン・エコ・プロジェクト」ではエコ素材やトレーサビリティーの保証ルールを「モリリンエコスタンダード」として規定。それに基づく素材を社内外問わず積極的に「つかい、つくり、協業し、再利用する」循環型スキーム活用を推進する。

 エコ素材では長年取り扱うオーストリア・レンチング素材、キュプラ繊維、オーガニックコットン、再生ポリエステル、原着ポリエステル、ポリ乳酸繊維などを改めてエコ素材とし強化する。

 韓国の加工メーカー、TFJ・グローバルと連携、非フッ素による撥水(はっすい)・撥油加工「ブルー・ロジ」の国内販売も始める。ブルー・ロジは天然由来の薬剤を使用し、フッ素並みの撥水性だけでなく、撥油性を併せ持つ。

 羽毛布団の下取り・回収・再生システムにも力を入れる。再生不能な側地は固形燃料に再利用。再生ダウンは日本でダウンウエアとしての再生に取り組む。

 一方で、衣料品の廃棄問題にも着目。3DCADを活用した時間や無駄の削減で持続可能なビジネスの構築や、エアークローゼットとの協働によりアパレル廃棄問題解決の貢献も目指す。

〈ヤギ/新しい商社像、模索〉

 ヤギは2020年3月期を最終年度とする中期経営計画を推進している。その骨子は「総合力発揮の強化」「新領域への挑戦」「構造改革の実行」――というもので、それぞれで進展が見られる。来期始まる新中計でも、「糸、生地、製品という既存事業をしっかり維持拡大しながら」(長戸隆之取締役経営企画本部長)、新たな商社像を模索する。

 総合力発揮の強化として取り組むのが、グループ経営の推進。「単体の既存事業では大きな業績拡大は困難」とし、連結子会社とのシナジーを発揮して業績の底上げを図っている。人事交流などで“ヤギ流”の浸透が見られるという。

 新領域への挑戦では、デジタル技術の活用や繊維以外の分野開拓を進めている。戦略推進部門を設けてさまざまな可能性を協議。その一つの成果が今年米国に設立したヤギUSAに表れている。日米両方向での事業展開を志向し、古着のリメーク販売や米国ブランドからの製品OEM受託といった実績を既に積む。さらに今後は「食」などの非繊維事業拡大も目論む。

 構造改革の実行としては、基幹システムの今年度中の導入のほか、これまでに人事制度、研修制度の変革を進めた。

 長戸取締役は「世の中が変化する中、当社も変わらないといけない」と強調する。繊維事業の総合化を進めながらB2Cの研究も推進。将来を見据えてさまざまな種をまき、刈り取る。新中計でも「変化」が肝になる。

〈ササキセルム/若手中心の新部署、躍動〉

 婦人のボトム・スーツ素材を主力とするササキセルム(愛知県一宮市)は、昨年立ち上げた新部署「TS部」で首都圏への販売強化を図っている。在籍するのは若手が中心で、徐々に新規先の開拓も進んでいる。

 TS部は東京都中央区に事務所を置く。在籍する15人のうち、10人は20~30代と若い人材がほとんど。昨年立ち上げたばかりだが、新規開拓が進むなど実績も付いており、滑り出しは順調だ。増収増益だった前期(2018年12月期)の全社業績にも大きく貢献した。

 若手の人材育成の機能も兼ねている。同社の従業員数は約50人でそのうち50代が最も多く、経験やノウハウを下の世代にどう伝えていくかが課題だった。TS部では若手に経験を積ませることも目的としており、世代交代は着実に進んでいる。

 今期は市況の悪化から利益は横ばいながらも減収を見通す。秋冬向けはある程度の発注があったものの、春夏向けで苦戦を強いられた。今後はアメーバ組織の方式で柔軟な体制を敷き、さまざまな変化に対応することを目指す。

 同社はポリエステル・レーヨン混を主力の素材とし、生産は尾州のモノ作りやノウハウを生かした中国2拠点で行う。テキスタイルコンバーターとして企画力や納期対応力、備蓄力にも定評がある。