シリーズ事業戦略/ダイワボウホールディングス/大海に漕ぎ出す“勇気”を/事業会社統合で全体最適追求/取締役兼常務執行役員 繊維事業統括 大和紡績 社長 斉藤 清一 氏

2019年08月26日 (月曜日)

 ダイワボウホールディングスは2020年1月1日付で繊維事業を担う中間持株会社である大和紡績傘下の事業会社、ダイワボウポリテック、ダイワボウプログレス、ダイワボウノイと管理業務子会社であるダイワボウアソシエを統合し、ダイワボウムートを立ち上げる。ダイワボウムート社長を兼ねることが内定したダイワボウホールディングスの斉藤清一取締役兼常務執行役員繊維事業統括兼大和紡績社長は「事業会社統合で大胆な全体最適を実行できるようになる」と話す。

  ――2019年度第1四半期(4~6月)も終わりました。

 合繊・レーヨン部門は原燃料価格の変動によって利益が大きく変化するという構図が一段と鮮明になっています。また、中国が電子商取引法を改正し、海外で購入した商品の転売も規制対象としたことから日本でも衛生製品やコスメ製品などのインバウンド需要が減退したことの影響も受けています。ただ、中国の人口規模や生活水準の向上を考えれば、今後もじっくりと取り組むべき市場であることに変わりはありません。

 産業資材部門は災害復興などで需要拡大が続いています。衣料部門は良質の米綿使いを認証する「コットンUSA」マーク対象商品などトレーサビリティー(追跡可能性)を重視したモノ作りと提案が成功しています。中国とインドネシアでの縫製事業も第三者監査に対応した工場運営への評価が高まり、受注獲得につながっています。

  ――今後の重点戦略は何でしょうか。

 世界的にESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)への要求が一段と強まりました。特に環境負荷をどのように減らしていくかが問われています。生産ロスの削減や省エネルギーの取り組みが不可欠です。そのために生産プロセスの革新が必要でしょう。サプライチェーン全体で廃棄物のリユース・リサイクルまで含めた仕組みを作る必要性が高まっています。そのためには考えを同じくする企業との連携も積極的に進めます。森林認証など認証システムの活用の考え方も社内で共有しなければなりません。とにかく従来の発想を変えることが求められています。その中でも、やはり「ファイバーに利あり」で、原料政策がポイントになります。バイオマス原料や再生原料、生分解性原料の活用を進めます。さらに革新的な生産プロセスを導入します。既にカセイソーダ非使用の染色加工を開発しました。超臨界染色の実験もスタートしています。もちろん、こうした革新プロセスは当社単独では実現できません。国際的な事業連携が必要でしょう。情報も国際的に共有化し、廃棄物の処理や再利用まで含めた連携を実現することが必要です。

  ――20年1月に繊維事業会社が統合し、ダイワボウムートが発足します。

 統合するダイワボウポリテック、ダイワボウプログレス、ダイワボウノイ、そしてダイワボウアソシエはいずれも旧大和紡績(現・ダイワボウホールディングス)から分社してできた会社です。分社した2006年当時、繊維事業を取り巻く環境は今以上に厳しく、各事業の存在の在り方が問われていました。そこで各事業が十分な裁量を持った上で自立して事業展開する形をとったのです。それからちょうど10年間、各社とも苦労しながらやめるところはやめ、伸ばすところは投資も含めて伸ばせたことで現在の形となりました。その間、協業も続けていました。そして現在、これまで以上に繊維事業としての全体最適が求められる時代になりました。技術革新や地政学的リスクなど予測不可能性、不確実性が高まっているからです。既に繊維事業各社は自立して事業を展開する能力があります、それを基に連合体を作り、ヒト・モノ・カネを一体的に活用すれば、さらに可能性が広がると判断しました。特に研究開発や設備投資で効果があるでしょう。働き方改革にも欠かせません。インドネシアなどの海外拠点も相互活用できます。そのための組織や海外拠点をダイワボウムートとして立ち上げることを検討しています。全ての面で大胆な全体最適化を追求します。今がそのタイミングなのです。

  ――ダイワボウレーヨンとカンボウプラスは統合には加わりません。

 レーヨン事業と樹脂加工事業は他の4社と比べて成り立ちの経緯も含めて独立性が高い事業です。そこであえて統合せずに、大和紡績傘下にダイワボウムートとダイワボウレーヨン、カンボウプラスが並ぶ形でまずはスタートすることにしました。

  ――文字通り新たな出発ですね。

 AI(人工知能)の時代になり、ビッグデータからあらゆることが予想できるようになるかもしれない中で、逆に人間の五感が求められる場面の重要性が高まるのではないでしょうか。それは羅針盤だけを持って大海に出た大航海時代のようなものです。不確実性を楽しむこともあったはずです。そのためには大海に漕ぎ出す“勇気(ムート)”が必要。そこから新しい発想が生まれることを期待しています。