シリーズ事業戦略/クラボウ/“コト販売”で価値共創/持続可能なCSVを実現/取締役兼常務執行役員 繊維事業部長 北畠 篤 氏

2019年09月06日 (金曜日)

 クラボウの繊維事業は2019年度第1四半期(4~6月)決算で営業損失となった。繊維事業部長である北畠篤取締役兼常務執行役員は「これまでの延長線上では先行きが非常に厳しい」と指摘する。このため従来型の“モノ販売”に加えて“コト販売”を拡大することで取引先との価値共創型ビジネスの構築に取り組む。持続可能な「クリエーティング・シェアード・バリュー(CSV)」の実現を目指す。

  ――19年度第1四半期は繊維事業が営業損失でした。

 単体では売上高、営業利益とも前年同期比横ばいで推移し、ほぼ計画通りでしたが、子会社で苦戦したところがありました。例えば海外はブラジルが回復傾向にあり、インドネシアもほぼ横ばい推移だったのですが、タイが苦戦です。綿花価格が非常に高騰しているタイミングでバーツ高による輸出不振が重なり利益が圧迫されました。国内ではクラボウインターナショナルが主力のカジュアル衣料で店頭市況低迷の影響を大きく受けています。

 ただ、事業別に見ると健闘した分野もあります。原糸は増収増益となり、国内販売は子会社の大正紡績を含めて堅調です。海外も三国間販売が回復基調です。ユニフォームも堅調で、特に5月以降は荷動きも活発化してきました。

  ――今後に向けた重点戦略は。

 従来の延長線上では先行きは厳しい。今期は中期経営計画初年度であり、次の10年に向けた戦略を立てる時期でもあります。一つは糸・生地の販売だけでなく“コト販売”による新しいビジネスモデルを作ること。例えば先日、当社が開発し、アイトスさんや山田辰さんと共同展開してきた着用者の動作自由度を高める作業着用パターン作成技術「ムービンカット」が20周年を迎えました。実際に消費者が機能を実感することで売れ続ける商品になっています。アパレルや販売店など業界全体で育てていただいた商品でもあります。このように取引先やユーザーと価値共創することが重要です。熱中症対策のスマート衣料・システム「スマートフィット」も同じ発想です。着用者のニーズをリアルタイムで取り込みながら機能を追加し、アルゴリズムも充実させています。ウエア販売だけでなくシステムの定額利用料金を課すサブスクリプション型のビジネスモデルにも取り組んでおり、19年度に入ってからも採用拡大が続いています。

 もう一つは、これまで世の中になかった商品をどれだけ開発できるかです。テキスタイルイノベーションセンター(愛知県安城市)が中心になって取り組んでおり、例えば羽毛代替の生体模倣素材「エアーフレイク」は6月に新しい製造ラインが稼働し、生産性が向上しました。縫製工程で発生する裁断くずを原料に再生して繊維製品としてリサイクルする「ループラス」も国内で生産・加工できるようになりました。これも新しいビジネスモデルです。天然繊維にさまざまな機能性を付与できる原綿改質技術「ネイテック」も拡充しました。環境配慮の観点から世界的に“脱プラスチック”の流れが強まる中、機能性を持った綿素材への注目が高まっています。工場のスマートファクトリー化も今期から本格的にスタートしました。

 繊維事業部と海外関係会社の連携強化も重要です。現在、タイ子会社のタイ・クラボウを“セカンド・ヘッドオフィス”と位置付け、ここを起点にインドネシア、ベトナムの関係会社や協力会社が連携して東南アジア市場に対して一体的に営業活動する体制を作っています。ベトナムにもクラボウ・ベトナムを設立し、協力染工場などに技術者を派遣し、技術指導を行っています。これによりベトナムでも糸から織物、カットソー、縫製品まで生産できるようになります。

  ――世界的にサステイナビリティー(持続可能性)への要求が強まっています。

 繊維事業部は1993年から「ヒューマン・フレンドリー発想(人と地球の健やかな環境を考える))」を基本理念に掲げています。これに基づいて取り組みを進めます。特に重視するのが「クリエーティング・シェアード・バリュー(CSV)」。単なる環境負荷低減ではなく、その取り組みを通じて取引先などと利益を創出し、それらを分かち合いながら持続的な社会貢献を実現することです。こうした観点がなければ、本当の意味でサステイナブルな取り組みにはなりません。ループラスの取り組みなどもこうした考え方の一環です。

 染色加工の徳島工場(徳島県阿南市)を中心に環境負荷低減にも努めています。そのために革新技術や新しい加工プロセスも積極的に導入していきたいと思います。