特集 高性能繊維/幅広い分野で需要が旺盛/リスク回避の施策は必要

2019年09月09日 (月曜日)

 高性能繊維の動きが活発だ。自動車やインフラ関連など、多くの分野・領域で旺盛な需要が続く。海外企業による設備増強の話も一部聞こえるが、需要過多の状況は、今後2、3年は継続すると予想され、国内企業は成長の好機と捉える。ただ、世界経済の先行きは不透明感が強く、各社の施策に影を落とす可能性もある。

 「ほぼ全ての用途で伸びている」と言われているのがアラミド繊維だ。特にパラ系はタイヤ補強材の需要が大きく拡大しており、帝人は「トワロン」の新増設の検討に入った。同じパラ系の「テクノーラ」、メタ系アラミドの「コーネックス」「コーネックス・ネオ」も良好な推移を示す。

 東レ・デュポンのパラ系アラミド繊維「ケブラー」の販売も順調で、2019年度(20年3月期)は前年を上回る水準で動いている。耐切創手袋がけん引役を務めるが、企業の安全意識の高まりが追い風になっている。作業現場・環境に合った商品提案も評価を集める。

 東洋紡が展開する高強力ポリエチレン繊維「ツヌーガ」も耐切創手袋向けで数宇が伸び、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維「ザイロン」はパラスポーツ用車いす(ホイール)向けなどが好調。クラレの高強力ポリアリレート繊維「ベクトラン」はフル稼働が続く。

 一方で、世界経済は混迷の度合いを深めている。高性能繊維、スーパー繊維の展開で大きな影響はまだ見られないものの、「景気が下振れれば影響が出てくる分野もある。今後は用途幅を広げる」ことで潜在リスクの回避を図る。

〈アラミド繊維販売順調/増設や用途拡大で成長を/帝人〉

 帝人は、アラミド繊維の販売を順調に伸ばしている。パラ系とメタ系ともに伸長を見せるが、特に好調なパラ系アラミド繊維「トワロン」は生産設備の増強を検討する。2020年度(21年3月期)からの次期中計の間に決定するが、投資規模は3桁億円になる見込み。能力増強のほか、展開用途の幅を広げることで成長につなげる。

 トワロンは、タイヤ補強材やインフラ関連用途が好調に推移している。全体として需要が旺盛な状態が続き、ボトルネックの解消による生産増で対応してきたが、需要はさらに拡大するとして設備増の検討に入った。オランダの原料・重合設備と紡糸設備を増強する。

 同じパラ系の「テクノーラ」も海底油田関連などが堅調で、20年3月期はパラ系アラミド繊維で前期比5~10%の数量増を目指す。メタ系アラミド繊維「コーネックス」「コーネックス・ネオ」はフィルター関連や防護衣料向けが良好。メタ系アラミド繊維は、数量は横ばいながら、プロダクトミックスの改善により、金額ベースでは増える見通し。

 今後の成長を図るため、パラ系とメタ系ともに用途拡大に取り組む。販売は順調だが、自動車向けの比率が高く、「景気が下振れれば負の影響が出る可能性がある」と捉えるためだ。用途の幅を広げることによって潜在的なリスクを回避する。パラ系では電気自動車(EV)への対応に目を向け、メタ系では防護衣料用途でのシェア拡大と産業資材関連の開拓を進める。

〈次期中計で増産対策/5Gに注目/クラレ〉

 クラレは高強力ポリアリレート繊維「ベクトラン」を展開している。1990年、世界に先駆けて事業化したスーパー繊維で、この間、紆余曲折があったものの年産千トン体制を1~2年前からフル稼働させている。

 引っ張っても切れにくい、低吸湿性、寸法安定性、耐摩耗性などの物性を生かし、ケーブルやロープ、各種テンションメンバーなどで用途開拓を進めてきた。

 このほか、ゴルフクラブやテニスラケットにも使われている。欧州でバイクのライダー用デニムパンツに採用された実績もある。

 97年の火星探査機・マーズパスファインダーや04年の火星探査機・オポチュニティなどが火星への着陸に無事、成功した際には、低温特性、耐切創性などに優れるベクトランによるエアバッグが貢献した。

 クラレは18年12月期からの中期3カ年計画を進めており、今年7月から後半戦に突入する。前半戦最後の19年1~6月期もフル生産・フル販売を続けたという。

 この数年、収益性を重視した用途構成への転換に力を入れている。利益率の改善を実現した後、21年1月からスタートさせる新しい中期計画で「2回に分けて増産対策を講じたい」との意欲を示す。

 新規用途として、5G(第5世代移動通信システム)関連用途に注目しており、5G狙いで細繊度化、強力アップ、均一性向上などをターゲットとする商品開発を急いでいる。

〈安全切り口に販売拡大/ワークウエアにも展開/東レ・デュポン〉

 東レ・デュポンは、パラ系アラミド繊維「ケブラー」で非自動車用途を拡大する。安全を切り口に深掘りを図る方針で、耐切創手袋の販売拡大のほか、ワークウエア分野に本格進出する。ワークウエアは耐切創性や耐熱性をはじめとするケブラーの特性を生かしながら、顧客の要望に応じてカスタマイズ対応もする。

 非自動車用途では、30年以上の実績があり、ケブラーブランドが定着している耐切創手袋の販売に力を入れる。ちりが出にくいフィラメント使いタイプや女性でも扱いやすい薄手タイプなど、多様なバリエーションをそろえており、作業現場・環境に合った提案で差別化する。

 技術センター「ケブラーテクニカルセンター(KTC)」の機能も活用する。使用された耐切創手袋で調査依頼があった際、KTCで調査、分析・解析を行い、解決策を提案する。「商品を売りっ放しにするのではなく、30年以上の知見を生かしたサポート体制で顧客を支える」と言う。

 従来は、溶接中に飛散する溶融金属の微・小粒子(スパッタ)から部分保護で守るエプロンや腕カバーなどの製品を販売してきたが、今後はワークウエアの展開を本格化させる。「安全性が高く作業性の良いワークウエアを要望する企業が増えている」ことから参入を決めた。「耐熱性だけで言えばメタ系アラミド繊維を使ったウエアでいい。耐熱性に加えて、ケブラーの耐切創性の機能を訴える」と強調する。

〈「ツヌーガ」で再度の増設検討/21年度中に「ザイロン」フル稼働へ/東洋紡〉

 東洋紡は高強力ポリエチレン繊維「ツヌーガ」と「イザナス」、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維「ザイロン」という3タイプのスーパー繊維を展開する。年産能力は順に千トン、千トン、200トンとなっている。

 2018年度はイザナス、ザイロンで多少の苦戦を強いられたものの、ツヌーガが好調に推移したため、3素材トータルでは前年並みの業績を確保したという。

 現在、ツヌーガを年産1500トンに増設する設備投資を進めており、11月に新設備を立ち上げる。耐切創手袋向けの販売が全体の90%前後を占めており、最近は安全意識の高まりに伴い新興国からも引き合いがあるという。

 中国の自動車市場失速による影響に懸念を示しているものの、今後も耐切創手袋の特にトップゾーンでの拡販を計画。細繊度糸による商品開発、企画提案に力を入れていく。

 ザイロンでは、パラスポーツ用車いす(ホイール)向けや卓球のラケット向けの販売が順調。欧州著名ブランドでの採用に伴い自転車のチューブレスタイヤ向け販売が急増していると言う。イザナスでは、このほど釣り糸用の新素材SFシリーズをラインアップに加えた。

 東洋紡は18年度から21年度までの中期4カ年計画に取り組んでおり、スーパー繊維事業では中計中にツヌーガの再度の増設(500トン)を検討するとともに、最終21年度までにザイロンをフル稼働させる。