特集 商社原料・テキスタイルビジネス/糸・生地からの環境配慮が加速/付加価値品比率向上も課題

2019年09月20日 (金曜日)

 商社の原料・テキスタイル事業の方向性は、「環境配慮」でおおむね一致している。環境配慮素材で産地や海外に向けて拡販を狙うほか、自社の縫製品OEM/ODM事業につなげて環境配慮への対応力を企業全体としてアピールする狙いが各社にある。「独自性」も各社に共通する開発テーマ。産地や素材メーカーとの連携によって独自の糸・生地が生まれている。

〈蝶理/新規案件が順調に進展/環境配慮や高伸縮糸で〉

 蝶理で糸やテキスタイルを取り扱う繊維第一本部の2019年度上半期(19年4~9月)販売量は前年同期比で、生地販売と車両以外の資材関連が拡大したものの、最大規模の北陸産地など向け糸販売が減少、カーシート関連が横ばいとなり、トータルで横ばいを見込む。ただ、下期以降は「国内外で新規案件が獲得できており、それが数字に表れてくる」(吉田裕志取締役兼執行役員繊維第一本部長兼北陸支店長)ため再び拡大基調に乗ると言う。

 18年度の同本部の構成比率は糸が41%、カーシートが22%、テキスタイルが10%、車両以外の資材が27%。最大規模の糸販売の苦戦は北陸産地の資材系取引先で生産調整の傾向が強まったことなどが背景とみられる。一方、見える化をテーマに社内基幹システムの変更を進めており、コスト削減も進展している。

 下半期以降は、リサイクルポリエステルや原着糸、フッ素フリーの撥水(はっすい)加工品といった環境配慮商材が着実に業績に寄与してくる。リサイクルチップの販売も拡大が確実視でき、今後、「チップ、糸、生地までの環境配慮商材のサプライチェーンを北陸産地と連携して構築していく」と意欲を見せる。

 高い伸縮性を誇る独自のポリエステル糸「テックスブリッド」も新規案件獲得が進む商材の一つ。ストレッチ機能の需要が増す中で、難燃、抗菌などさまざまな機能との組み合わせが可能な点や、さまざまな糸加工で付加価値化が図れる点が好評を博す。

 来期から始まる新中期経営計画でも「さまざまな新しいことにトライ」し、さらなる事業拡大を狙う。

〈ヤギ/差別化比率高めていく/グループ連携推進して〉

 ヤギでは北陸産地向けの合繊糸販売が堅調を維持するものの、和歌山ニット産地や播州織産地向けの綿糸販売は苦戦が続く。今後は強撚糸用の糸加工など「独自差別化糸の開発が鍵を握る」(馬渡武継取締役営業第一本部長)とし、グループ連携を図りながら付加価値戦略を加速する。

 綿糸の差別化にはグループの糸加工企業、山弥織物(浜松市)との連携が力になる。同社が持つ希少性の高い糸加工技術とヤギの販売力が融合しつつあり、「ヤギ全体の差別化糸比率が高まっている」と言う。とはいえ定番糸が不要なわけではなく引き続き「定番糸もしっかりと供給しながら」、差別化比率を向上させていく。

 同社は今年7月に泉州産地のタオル製造、ツバメタオル(大阪府泉佐野市)を子会社化した。以前から綿糸販売先の一角だったが、子会社化によって糸の“出口”として、より安定化した。今後は糸からタオル製品までの共同開発などで相乗効果を発揮していく。

 一方、資材系を中心に堅調な販売が続く北陸向け合繊糸では、「特徴やストーリーを語れる商品」の開発に力を注ぐ。綿糸や生地にも同じことが言えるが、それが全体の差別化開発の方向性になる。

 生地ではグループの生地商社、イチメン(東京都渋谷区)との連携が進む。生地開発でコラボ企画が増えている上、ベトナムではヤギの現地法人とイチメンによる生地備蓄販売事業をスタートさせた。中期的にはこうした動きを最終製品との連動につなげていく構想もあり、糸、生地、製品の一貫体制化とそれぞれの差別化戦略、グループ連携を進めていく。

〈帝人フロンティア/「エコペット」を前面に/海外ニット生産で新規商流掘り起こす〉

 帝人フロンティアでは繊維素材本部が糸、生地、製品の販売で衣料繊維のフィールドを幅広くカバーしている。ポリトリメチレン・テレフタレート(PTT)繊維「ソロテックス」の販売が順調で、トータルの売上高を100億円台に乗せることを目標に2019年度に臨んでいる。

 ザ・ノース・フェイスやユナイテッドアローズ、雑誌ビギンなどとのコラボ企画でブランド浸透と取り組んできた結果、「指名買いをしてくれるお客さんが増えてきた」と今後の拡販に手応えを示す。

 この間、長繊維に加えて、国内外の紡績コンバーターとの連携を通じ短繊維による共同開発を進めてきた結果、短繊維のウエートを20%前後に引き上げており、今後も短繊維の拡販を目指す。

 ソロテックスと高バランス素材「デルタ」とを融合した複合素材のバリエーション拡充に力を入れており、糸段階で両者をミックスした「デルタSLX」がスポーツやカジュアルで引き合いを集めていると言う。

 同社は顧客が求めるエリアで素材生産ができなければ「今後の成長を見込めない」とみており、スポーツでニットの海外生産を増強。海外縫製する国内外のアパレルとの新規商流開拓につなげる。

 婦人・カジュアルでは海外市場でのソロテックスの認知度アップを重視。イタリアやフランスの高級ブランドへの売り込みを強化し、タグの支給などでブランド浸透に取り組む。

 かねて“シンク・エコ”をコンセプトに環境配慮型素材による開発・拡販を推進しており、10月に行われる「北陸ヤーンフェア2019」では再生ポリエステル「エコペット」などで充実させたエコ素材を打ち出し、「エコペットの販売量を倍増させたい」との意欲を示す。

〈東洋紡STC/国内2工場の個性生かす/海外拠点活用で海外販売強化〉

 東洋紡STCは、富山事業所に井波工場(富山県南砺市)と入善工場(同入善町)という個性の異なる紡績工場を持つことを生かした原糸販売事業に取り組んでいる。さらにマレーシアなど海外の生産拠点を活用した海外販売の強化にも力を入れる。

 井波工場は長短複合紡績など特殊紡績を得意とし、入善工場は細番手綿糸の紡績などを得意とする。個性の異なる紡績工場を国内に持つことを生かし、産地企業に対して別注糸の開発・提案など企画開発型営業で糸の拡販を進める。

 現在、紡績糸の販売は和歌山、今治、播州など綿の織・編み物産地向けが中心だが、北陸など長繊維織・編み物産地への提案にも力を入れる。そのため10月に福井市で開催される糸展示会「北陸ヤーンフェア」にも出展し、富山事業所の立地を生かし、技術者が提案に同行するなど工場営業も強化する。

 同社はマレーシアに紡績・織布子会社の東洋紡テキスタイル〈マレーシア〉(TTM)を持ち、中国の協力工場でも紡績糸を委託生産している。インドでも大手紡績のバルドマンと提携していることから綿糸の委託生産や調達が可能。これを生かし、価格競争力のある糸を国内で販売するほか、アジア地域のテキスタイルメーカーや編み立て・縫製企業への原糸販売拡大にも取り組む。

 特にTTMは綿糸だけでなくウール・ポリエステル長短複合紡績糸「マナード」も生産していることから、この提案にも力を入れる。インドからはインド超長綿糸やオーガニック綿糸の調達も可能であり、SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)の要求にも適した原糸の調達・販売にも取り組む。

〈豊島/差別化、三国間も強化/20春夏へ麻調ポリ長も〉

 豊島は綿糸から毛糸、合繊糸まで、さまざまな定番糸を備蓄し、国内の織布工場、編み立て工場へ販売するとともに、差別化糸販売や三国間取引にも力を入れる。

 差別化糸もさまざま。綿糸では「サイロスパン」精紡のコンパクト糸「スプレンダーツイスト」、スペイン産ピマコットン使いでサイロスパン精紡による甘撚り糸「サンリットメローズ」を展開する。

 オーガニックコットン「オーガビッツ」はもちろん、トルコ産オーガニックコットンなどサステイナビリティー(持続可能性)素材にも力を入れる。トルコ産はイズミル地方の紡績工場「ウチャック」と日本国内販売の独占契約。ウチャックは自前の農場で綿栽培し、トレーサビリティー(追跡可能性)も確保する。落ちわたも混紡製品に取り入れる。

 梳毛糸では再生ウールを使った「アプリクション」やノンミュールシング羊毛使い「ローバー」、さらに19秋冬から投入するウールライクなポリエステル長繊維「ウールナット」がある。

 ウールナットはウールの毛羽感と膨らみ感を表現できる点が評価され、同シーズンは計画を上回る販売数量を記録するなど好調なスタートを切った。さらに20春夏向けから麻調ポリエステル長繊維「FLD」の展開も始める。FLDはウールナットの技術を生かして開発したもの。

 こうした差別化糸は10月9~11日に東京で開催される、「20/21秋冬ビシュウ・マテリアル・エキシビション」(BME)、10月16、17日、福井で開催される「北陸ヤーンフェア2019」に出展し、提案する。同社の北陸ヤーンフェアは初出展となる。

〈モリリン/サステな機能素材強化/本物指向の特殊糸も展開〉

 モリリンはエコロジー、サステイナビリティー(持続可能性)を重視した機能素材販売を強化する。吸水速乾ポリエステルで、97%をペットボトルなど再生資源から成る「クールマックスエコメイド」はその一つ。20春夏向けに衣料から資材まで幅広い展開を見込む。

 「セルエコロ」は消臭、UVカット機能などを持つサステイナビリティー素材。オーガニックコットン、UVカット機能を持つ「テンセル」モダール、さらにセルロース繊維をわた段階で改質することで、消臭効果を付与した「デオセル」の3者混。後加工によってさらに、涼感加工や汗染み防止加工なども付加できる。

 こうしたエコロジー、サステイナビリティーでありながら、機能性を持つ素材は他にも再生ポリエステルを使用した「ドライミックスエコ」などもそろえる。

 本物指向の特殊糸も強化する。その一つが、綿80双糸のガス焼きボイル糸「涼撚」。上撚りZZ、下撚りSSによるものでインドの綿紡績に技術指導を行い、生産技術を確立。ミセスのプリント下地向けなどへ丸編み地にして20春夏から販売する。

 80双強撚糸は安価な中国品が国内市場に投入されている。しかし、本物指向の国内市場も一定量残ると分析。高品質の綿80双で上撚りZZ、下撚りSSによるガス焼きボイル糸を生産する綿紡績がないため海外の企業を探索し、特殊糸を生産するインドの綿紡績を見つけ、技術指導し、生産体制を確立した。

 綿強撚糸シリーズのメイン素材として打ち出し、ミセスのプリント下地以外の開拓にも結び付ける。