特集 抗ウイルス加工・素材(1)/社会構造の変化で高まるニーズ

2019年10月24日 (木曜日)

 繊維上のウイルスを減少させる抗ウイルス加工・素材。社会構造の変化によってそのニーズは一段と高まる可能性を秘める。機能性を評価する試験方法も日本が中心となって国際標準(ISO)化された。中核的な役割を担った繊維評価技術協議会(繊技協)が認証する「SEK抗ウイルス加工マーク」も再び取得申請が増加の気配を見せている。

〈生活空間のリスクを減らす〉

 抗ウイルス加工・素材は、あくまで繊維上に付着したウイルスを減少させることを目的とする。このため提案の際は病気の治療や予防を目的としたものではないことを明確に認識することが重要であり、医薬品医療機器等法や景品表示法に抵触しないよう注意する必要がある。

 こうした中で抗ウイルス加工・素材に求められるのは、日常の生活空間でのウイルスのリスクを低減することにある。社会構造の変化によって人々の移動は一段と激しくなった。グローバル化で人と物の移動は容易に国境を超える。さらに世界的な気候変動は、生き物の活動範囲にも変化を及ぼした。このため、これまではなかった感染症のリスクが高まっている。

 ウイルスはさまざまな媒体によって移動・拡散する。その媒体の一つが繊維製品。このため繊維上のウイルスを低減できれば、日常生活でウイルスに接触するリスクを低減できるという発想から抗ウイルス加工・素材は生まれた。

〈公平・中立な認証制度〉

 抗ウイルス加工・素材の普及のために大きな役割を果たしているのが、繊技協が認証する「SEK抗ウイルス加工マーク」。繊技協が抗ウイルス性試験方法を開発し、ISO化を進めたことで公平で客観的な性能評価が可能になった。消費者に機能を正確に説明するアイコンとしてSEKマークの役割は大きい。

 安全性などの担保でも繊技協は大きな役割を果たしている。安全性試験の基準を定めるだけでなく、行政当局にさまざまな情報を提供することで加工剤などに含まれる化学物質の規制に関しても産業界の実情に合った内容となるよう働き掛けている。行政当局が医薬品医療機器等法や景品表示法を一段と厳格に運用する傾向が強まる中、繊技協の役割はますます大きくなる。

〈安全性を最重要視/PP練り込みタイプも開発中/ダイワボウノイ〉

 ダイワボウノイは抗ウイルス加工も機能の高さに加えて安全性を最重要視した開発・提案に取り組んでいる。抗ウイルス加工「クリアフレッシュV」で「SEK抗ウイルス加工マーク」を取得しているが、抗ウイルス加工剤を変更するなど加工の改良に取り組む。合繊練り込みタイプの開発にも取り組む。

 クリアフレッシュVは、従来は有機化合物系の抗ウイルス機能剤を使用していたが、安全性のより高い無機物系に変更した。薬剤メーカーとの連携とダイワボウノイによる機能剤固定化技術によって従来品と同等の性能ながら安全性が向上した。使用する加工剤は食品添加物に対応する安全性基準や欧米の安全性基準に適合した材料を使用している。

 SEK抗ウイルス加工マークに加えて、「抗菌防臭加工」「制菌加工(一般用途)」でもSEKマークを取得している。パジャマやインナーで採用されてきたが、寝装・寝具、介護用品にも提案を進めるなど抗ウイルス、抗菌防臭、制菌のマルチ機能加工素材として清潔・衛生に焦点を当てた用途への提案を強化する。

 ポリプロピレン(PP)やポリエステルに独自開発した抗ウイルス加工剤を練り込むタイプの開発も進めている。PP短繊維や不織布を生産するダイワボウポリテックとも連携し、衛生用途の不織布製品などへの応用を視野に入れる。

 安全性と汎用性を打ち出すことで抗ウイルス加工・素材の更なる認知度向上と普及を目指す。

〈防護服にも採用広がる/ノロウイルス対策も注目/シキボウ〉

 シキボウは抗ウイルス加工「フルテクト」「ノロガード」で豊富な実績を持つ。マスクや汚物処理シートなどのほか、防護服にも採用が広がる。織・編み物だけでなく不織布への加工にも力を入れており、衣料品だけでなく衛生関連資材でも抗ウイルス加工の提案に力を入れる。

 同社は素材メーカーの中でもいち早く抗ウイルス加工の実用化を進めてきた1社。フルテクト、ノロガードともに「SEK抗ウイルス加工マーク」を取得している。抗ウイルス加工剤も安全性の高いものを使用している。

 フルテクトはエンベロープ(ウイルス粒子にある膜状構造)があるインフルエンザウイルスを対象とした抗ウイルス性試験で性能を確認。これに対してノロガードはエンベロープがないノロウイルスの代替であるネコカリシウイルスを対象とした試験でも抗ウイルス性を確認している。エンベロープの有無いずれのウイルスに対しても機能を発揮する加工を持っていることが同社の強みとなる。

 このためフルテクトは衣料品やマスクなどで使われており、最近では作業服アパレルが防護服に採用した。ノロガードはノロウイルス対策の汚物処理シートやエチケット袋などで高い評価を得ている。ノロウイルスは感染者の嘔吐(おうと)物などが乾燥し、空気中に飛散することで感染が拡大するケースが多い。このため嘔吐物など汚物は迅速に処理する必要があり、同社のノロガードシートが活躍する。

 インフルエンザやノロウイルスによる感染症は定期的に発生する。同社ではフルテクトやノロガードで、こうしたリスクを少しでも減らすことを目指す。