2019年秋季総合特集(5)/トップインタビュー クラボウ/標準化、共有化、見える化を/社長 藤田 晴哉 氏/スマートファクトリーに本格投資

2019年10月28日 (月曜日)

 「日本の繊維産業が長い歴史の中で培ってきた現場力、技術力、開発力が有効に活用されていない」とクラボウの藤田晴哉社長は指摘する。こうした潜在力を発揮するためには、日本の製造業がこれまで追求してきた品質管理技術に加えて、ESG(環境・社会・ガバナンス)も併せ持った事業運営が求められるようになったと強調する。そのためには潜在力を標準化、共有化、見える化することが不可欠であり、それを実行する人材を確保するためにも“働き方改革”の重要性が高まる。

  ――日本の繊維産業の潜在力とは何でしょうか。

 繊細で複雑な作業を粘り強く続けて物を作り上げる現場力、また工夫や改善を積み重ねて磨き上げる技術力、そしてニーズをタイムリーに商品化する開発力でしょう。いずれも日本の繊維産業が長い歴史の中で培ってきた力です。ただ、こうした力が有効に活用されていないのが問題です。しかも現在の競争相手は新興国。どうやって日本の潜在力を発揮するかが問われています。これまで日本の製造業はQCE(クオリティー・コントロール・エンジニアリング=品質管理技術)を磨いてきました。しかし、それだけでは競争に勝つのが難しくなっています。ES(環境・安全)という考え方が求められるようになり、さらに最近ではESG(環境・社会・ガバナンス)が求められています。大手のSPAなどは自社が使っている縫製工場を公開するようになり、欧州を中心に世界的に環境規制も一段と強化されています。今後、QCE+ES+ESGに取り組むことが新興国と競争する上で重要です。

 そのためには強みを標準化、共有化、見える化することが必要です。インターネットであらゆるものをつなぐIoTなどが重要になります。そこでユーザーとのリレーションシップを築くことを目指さなければなりません。ただ注意しなければならないのは、ユーザーとリレーションシップを築いたとしても、そこから本当の消費者のニーズを捉えることができているのかという問題です。もしかしたらメーカーの自己満足で過剰スペックになっているかもしれません。商品が同質化し、価格競争で疲弊するだけの構図になっているかもしれません。本当の意味でのコミュニケーションができていないからでしょう。しっかりとPDCAを回して本当のニーズを見極める必要があります。

  ――2019年度上半期(4~9月)の商況はいかがですか。

 「厳しい」の一言です。ここに来て米中貿易摩擦の影響がジワジワと効いてきました。中国の景気が悪化している悪影響が、工作機械、自動車、半導体関連の事業で出ています。

 繊維事業はタイ子会社が苦戦しました。昨年まで綿花価格が高止まりしていた状況で手当てした綿花を消化する段階になってバーツ高による販売低迷が直撃したことで採算が悪化しました。一方、原糸はグラフト重合による原綿改質素材「ネイテック」などへの注目が高まり改善が進んでいます。天然繊維回帰の流れがある中で機能性を付与できる技術が評価されました。このため徳島工場(徳島県阿南市)でグラフト重合加工の能力を増強する計画です。ユニフォームも機能素材は堅調でした。カジュアルテイストの生地も好評です。問題はコスト。染料・薬剤高騰や物流費の増加で利益率が低下していることへの対応が課題です。カジュアルは裁断くずを原料に再利用する「ループラス」など新しいビジネスの活用を進めています。デニムも市況は良くありませんが、色落ちしないデニム「アクアティック」の販売が本格化してきました。加工段階での水使用量を減らせる環境配慮素材としても注目されました。

  ――化成品事業や環境メカトロニクス事業は。

 化成品は中国の子会社が苦戦です。中国の景気鈍化が自動車分野に影響しています。半導体関連も回復が遅れている。昨年度まで全社経費にしていたスーパーエンプラ関連の開発費を今期から化成品事業で負担するようにしたことも影響しています。環境メカトロニクス事業は昨年度が好調でしたから、売上高は前年実績を下回るかもしれません。ただ、大口案件の受注があり利益は増えそうです。

  ――今後の課題と重点施策は何でしょうか。

 今期は中期経営計画初年度です。事業環境が大きく変化する中、もう一度PDCAを回して目標に向けた戦略と施策を立て直すことが重要です。

 一方、ロボットビジョン(産業用ロボット向けカメラシステム)や半導体関連など研究開発の成果も期待できます。繊維もテキスタイルイノベーションセンター(愛知県安城市)で研究したスマートファクトリー化の投資が本格化します。紡績のモニタリングから始め、織布や染色加工へと広げます。現中計で国内工場に導入を進め、次期中計で海外工場にまで広げる計画です。

 人材確保・育成のためにも“働き方改革”も欠かせません。現中計でもダイバーシティー(多様性)とインクルージョン(受容)を重要な経営戦略に位置付けています。このほど全従業員を対象に「ダイバーシティ&インクルージョン推進宣言」を発信しました。さまざまな意思決定の場で多様な個性を尊重し合い、認め合うことで、共に活躍・成長できる職場環境・風土を築くことが目標。そこで各人が個性と強みを発揮し、イノベーションと新しい価値を創造することでより良い未来社会作りに貢献できるはずです。既に全社イントラネットに専用サイトを開設し、各種研修や制度整備を進めています。これも昨年の創立130周年で発進したメッセージ「面白いことやってやろう」「さあ、面白がろう」をさらに深掘りしたものです。

〈私のリフレッシュ法/しんのすけ君との散歩で新たな発見〉

 愛犬のミニチュア・シュウナウザー、しんのすけ君と朝夕の散歩が日課の藤田さん。「犬の気持ちに任せて歩くことが多く、知らない道を通ることも。すると『こんなところに、こんなものがあったのか』といった新しい発見がある」のだとか。愛犬家同士で出会えばあいさつを交わして、そのまま立ち話になるのは世の常。「情報通のおばさまたちと井戸端会議になるので、最近は近所の情報にも詳しくなりましたよ」と、携帯電話に保存したしんのすけ君の画像を見せながら話す様子が楽しそう。

〔略歴〕

 ふじた・はるや 1983年入社。群馬工場長、鴨方工場長、化成品業務部長などを経て2012年取締役兼執行役員企画室長、13年取締役兼常務執行役員企画室長、14年から社長。