2019年秋季総合特集(8)/トップインタビュー ダイワボウホールディングス/物質を分析・改質する力/取締役兼常務執行役員繊維事業統括 大和紡績社長 斉藤 清一 氏/衣料分野は“原点回帰”を

2019年10月28日 (月曜日)

 紡績はシーズンごとに品質が変わる農産物を原料とすることから、独自の原料調合技術を発達させてきた。「そこで必要になったのが物質の特徴を分析し、改質する技術。今後、日本の繊維産業が世界で戦えるかどうかは、この技術にかかっている」とダイワボウホールディングスの斉藤清一取締役兼常務執行役員は強調する。同社は2020年4月1日付で繊維事業子会社など5社を大和紡績に統合する。事業会社統合によって衣料、合繊・レーヨン、産業資材の連携を一段と強いものとする。

  ――日本の繊維産業の潜在力とは何でしょうか。それを顕在化させるには何が必要でしょうか。

 紡績で考えると、綿花など年ごとに品質の異なる農作物を原料として発達してきたことから、混綿による品質安定化の技術などが蓄積されてきました。天候や収穫時期のリスクをヘッジするために北半球の綿花と南半球の綿花をミックスすることでも安定した品質の糸を作り上げてきました。基本にあるのは“混ぜる”ことで新しい物を作り上げる技術です。そこから風合いや機能性を生み出すことにつながっています。これはある意味で日本の紡績が自国に資源を持たなかった故の知恵です。そして繊維は表面積を大きく確保できる材料ですから、それ生かして衛材や自動車、航空機など用途も拡大してきました。原料から最終製品までを組み上げる技術、物質の特徴を分析し、改質する技術が日本の強みです。日本の繊維産業が今後も世界で戦えるかどうかは、こうした技術にかかっています。どのような組み合わせ、改質なら成功できるのか。もっとたくさんのデータを活用するべきでしょう。そのためにAI(人工知能)などの活用も必要です。そうやって開発のスピードを上げていくことが、日本の繊維産業の潜在力を顕在化するために求められています。もちろん単独企業だけでは難しい面もありますから、どことアライアンスを組むのかも重要になります。例えば繊維企業と化学企業の連携などはさらに必要性が高まるでしょう。

  ――2019年度上半期(4~9月)も終わりました。

 繊維事業は健闘していますが、やはり前年同期と比べるとダウントレンドです。原料高騰の問題や米中貿易摩擦の影響など不透明な部分が増えてきました。中でも衣料部門は厳しさが増しています。衣料品の市況が振るいません。百貨店アパレルも構造改革に動いているのは、現在の厳しさを象徴しています。消費の中心が情報通信にシフトしている影響が一段と強まっているのでしょう。対米輸出も米国の消費がダウントレンドとなっていることで鈍化してきました。

 合繊・レーヨン部門は昨年度、原料価格の乱高下で苦しんだのですが、今期は持ち直しつつあります。特に衛材用途は改善が進みました。中国の電子商取引法改正の影響も落ち着きを取り戻しています。産業資材部門も悪くありません。カンバスは製紙用途だけでなく周辺部材でも販売ができてきますし、土木資材や建築資材もインフラ関連が堅調です。防災関連やセンサー関連でも需要が拡大しています。こうしたニッチな分野にも積極的に技術投入しています。

  ――海外子会社の状況はいかがですか。

 全体として順調でした。フル生産が続いていた中国とインドネシアの縫製子会社はここにきて落ち着きつつありますが、稼働率を心配するような状態ではありません。インドネシアの不織布製造子会社は今期に入ってから受注が好調です。同じくインドネシアの産業資材織物子会社も順調でした。土木関連が好調です。

  ――今後の課題や重点戦略は何でしょうか。

 今下半期だけに限れば、衣料部門、合繊・レーヨン部門、産業資材部門いずれも不透明感がありながらも最低ラインはクリアできるでしょう。しかし、その後の環境は一段と厳しくなるとみています。合繊・レーヨン部門は現在、衛材や生活資材用途が中心ですが、今後はどれだけ工業資材の分野に広げることができるかが重要になります。産業資材部門は新しい産業に向けた部材用途にどれだけ入ることができるかがポイントです。

 衣料部門は最も状況が厳しいので、こんな時こそ“原点回帰”。コットンは今後も重要な繊維原料であり続けます。米国を中心に綿花栽培での水や薬剤の使用量を減らす努力も進められています。生分解性にも改めて注目が高まってきました。こうした特徴を生かして徹底的に開発・提案することです。ポリプロピレンも生分解や再生に関する研究開発を進めます。生分解性に関してはダイワボウレーヨンが既にレーヨンでエビデンスのある原料を持っていますから、これも衣料用途にどう組み込むか。コットンも含めて再生原料の循環システムを作ることもできるでしょう。

  ――20年4月1日付でダイワボウポリテック、ダイワボウプログレス、ダイワボウノイ、ダイワボウアソシエ、ダイワボウエステートを大和紡績に統合します。

 繊維事業として各部門の連携が一段と強まります。これは国内だけではありません。ダイワボウノイは上海とニューヨークに事務所を持っていますが、統合後はこれを合繊部門や産業資材部門でも活用できます。インドネシアも衣料、合繊、産業資材それぞれが現地工場を持っています。これまで独自に動くことが多かったのですが、やはり統合後は連携を進める必要があります。そこで大和紡績としてジャカルタにインドネシア全体を統括する機能を持った拠点を設立することを検討しています。

〈私のリフレッシュ法/2日間で1430キロを走破〉

 「趣味は何かと聞かれると、やっぱり学生時代からの趣味である自動車になる」と言う斉藤さん。今でも年に2回は愛車でのロングドライブに出掛ける。2年前には東京から埼玉、山形、秋田と周り、2日間でなんと1430キロを走破した。「運転中は何も考えない」と言うように、車を操作することに集中すると、嫌なことは全て忘れてストレスも消えていく。「予定も決めずに、気の向くままに運転し、やはり気が向いたら休憩する。そこでおいしい物を見つけて食べれば、もう満足です」。

〔略歴〕

 さいとう・きよかず 1982年大和紡績(現・ダイワボウホールディングス)入社。2009年ダイワボウノイ取締役、10年ダイワボウノイ常務、11年大和紡績取締役兼ダイワボウノイ社長、16年ダイワボウホールディングス執行役員、18年ダイワボウホールディングス取締役兼常務執行役員兼大和紡績専務兼ダイワボウポリテック社長。19年4月からダイワボウホールディングス取締役兼常務執行役員兼大和紡績社長兼ダイワボウポリテック社長。