2019年秋季総合特集Ⅴ(3)/産業資材分野の潜在需要/合繊メーカー編/止まらない成長戦略

2019年11月01日 (金曜日)

 化繊協会がまとめた「2018年度化学繊維ミル消費量の調査」によると、産業資材用のミル消費は前年の29万8千トンから29万3千トンに縮小。国産品が16万8千トンから15万9千トンへと減少する一方、輸入品が12万9千トンから13万5千トンへと増えた。それでも、合繊メーカーの産業資材領域への傾斜は止まらない。特に、自動車関連分野を中心に高機能素材でスチールのような既存マテリアルからの代替を目指すアプローチが年々、加速している。ここでは、炭素繊維複合材料、エアバッグ用ナイロン66、ポリプロピレン(PP)スパンボンド不織布の動向を追った。

〈幅広い用途で需要が拡大/炭素繊維複合材料〉

 軽くて強いという特徴を持つ炭素繊維。比重は鉄の約4分の1で、ガラス繊維やアルミよりも軽い。一方で強度や弾性率に優れている。金属に置き換わる軽量材料として本命視されるのは、こうした特性からだ。樹脂と複合した炭素繊維複合材料は自動車や飛行機のほか、産業資材など幅広い用途で使用されている。

 東レは、ニーズの拡大が見込めるエネルギー関連とモビリティーの二つの分野に視線を注ぐ。エネルギー関連では風力発電機翼や燃料電池自動車の水素タンク容器向けなどで販売拡大を図っていく。モビリティーでは、航空機や自動車に加え、航空機メーカーなどが開発を進めるアーバンエアモビリティー(都市航空交通)などで成長を狙う。

 帝人は、航空機用途向けで販売を伸ばしているが、熱可塑性樹脂を使用した一方向性プリプレグテープがボーイング社(米国)の認定を受けた。ボーイング社の航空機の一次構造材向けに同テープの供給を開始する。帝人は2025年度から大きな飛躍を目指し、30年度には航空宇宙分野で1千億円の売り上げ規模に育てる。

 三菱ケミカルは、自動車向けの販売が伸長している。欧州を中心に順調な動きを見せるが、多様な材料を持ち、加工度を上げた提案が高い評価を得る。22年度には現在の売上高に数百億円の上乗せを目指す。コネクテッド(C)、自動運転(A)、シェアリング(S)、電動化(E)の頭文字を取った「CASE」を意識した展開も進める。

 炭素繊維の需要は今後も着実に伸びると予想されている。サーキュラーエコノミー(循環型経済)への対応が大きな課題とされるが、リサイクルの技術も進み、「後はいかにシステムの仕組みを作るか」といった段階にある。ただ、先端材料だった炭素繊維も海外勢の台頭でコモディティー化が指摘されるようになってきた。一層の高付加価値化も求められている。

〈次をにらんだ布石を打つ/エアバッグ用ナイロン66〉

 エアバッグ用ナイロン66の市場では、原糸・エアバッグ布を展開する東レ、東洋紡、原糸生産の旭化成、エアバッグ布の帝人フロンティアがしのぎを削っている。

 グローバルな市場については、中国での自動車生産の減速などにより、「足元の状況はよくない」との点で各社の見方は一致する。しかし、今後はインドなどでの需要増が期待できること、自動運転の普及に伴いエアバッグを搭載する箇所が増えていくこと、新興国でもエアバッグ規制が進むこと――を背景に、「グローバルな需要は年率7~8%で拡大する」との見方が強い。

 このため、各社は市況回復後の事業拡大をにらんだ布石を打とうと動き出しており、中でも海外に原糸工場や織布拠点を確保しようとする取り組みが活発化している。

 東レは2018年度下半期からインド、メキシコの織布工場で量産を立ち上げており、今年はスウェーデンのエアバッグ縫製メーカーであるアルバ・スウェーデンとポルトガル、チュニジアの子会社の買収を決定。原糸生産で日本、タイ、メキシコの3極、織布で日本、タイ、中国、チェコ、インド、メキシコの6極体制を構築した。

 東洋紡は敦賀事業所第二の火災で大打撃を被ったものの、現在は外部から調達する原糸でエアバッグ事業を展開中。昨年末にグループ会社のPHPがドイツ、メキシコに工場を構える大手織布メーカー・UTT買収を決定。東洋紡は海外に合弁で原糸工場を建設するための協議を急いでいる。

 旭化成は現在、ナイロン66「レオナ」の増設を進めており、まもなく新設備を立ち上げる。海外への進出も検討していたが、目下の情勢を踏まえ「1~2年、遅らせる」公算が高くなった。

 帝人フロンティアは日本、中国でエアバッグ布を生産。現在はベトナム、インドネシアへ進出するための企業化調査を進めている。

〈海外での増設相次ぐ/PPスパンボンド不織布〉

 炭素繊維、エアバッグとともに合繊メーカーが拡大戦略を進めているのがポリプロピレン(PP)スパンボンド不織布事業。東レ、旭化成、三井化学がそれぞれ国内外に生産拠点を構え、主に紙おむつ向けに展開する。

 その紙おむつ市場、現在は中国市場の減速、インバウンドの爆買いの鎮静化によって一時、踊り場的な状況を迎えており、各社はここに来て慎重な構えを示している。

 しかし、アジアを中心とする新興国での紙おむつ需要は今後も安定的に伸びていくとみられており、スパンボンドメーカーに拡大戦略を緩める気配は感じられない。

 東レは中国、インドネシア、韓国の世界3極に年産17万1千トン体制を構築。現在、中国・仏山、インドで新工場建設を進めており、両拠点を加えることで4極・20万9千トン体制に引き上げる。滋賀事業所には開発設備を導入しており、次世代型の紙おむつ素材を20年度中に完成させたいと考える。ポリ乳酸繊維による開発にも意欲を示す。

 旭化成は2019年度スタートの中計で、海外市場での拡販を重要課題に位置付けている。現在、タイの旭化成スパンボンド〈タイ〉(AKST)で設備投資を進めており、年産5万トン体制に増強。21年7月からの量産を計画する。旭化成は紙おむつ向けに高機能タイプを3銘柄ラインアップしており、さらにソフト感を引き上げた新タイプの開発を急ぐ。

 三井化学は柔軟・高強度が特徴の「エアリファ」の販促に力を入れており、日本、タイ、中国の3極で生産する。一方、非衛材開拓も重視しており自動車やフィルターなどでの取り組みを強化するため今年4月、産材開発室を発足した。