2019年秋季総合特集Ⅲ(12)/トップインタビュー クラボウインターナショナル/高機能素材の開発が得意/社長 西澤 厚彦 氏/EC活用と海外開拓が課題

2019年10月30日 (水曜日)

 クラボウインターナショナルの西澤厚彦社長は、日本の繊維産業には潜在力がたくさんあると話す。例えば高機能素材や高感性素材を作り上げる力。それらはクラボウやクラボウインターナショナルにも数多くある。しかしそれを顕在化し切れているとは言い難い。ECビジネスの活用や海外市場への発信が課題になる。現状と戦略を聞いた。

  ――日本の繊維産業が持つ潜在力とは。

 国内に大きな市場があること、高機能・高性能繊維の開発と生産が可能、高品質・高感性素材の開発と生産が可能、卓越した技術を持つ会社同士による分業体制という4点だと思います。

 日本にはアパレルだけで約10兆円の市場があり、そのことで世界に先んじた商品開発も可能になります。化学繊維、天然繊維を活用した糸からの素材開発も得意。機能を向上させる素材開発の技術力は世界トップクラスです。品質のバラつきも少なく、極細番手紡績糸と整理加工技術によって作り出される繊細な風合いなど、他国がまねできないような高感性素材の開発や、その繊細な素材を製品にする縫製技術を持っています。

 分業体制も強み。一社ではなかなか難しい商品が分業では可能になるし、フレキシブルな生産体制も組めます。

  ――それらの潜在力を顕在化させるためには。

 10兆円規模の市場があるとはいえ、近年はファストファッションが台頭し、「着飾る」ことをしなくなっています。そうした人たち、特に40歳以下の人たちに、着飾る場所と機会を提供することが必要でしょう。コト消費とファッションビジネスを結び付けるなどが考えられます。

 高機能・高性能な繊維は既に世界的にも認知されており、特に資材用途では世界中で採用が進んでいます。これをファッションにも生かしたい。例えば「楽しい」「うきうきする」といったキーワードに高機能・高性能な繊維が貢献できるのではないでしょうか。

 品質の高さも認知されています。しかし高感性の部分では認知度は低い。国際的な展示会や越境電子商取引(EC)ビジネスなどで認知度を上げていくべきです。

 分業体制には弱みもあります。高コストになるため今の日本市場にはマッチしにくい。ですから、海外展への参加やECの活用でその魅力を世界に知らしめていくべきだと思います。

  ――上半期(2019年4~9月)を振り返ってください。

 前年同期比減収です。カジュアル分野は織物製品、編み地製品ともに店頭の不振により苦戦しました。ユニフォームは引き続き堅調な推移です。20年の東京オリンピック・パラリンピックに関連した建設ラッシュにより建設現場で働く人が増えています。非正規の割合が高まってはいますが、その人たちもワークウエアは着用しますからね。さらに、インバウンド効果でホテル、飲食店などが活況であることから、そこに向けたサービスウエアも好調に推移しています。

 中東向けは増収増益です。リネン分野や子供服分野も堅調です。

 技術部は守りの部分は及第点でしたが、マーケティングやクレームの前つぶしなど攻めの部分が不十分だったと反省しています。下半期は守りだけでなく攻めの部分に力を注ぎます。

  ――下半期の景況見通しを。

 アパレル店舗の閉鎖計画が相次ぐなど繊維業界を取り巻く環境は非常に厳しい。生産に関しては、米中貿易摩擦の影響で変化が見られます。中国では、米国向けの抜けた穴を日本向けなどで補完しようという積極的な企業と、米国向けの穴を埋めきれずに操業休止や廃業する企業との二極化が見られます。当社のサプライヤーにも一部で休止、廃業の動きがありますが、現時点ではうまく采配できており、今のところ大きな影響は受けていません。

 ベトナムとインドネシアは、中国から流れてくるオーダーの受け皿になっており全体として好況です。ただ、そのあおりとして日本向けがはじかれる事例も出てきていますので、注意、見直しが必要です。

 バングラデシュでは米中問題や日韓問題などの影響はほぼ感じません。一時期ほどの勢いはないものの、低価格化の流れの中でバングラデシュ縫製のニーズは高い。ただ、発注者の中にはバングラデシュ縫製のリスクがまだ理解されていません。中国やベトナムと同等の高品質商品が低価格でできると思っているところもあります。低価格なりのリスクはあるということを啓発していく必要があります。

  ――重点方針は。

 既存ビジネスの内容確認、新規ビジネスの創出、クラボウグループとの連携強化、人材育成、品質管理・品質保証の強化、ECビジネスへの対応力強化に取り組みます。通期は減収営業増益を見込みます。

〈私のリフレッシュ法/長く続く異業種交流会〉

 タイ・バンコクへの赴任経験がある西澤さん。赴任時代に、バンコク日本人商工会議所関連で「異業種交流会」が立ち上げられ、メンバーに名を連ねた。20人のメンバーは自動車、化学品、家電、銀行、建設、商社などの代表者と多岐にわたり、2016年に帰国した後もこの会から派生した分科会や全員が参加する総会が開かれている。「繊維業界一筋の私にとって、国内外で活躍する異業種の皆さんとのコミュニケーションはすごく新鮮でエネルギッシュな場。精神的なリフレッシュにもなっている」と言う。

〔略歴〕

 にしざわ・あつひこ 1982年クラボウ入社。テキスタイル第一部長などを経て2013年執行役員タイ国担当兼タイクラボウ社長兼サイアムクラボウ社長。16年6月常務執行役員繊維事業部繊維製品事業担当、同年9月から現職。