特集 環境白書(2)/有力繊維企業/環境対応で人と社会に貢献

2019年12月04日 (水曜日)

〈CLOMA/海洋プラ問題解決へ活動加速〉

 プラスチックによる海洋汚染が世界的な問題になっている。毎年約800万㌧のプラスチックが海域に流出していると報告(2015年)され、50年には海洋中のプラスチックが魚の量を上回るという試算もある。その解決は大きな課題と言え、日本では幅広い企業が参加する団体「クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス(CLOMA)」が活動を加速している。

 CLOMAは、海洋プラスチックごみ問題の解決を目的に、19年1月に発足した。幅広い企業が集い、設立時に約160だった参加企業・団体は、11月には270を超えた。その中には旭化成、イオン、伊藤忠商事、クラレ、ダイワボウレーヨン、帝人フロンティア、東レ、東洋紡、豊田通商、ファーストリテイリングなどの名前が見える。

 普及促進部会、国際連携部会、技術部会の下で活動を行い、CLOMAビジョンも作成。①プラスチックの使用量削減②マテリアルリサイクル率向上③ケミカルリサイクル技術の開発・社会実装④生分解性プラスチックの開発・利用⑤紙・セルロース素材の開発・利用――の五つのキーアクションに取り組む。

 海洋プラスチックごみ問題の解決には「使用済みのプラスチック製品の適切な回収・処理」の徹底が不可欠であり、リサイクルがポイントの一つとなりそうだ。ただエネルギー回収が欧州で認められていないことを考えると、社会実装が比較的進んでいるマテリアルリサイクル率の向上が求められる。

 海洋プラスチックごみ問題への対応では、非営利国際団体「廃棄プラスチックをなくす国際アライアンス(AEPW)」が今年1月に設立されたほか、化学産業の主要企業・業界団体による「海洋プラスチック問題対応協議会(JaIME)」なども独自の活動を続けている。CLOMAは他の組織との連携も深める方針を示している。

〈三陽商会/環境アクションプラン策定〉

 サステイナブル(持続可能な)経営を目指すアパレル企業が増える中で三陽商会では、アクションプラン「EARTH TO WEAR(アース・トゥー・ウエア)」をいち早く取りまとめた。2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)12番目の項目「つくる責任・つかう責任」を念頭に細かいルールを策定している。

 同社はCSR活動の一環として、環境保全や社会貢献、コンプライアンス活動を実施しており、17年にアース・トゥー・ウエアの概念をまとめ上げた。折しもマーケットではサステイナブルやエシカル(倫理的)といったマインドが注目され、17年を境にファッション業界に“SDGsシフト”が起こっている。

 具体的には、今年既にビニール製ショッパーを全て紙製に切り替えたほか、包装や値札などのプラスチック部品についても再生可能な資材に移行する方針。19秋冬シーズンから全ブランドでリアルファーの使用を中止し、サプライチェーンに向けても児童労働や人権尊重、安全衛生などを共有する取引行動規範を策定した。

 同社では「長く着用できることはSDGsにもつながる」と話し、縫製の精度を上げる考え。さらに不用となった衣料品回収を実施し、日本環境設計(東京都千代田区)のリサイクル・プロジェクトによって新しい服の原料や自動車内装材などに再資源化する。

 20年1月からは、大型直営店「ギンザタイムレス8」全館で再生可能エネルギー由来の電気を調達する「みんな電力」(東京都世田谷区)の導入を決めた。ユニークなところでは、小学校に三陽商会のデザイナーやパタンナーを派遣し、服づくりの仕事や製作プロセスを説明する「服育授業」を実施している。その際、残布を使ったバッグを製作するワークショップで、服を大事にすることを伝えている。

〈レッグウエアメーカー/つり下げフックなどで環境対応〉

 レッグウエアメーカーは、つり下げフックや包装資材を環境負荷の小さい材料に切り替えている。福助が19秋冬で先行し、20春夏からはアツギやナイガイも本格化する。サステイナビリティー(持続可能性)への対応として注目されており、レッグ以外の衣料品を含め、包装資材の標準になる可能性がある。

 プラスチックごみによる海洋汚染が国際的な問題となる中、環境保護を重視する流れが加速しており、繊維企業もプラスチックとの新たな付き合い方を模索し始めている。レッグウエアメーカーが目を向けるのは、包装資材などでの使い捨てプラスチックの削減だ。

 アツギは、つり下げフックや包装資材で通常のプラスチックと比べて焼却時の二酸化炭素(CO2)排出量が60%削減できる「グリーンナノ」、サトウキビを原料としたバイオプラスチックのグリーンポリエチレンを採用する。「アツギ ザ レッグ バー」「むつソックス」など、ナショナルブランドを中心に取り組みを深める。

 ナイガイは、石灰石を主成分とする「ライメックス」をつり下げフックやハンガー類などに用いていく。ライメックスは、耐久性や耐水性に優れ、プラスチックの使用量を60%削減でき、循環型の資源として注目されている。同素材を使ったフック類は主成分の50%以上が石灰石のため、可燃物として処理できる。

 福助は、19秋冬物から、「フクスケ ファン」ブランドで使い捨てプラスチックの削減に乗り出した。つり下げフックを紙製に切り替えたほか、商品を止めるピン(タグピン)を糸に変更した。今後はストッキング・タイツで、リサイクルナイロンや再生ポリウレタン弾性繊維の活用を進めるとしている。

 日本製靴下の流通量の明確な数字は分からないが、環境対応資材が増えれば相当量の使い捨てプラスチック削減につながることは間違いない。

〈東レ/新事業ブランドを設定〉

 東レは、サステイナブル(持続可能な)社会の実現を目指すための事業ブランドとして「アンドプラス(&+)」を立ち上げた。ペットボトルリサイクル繊維の展開を加速するが、高付加価値品の生産技術を確立し、幅広い用途への提案を可能にした。高付加価値ペットボトルリサイクル繊維は2020年から本格販売に入る。

 ペットボトルリサイクル繊維は、原料への混入異物などから特殊断面糸や細繊度糸の生産が難しい。糸種が定番品に限定されるほか、白度が損なわれることも問題になるが、原料に含まれる異物を除去する技術とペットボトルの高い洗浄技術を持つ協栄産業(栃木県小山市)との連携で、課題克服を図った。

 東レの繊維生産技術と組み合わせて多様な繊維断面の生産と細繊度化を実現し、ペットボトルリサイクルを資源として本格的に活用する体制が整ったことから事業ブランドの設定に至った。独自のトレーサビリティー(追跡可能性)付与技術でリサイクル原料使用の証明も可能という。

 糸・わた、テキスタイル、縫製品で提案。用途はファッションやスポーツ、ライフスタイルウエア、ワークウエア、不織布、生活資材などを想定。

〈三菱ケミカルアクア・ソリューションズ/PVDF膜製品の販売順調〉

 三菱ケミカルアクア・ソリューションズ(東京都品川区)が膜分離活性汚泥法(MBR)向けに展開しているPVDF膜モジュール製品は、省スペースや高度な処理水が得られるといった特徴を持つ。海外市場で販売が伸びているほか、国内も堅調。ゼロ排水などの新需要もあり、一層の成長は可能とみる。

 MBRは沈殿槽が不要のため、標準活性汚泥法(CAS)の3分1から2分の1のスペースで済み、世界中の下排水処理設備で採用が増えている。世界市場は年率7%で成長していると推定され、特に中国の需要が旺盛。人口が多い国の需要も確実に伸びていくと予想されている。

 MBRに用いられるのがPVDF膜モジュールで、同社製品は繊維技術と高分子コントロール技術の融合によって高い膜集積率やばっ気洗浄性を誇る。日本のほか、中国や欧州、インドなど幅広い国・地域に市場が広がり、2019年度(20年3月期)上半期の販売は市場の伸び率を上回った。

 排水を工場の外に出さないZLD(ゼロ・リキッド・ディスチャージ)の関心も高まり、PVDF膜モジュールの活躍の場はさらに増える気配で、同社は一層の販売拡大を目指している。

〈旭化成/「ベンベルグ」を前面に〉

 旭化成は環境に配慮した素材として「ベンベルグ」をあらゆる用途に打ち出している。元々は捨てられていたコットンリンターをピュアな再生繊維に生まれ変わらせている点、廃棄後は自然に返る生分解性能などをPR。環境への意識の高い欧米ユーザーから引き合いを集めているという。

 既にGRS(グローバル・リサイクル・スタンダード)といった環境関連の認証を取得しており、現在は海洋中でも生分解する物性で認証取得を目指している。

 昨年は「プルミエール・ヴィジョン」に新しいフィブリル加工「ベルティーン・エポ」を出展。イタリアの環境関連認証機関から、従来のフィブリル加工よりも温室効果ガス排出量を16・5%、エネルギー消費量を21%、水使用量を19・5%それぞれ減らせることが認証されている。

 今年は中国の大手アパレルと連携し店頭プロモーションを実施。動画や下げ札、POPなどでベンベルグのサステイナブル(持続可能性な)物性を訴えた。

 不織布「ベンリーゼ」でも、エコな物性を打ち出し新規用途の開拓につなげたいとしており、マイクロプラスチック問題の解消につながる商材の開発を急いでいる。

〈クラレ/「クラリーノ」で3エコ素材〉

 クラレはこのほど人工皮革「クラリーノ」で3タイプのエコ素材をラインアップ。来年度から靴やバッグ、IT機器などの用途に本格販売する。

 新たに開発したのは、有機溶剤を使用しない「クラリーノ―TN」、再生ポリエステルによる「同―SR」、再生ナイロンによる「同―NR」。

 再生原料使いの新素材開発に伴い、新たなブランディングも実施。有機溶剤を使わない環境に優しい製造方法で生産する「ティレニーナ」を同TNに改称した。

 基布にペットボトル再生ポリエステルを導入する溶剤タイプの販売を来年度からスタートさせる。無溶剤タイプの販売も検討している。

 SRでもペットボトル再生ポリエステルを基布に導入。銀付き(本革調)・溶剤タイプが既にインテリア関係で採用されている。NRは国内外から調達する再生ナイロン短繊維使い。銀付き・溶剤タイプによる企画提案に取り組んでいる。

 このほか、クラレは銀付きの造面加工を無溶剤で生産するノウハウを確立しており、基布に再生ポリエステルや再生ナイロンを使う人工皮革を早急にラインアップし、新ブランドで打ち出したい考えだ。