CSR特集(4)/CSRに取り組む検査機関

2019年12月11日 (水曜日)

 CSR(企業の社会的責任)はサステイナビリティー(持続可能性)の潮流が強まるほど重視される。特に繊維は複雑で長い工程が特徴であり、その責任はサプライチェーン全体に及ぶ。商品の安全性から環境配慮、さらに労働環境や人権問題まで幅広い。検査機関の取り組みを見る。

〈カケン/中国でCSR監査進める〉

 「サステイナビリティーは世界の潮流。環境や安全・安心は今後のキーワードになる」。カケンテストセンター(カケン)は、サステイナビリティー対応をより強化するため、テキスタイルエクスチェンジ、化学物質の環境排出に関する企業団体ZDHCに加盟している。

 テキスタイルエクスチェンジ(TE)は米テキサスに本部があり、環境配慮型の繊維・材料の環境や社会に優しい広範囲なデータ、市場分析を提供する。繊維産業のサステイナビリティーに対する標準認証の提供なども行う。ZDHCはオランダに本部を置く。有害物質ゼロを目指すロードマッププログラムを管理し、消費者、労働者、環境を保護するための持続可能な化学を推進。テキスタイル、レザー、アパレル、フットウエアなど多くの企業が加盟している。「二つに加盟することで、より多くの情報を得られる。将来的には事業化にも結び付けたい」という。

 CSR工場監査も進める。カケンの上海科懇検験服務は現地スタッフを教育して工場のCSR監査を2年ほど前から開始。IRCA(国際審査員登録機構)に準拠した免許有資格者指導を基に実施する。今後もエリアを広げていくため、他の拠点でもスタッフを育成しているところだ。

 「法令を順守し、人権を守り、公正な労働条件に配慮し、環境の保全にも努めることも企業の社会的責任になっている。CSRの基礎からCSR調達まで解説するセミナーを開くなど、情報発信も行っている」と言う。今年6月には東京、大阪、名古屋でCSRセミナーを開催。CSRの基礎から体制作り、中国労働法概要まで説明した。

〈ボーケン/持続可能な企業活動支援〉

 ボーケン品質評価機構(ボーケン)は、SDGsやサステイナビリティーが世界的な動きとなる中で、各企業の持続可能な企業活動の実現をサポートしている。「お客さまと共同で品質保証を行う会社へ」をスローガンに、SDGsに向けた課題解決に向けて取り組む。

 ボーケンは工場の製品品質を上げるQC監査を行っている。サプライチェーンの管理支援では、人権や労務管理などがきちんと行えている工場かどうかを確認するCSR監査業務も今夏から行っている。依頼企業と打ち合わせを行って作成した監査項目やチェックリストでの監査、ボーケンがあらかじめ用意した監査項目やチェックリストでの監査など、状況に応じて柔軟に対応する。増員のため、中国人スタッフを育成中。来春には上海、常州、青島の拠点からのCSR監査も予定する。

 有害物質管理の支援も行う。国内外の有害物質規制や、ZDHC、SACなどの情報収集と提供を実施。サプライチェーンを含む化学物質管理の会合や出張しての情報提供、管理の仕方についてもサポートする。アパレルおよびフットウエアに関する国際RSL管理(AFIRM、ZDHC、SACなど)についても、提携先のSGSと協力して抜取検査や製品管理を行っている。

 商品開発・品質管理でも、本生産前の最終サンプルを用い、仕様書通りの部材か、有害物質の含有はないかなど審査する。リサイクル繊維や植物由来繊維、生分解性、マイクロファイバー問題などに関するさまざまな問い合わせに応じ、共同開発の相談にも応じている。情報提供にも注力し、サステイナビリティー関連セミナーも開催する。

〈QTEC/ZDHC加入を生かす〉

 日本繊維製品品質技術センター(QTEC)は11月にQTEC東部事業所で、「サステイナビリティー(SDGsとZDHC)」に関するセミナーを開いた。アパレルなど取引先を対象にしたが、「参加者の関心は高かった」という。

 QTECはZDHC(環境系への有害化学物質の排出ゼロを目指す企業連合)に日本の繊維検査機関として初めて加入した。ZDHCは国連で合意されたSAICM(戦略的な化学物質管理計画)に定められた化学物質の適正管理を図る取り組みを具体化するため、2011年に設立。化学剤企業や試験認証機関の支援の下で、ZDHCの有害物質を定め、環境系への排出リスクの解消、工程従事者の健康・衛生と製品使用者の安全を図る。

 加入により「ZDHCのメンバーブランド企業と直接間接に取引のある企業に対し、日本語による情報提供と支援を行うことができる。化学物質の適正管理を志向する企業にも、ZDHC方式の取り組み支援が可能」になった。

 これまで中国や東南アジアなどの工場のQC監査を行ってきた。この監査業務の経験を活用してZDHCに加わった。来年度に向けて、QC監査に加え、CSR監査の準備も進めている。QTECは労働人権に関する日本の社団法人「ASSC」(ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン)とパートナーシップを結んでもいる。

 「サステイナビリティーに向け何から始めたらいいかという質問をよく受ける。使い捨てではない、いいものを作って提供することから開始すればいいと答えている」。こうした相談が増えている。