東レ・帝人/南通で長繊維織物を増産
2001年11月29日 (木曜日)
合繊メーカーの両雄、東レと帝人が中国江蘇省南通市の経済技術開発区で、増設を競っている。東レはサカイオーベックスと共同出資の長繊維織布・染色会社、東麗酒伊織染(TSD)に新工場を建設、現状の月産250万メートルを3倍の750万平方メートルにする。帝人は全額出資の南通帝人のポリエステル長繊維織布を同250万メートルから300万メートルに、同染色を350万メートルから450万メートルにそれぞれ増設する一方、敷地内に新潟産地のプロダクションチーム(PT)、第一合繊を誘致、生機生産をさらに22万メートル増やす。ポリエステル長繊維生機でみると、両社とも国内生産のほぼ3分の1の規模を南通で生産することになる。世界貿易機関(WTO)加盟で中国が世界のアパレル生産基地としての位置付けがさらに高まるとの読みがある。
第一合繊の進出決まる/ 自社の織布染色も拡大
両社が中国での長繊維テキスタイル生産事業に進出することを決めたのは同じ94年、立地も同じ南通市経済技術開発区で、業種も染色加工からだった。
帝人は同技術開発区との合弁で裏地染色の第1公司(技術指導はダナックス)を設立したのを皮切りに、表地織布・染色の第2公司(同第一合繊とキタセン)を伊藤忠商事、帝人商事と、裏地織布の第3公司(同和興)を全額出資で相次ぎ設立。今年3月には3社を合併するとともに、全額出資子会社とした。
この段階では、織布250万メートル(裏地215万メートル)、染色350万メートル(裏地250万メートル、表地100万メートル)だったが、このほどウオータージェット織機(WJL)80台を増設、さらにレピア織機32台を導入して300万メートル体制を敷く。染色設備も来年には2系列増やし450万メートルとする。さらに第一合繊の進出で生機322万メートルとなり、不足する生機は日本などから持ち込む。
都解圭郎総経理は「設立以来5年間は苦労を強いられたが、その分中国における様々なノウハウも蓄積できた。WTO加盟により中国内で高品質素材の需要は確実に増え、持ち込む原糸の輸入関税も下がる。方向はさらなる増設だ」と意気込む。敷地34万6000平方メートルのうち、まだ半分近くが空き地になっており、北陸PTとの調整が進めば、次の増設が日程に上ってくるのは間違いない。
またタイ・ナムシリや伊TMIなど他の長繊維川中拠点とのグローバル・オペレーションも強化される見通しだ。
80億円投じ3倍増設/ 薄地高密度織物に参入
東レはサカイオーベックスと共同で染色の東麗酒伊印染を96年に月150万メートルで立ち上げ、翌97年には同規模の織布会社、東麗酒伊織布が稼働し、織染一貫体制を整えた。昨年12月には両社を合併するとともに、能力を200万メートルから250万メートルへの増設を行った。
当初は東レからの委託加工が中心だったが、隣接する重合紡糸会社、東麗合成繊維(TFNL)の立ち上げと内販の拡大により、自主販売が主力になっており、来年には委託加工をゼロにする。
現状の製品はポリエステル中肉厚地だが、新工場には、WJL680台、液流染色機35台を導入し、薄地高密度織物(ポリエステル300万メートル、ナイロン200万メートル)を手掛ける。中国や欧米の大手スポーツアパレルが対象で、原糸はポリエステルをTFNLから、ナイロンをインドネシアのITSから調達する考えである。
増設に必要な約80億円の資金は、現地邦銀からの融資と東レからの増資で賄う。その結果東レの出資比率は66・9%から76・78%に高まる。
「中国では年間50億メートルのポリエステル長繊維織物が生産され、ボリュームゾーンは供給過剰気味だが、高品質商品の引き合いはおう盛」と田中英造副董事長は増設に自信をみせる。
隣接するTFNLでは市況が低迷し、将来的にも需要が増えないチップ売りを減らし、加工糸へのシフトを進める一方、重合設備の増設も視野に入っている。
国内生産の3分の1に/ 戦略ターゲットは内販
競い合うように増設する両社だが、条件や戦略の違いから現状の展開は必ずしも同じではない。最大の違いはテキスタイル国内生産の位置付けと中国に原糸工場を持っているかどうかである。
「国内生産維持」を掲げる東レは、上海に専任の担当者と独自事務所・ショールームを置いて、“持ち返り輸出”の拡大にも力を入れるため、TSDの製品は「日本ではコストが合わないが、中国ローカル企業では生産できない高品質品」となる。南通帝人は染色と織布能力にギャップがあることもあり、日本で生産した生機の持ち込みを含めて、対日縫製工場へも積極的に供給している。
この結果、中厚地内販商品の単価を比べても、TSDの1メートル20元(1元=約15円)前後に対し、南通帝人は約50元(いずれも増値税込み)と大きく開いている。しかし、両社とも戦略ターゲットが欧米向け間接輸出を含む内販にあるという点では共通している。
中国では江蘇省、浙江省など華東地域を中心に年間4000~5000台規模で革新織機の増設が行われているという。量では世界最大の合繊長繊維織物生産国であり、すでにEU向け輸出では最大のシェアを持つ。そのあおりを韓国品が受けていることから考えると質の面での向上も進んでいるのは間違いない。
世界最大のアパレル生産国である中国で、日本の合繊メーカーのテキスタイル事業が成功するのか――。北陸産地との兼ね合いを含め、その答えが出るにはまだ数年かかりそうだ。