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奈良靴下産地/セット業者が足りない!/サプライチェーンに危機

2020年02月18日 (火曜日)

 国産靴下の6割以上を生産する奈良産地で、セット業者の不足が深刻になっている。後継者難、技術者の高齢化、最低賃金の上昇…こうした難題を前に廃業が後を絶たない。新たな発注に応えようとしても、セット工場が見つからず生産に支障をきたす靴下メーカーも出ている。(橋本 学)

 日々の衣料品として欠かせない靴下やストッキング。売り場で商品を手にする時、大抵は足の形をしている。それは靴下専門のセット業者の仕事によるものだ。“仕上げ”とも呼ばれ、彼らが足型をしたアルミ板に、メーカーが編んだ靴下を1足ずつ、手作業ではかせて、セット機の蒸気熱で形を固定する。形状だけでなく、靴下の最終的な風合いやサイズ、質感をも決定付ける重要な工程だ。

 ところが、国産靴下生産量の大半を占める奈良産地で、ここ10年ほどでセット業者の不足が深刻さを増している。最近では従来、セットを依頼してきた業者が廃業し、その後の新たなセット工場が見つからないというメーカーも出てきた。

 1985年、奈良産地には140社以上のセット業者があった。海外への生産地移転が本格化した2000年代初めから廃業が増え、現在は30社ほどしかない。セット業者の間では、「高齢の夫妻だけで細々と続けているところも多く、質と量を安定してこなせるのは20社もない」との話もしばしば聞かれる。一方、奈良産地のメーカー数は概算で150社近くあり、このいびつな構図が奈良産地、ひいては国産靴下のサプライチェーンの根幹を脅かす危機を招いている。

 出井靴下仕上工場(奈良県広陵町)が今年3月末で廃業を決めた。従業員14人、セット機4台を持つ。奈良では中規模のセット業者だ。今でも大手の靴下メーカーのセットを手掛けており、廃業後も既存の得意先に対しては3カ月ほどセットを続ける方針だ。

 「後継者がいない」。出井博通社長は廃業の理由をこう語る。「毎年、最低賃金が上昇する中、加工賃は上がらず、募集しても人が集まらない。技術者も60歳でも若手というほど高齢化が進んでいる」と実態を明かす。「5~10年先を考えればとても続けられないと判断した」。

 セット機の老朽化も課題だ。国産の靴下セット機はタカトリと芦田製作所(奈良県生駒市)がかつて製造していたが、今は生産しておらず、故障時の修理やメンテナンス対応も終了している。奈良県靴下仕上加工協同組合(奈良県香芝市)の北浦昭二三理事長は「機械が壊れた時点で、会社をたたむとこも多いだろう」と話す。自身が社長を務めるセット加工場、北浦(同)でも「靴下メーカーからイタリア製の最新セット機の導入を薦められるが、今の経営状態で2~3千万円の投資は難しい」と首を振る。現在の工賃と受注量では投資の回収が見込めないためだ。

 近年、産地メーカーでは、主力のOEMが苦戦する中、国産ならではの高品質や高機能を売りにした独自ブランドを立ち上げる動きが相次ぎ、企業によっては新たな収益の柱になりつつある。だが、こうした前向きな取り組みが進展する一方、製造の重要な一角を占めるセット工程の著しい不足は産地の生産力の低下に直結する差し迫った課題になっている。