2020年新年号(2)/働きやすい職場環境が企業を活性化させる

2020年01月06日 (月曜日)

 働きやすい職場環境を整えようとする動きが加速している。この試みによって働く人それぞれの個性を強みとして発揮できるようになれば、労働生産性も高まる。先進事例を追った。

〈1万時間の創出目指す/帝人フロンティア〉

 帝人フロンティアは業務効率化のため、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入に取り組んでいる。着手したのは2017年6月。それに先立つ3月、社内で業務プロセス改革をスタートさせており、この一環としてRPAを導入することにした。

 社内のRPA分科会に経理、財務のスタッフが集結。コンサルティング会社からロボットの構築や操作、運用管理方法などを教わった後、まず外部からの入金データの突合業務をロボットにやらせてみたところ、問題なく機能したため、18年1月に正式に導入した。現在では、21体のロボットが経理、財務に関する業務を処理しているほか、9体が試運転段階にある。

 導入の効果については、経理・財務における単純定型作業をロボットにやらせた結果、年間で2400~2500時間を創出できたと言う。当面、これを5千時間に拡大することを目標に据えている。

 昨年は10月から専任の組織・RPA推進グループを発足するとともに社内キャラバンに着手。RPAの効能をPRするとともに、各部署からロボットに任せられる単純定型作業を提案してもらい、その中の期待効果の高そうなロボットから構築を進めていく。RPAの適用範囲を人事や総務、営業、開発にも広げ、「近い将来、1万時間の創出につなげたい」との意欲を示す。

〈社員全員で企業理念を更新/一村産業〉

 一村産業は働きやすく、働き甲斐のある会社にするために企業文化を変えていく。藤原篤社長は「働き方改革は企業文化の改革。一歩ずつ取り組みを進めていく」と話す。

 改革を進めていく上で重視するのはコミュニケーションで、目指す方向性を全社員の議論を通じて定め、取り組みの進捗(しんちょく)は毎朝の社内メールや会議用資料で随時伝える。

 企業文化の改革にあたって2019年4月に専任の部署を作り、会社のあるべき理想像を定める議論を重ねてきた。企業文化に直結する評価の在り方についても検討。人によってさまざまな考え方がある中、「どういう仕事をすれば良いと評価されるか」について全社員の声を聞いた。そして研修会などで議論を重ねて一村産業の社員としての行動指針を策定し、19年7月に社内で発表した。

 その次は「社会に何を発信していくかを考える」段階で、通常は経営者が定めることが多い企業理念や経営理念を社員全員で考えて更新する。180人の社員を18チームに分けて議論を重ねている。チームは組織別ではなく、年代ごとに分け、意見を交わしやすい形とした。今期中に各チームで議論した内容を集約し、修正・調整して、4月に新しい企業理念を発表する計画だ。

 同社の業績は16年からステージを上げ、営業利益はそれまでの4倍前後で推移する。事業戦略・事業構造を変えたことが背景だが、企業文化の改革はさらに上の段階に引き上げることにもつながると捉えている。

〈“多様性”“受容”は経営戦略/クラボウ〉

 クラボウは昨年9月、全従業員を対象に「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)推進宣言」を発信した。ダイバーシティー(多様性)とインクルージョン(受容)を経営戦略の一つと位置付ける。

 藤田晴哉社長は「多様な個性を尊重し、認め合うことで共に活躍・成長できる職場環境・風土を築く。個性や強みを発揮してイノベーションと新しい価値を創造し、より良い未来社会作りに貢献する」と狙いを説明する。

 女性、高齢者、障害者、外国人、さらに性的指向・性自認(LGBT)など多様な人材を受け入れ、活躍できる人事制度見直しや働き方改革に取り組む。まずは昨年10月には人事担当者向けにLGBT研修を実施した。

 特に重視するのが“アンコンシャスバイアス(無意識の偏見・根拠のない思い込み)”の解消。啓発冊子を作製したほか、今年2月には役員・管理職向けの研修会も実施する。D&I相談窓口も設置し、社内のイントラネットに意見箱も設置するなど全従業員が参加しやすい環境を整備した。イントラネットにはD&I専用サイトも開設し、情報発信を進めている。

 NPO法人ファザーリング・ジャパンが運営する「イクボス企業同盟」にも加盟し、D&Iを理解する上司の育成を進める。今後はさらに階層別研修なども進め、人事・労務制度の改革にもつなげたいとする。