2020年新年号(3)/日本にはオンリーワン繊維がある

2020年01月06日 (月曜日)

 独自の輝きを放ち続けるオンリーワン素材が日本の繊維業界には幾つか存在する。市場浸透のための苦労を続け、何十年かが経過した後も存在感を発揮し続ける素材がある。衣料素材から旭化成の「ベンベルグ」、三菱ケミカルの「ソアロン」、産業繊維から東洋紡の「ザイロン」を取り上げ、その独自性を探った。

〈“100年超事業”を目指して/旭化成「ベンベルグ」〉

 旭化成が「ベンベルグ」の生産を開始したのが1931年。間もなく創業90周年を迎えるロングセラーである。この間の取り組みを通じ、裏地のトップゾーンで確固たるポジションを確保するとともにインドの民族衣装、インナーや肌着、アウターなどへも用途を広げ、この2年くらいは全ての需要に応えられない状況を続けていた。

 この数年、力を入れてきたのがサステイナブル(持続可能性)な物性のPR。本来ならば廃棄されるコットンリンターが原料であることや、自然に返る生分解性などを「プルミエール・ヴィジョン」などへの出展を通じ打ち出してきた結果、エコへの関心が高い欧米ユーザーからの引き合いが増えている。

 既に、「グローバル・リサイクル・スタンダード」などの認証を取得しており、現在は海洋中でも生分解することの認証取得を急いでいる。

 同社はベンベルグ工場で、老朽化設備への更新投資や前後工程への増産投資を進めている。数年かけた取り組みで生産基盤を強固なものへと再構築し、その後、環境対策の向上、労働環境の改善に着手。その次のステップで次世代型紡糸設備の導入に意欲を示している。

 10年前、同社ベンベルグ事業部はキャッチフレーズに“100年事業”を掲げていた。これを“100年超事業”に変更し、次代にたすきをつなぐための取り組みに力を入れている。

〈ブルーサイン取得に意欲/三菱ケミカル「ソアロン」〉

 トリアセテート「ソアロン」の事業開始は1967年。婦人服地を中心とする販売は今年で52年目を迎えている。1958年事業開始のジアセテート「リンダ」が汎用性故に縮小均衡を辿った一方、ソアロンはその独特の質感、風合いが評価されており、「一度、採用されるとリピートが続き、ロングセラーになる」ケースが多い。

 事業開始当時はポリエステルの全盛時で、ソアロンは取り扱いが難しいことも重なり、「作ってくれるところを探すのに苦労した」。しかし、地道な取り組みで織布工場、染工場を開拓し、今では北陸産地を中心とする強固な生産チームを形成している。

 販売量がピークを迎えたのは91~92年ごろ。対米輸出が好調で、ソアロンの中でも「ミッション」「タスリーヌ」を採用する百貨店高級ブランドが相次いだという。その後のリーマンショックで苦戦に転じたため、デザイナーズブランド攻略、EU市場開拓にかじを切る。この作戦が奏功し、「ピーク時の70~80%の販売量に回復した」。

 現在はエコ素材としての販促、国内外のユニフォーム分野へのヨコ展開に力を入れている。既に生産工場で森林認証を取得しており、ブルーサインの認証取得を急いでいる。

 ユニフォームでは、欧州の高級メゾンや日本のアパレルでの採用がここにきて増えている。来年2月の「プルミエール・ヴィジョン」に出展するため、再生ポリエステルを複合したストレッチ織物の開発を進めている。

〈レース用自転車向けが急増/東洋紡「ザイロン」〉

 東洋紡がPBO(ポリパラフェニレン・ベンゾビス・オキサゾール)繊維「ザイロン」の開発に着手したのが1991年。その後、98年10月に量産をスタートさせた。

 パラ系アラミドの約2倍の強度や弾性率、優れた難燃性と耐熱性、有機繊維では最高水準のLOI値(=限界酸素指数、値が高いほど燃えにくい)68というスーパーな物性を兼ね備えたオンリーワン素材と言える。ただし、価格がアラミドの5倍前後とこちらもスーパーなため、用途が限定されており、ザイロンの生産規模は年産200㌧にとどまっている。

 しかし、ザイロンの物性はさまざまな用途で評価されており、ドライバーの安全を確保するため、全てのF1(レーシングカー)のコックピットにはザイロンと炭素繊維による複合材料が使われている。「世界中の全てのアルミ工場でも使われている」と言い、押し出し工程のローラーコンベアにはザイロンとアラミドによる耐熱フェルトが浸透している。

 最近はパラスポーツ用のくるま椅子(ホイール)や卓球のラケット向けが好調という。ロードレース用自転車のチューブレスタイヤでは欧州著名ブランドでの採用が相次いでおり、今年度の販売は倍増の見込み。さらに新規用途として2アイテムでのスペックインを急いでおり、東洋紡は新規2用途の具体化などで現有設備を「21年度中にフル稼働させたい」と考えている。