繊維ニュース

特集 アジアの繊維産業Ⅱ(3)/ベトナム/「対日以外」が共通テーマ

2019年09月13日 (金曜日)

 ベトナムは地域によって最低賃金に差がある。全国を四つのエリアに分け、それぞれに月額の最低賃金を規定している。上昇幅が鈍化したとはいえ、その額は右肩上がり。対米向けが活況を呈し、国全体で縫製品輸出を後押しする同国だが、コストは上がっている。

 米中貿易摩擦の影響も大きく、中国資本による同国への工場建設、あるいは中国企業によるベトナムを迂回(うかい)した対米輸出が活況を呈す。このあおりを受けるのが対日縫製品。日系商社の最大の課題は対日スペースの確保であり、各社がライン契約の増強など関係強化を図っている。日本市場の将来の先細りを見越して「対日以外」の市場開拓も共通のキーワードになる。

 複数の日系商社によると、協力縫製工場が安い人件費を求めて第2、第3エリアに工場を移したり、一部ラインを移設する動きを強めている。日系商社の協力縫製工場の多くはホーチミン近郊などにある第1エリアに集積している。しかし、毎年引き上げられる最低賃金や他業種との競合によって顕在化する人手不足などを理由に、第2、第3エリアへ工場をシフトする動きが目立ち始めている。

 インフラが弱いため第4エリアへシフトするところはまだ少ないが、今後も第1エリアからの流出は不可避とされる。そうなれば納期管理や工場に派遣する品質管理スタッフの労務管理も変更する必要が出てくる。しばらくはこの対応に各社が追われそうだ。

 対日縫製品のスペース不足も表面化しつつある。背景にあるのは、米中貿易摩擦による対米拡大。この機運の中で、対米や対欧州と比べて「量が少ない」「納期が厳しい」「品質にうるさい」「工賃が安い」と言われる対日が敬遠されつつある。

 この改善に向けて各社が取り組むのが、「ライン契約を増やす」(三井物産アイ・ファッション)、「事業撤退する工場も出てくるので、その事前の見極めに力を入れる」(帝人フロンティア〈ベトナム〉)、「ハノイ周辺など北部を開拓する」(ヤギ・ベトナム)――など。

 ベトナムシフトはさらに進んでおり今後も進むとみられる。一方、日本の衣料品市場の悪さも際立つ。この二つの要素が在ベトナム日系商社を取り巻く事業環境と言える。後者は特に今後も深刻化するとの見方が支配的となっている。「対日以外」と日系商社が口をそろえるのはそのためだ。

 対象は欧米。とりわけ、このほど締結されたEVFTA(EU・ベトナム自由貿易協定)を活用して「欧州市場を狙う」との声が多く、一部では具体化の事例も出てきている。

〈プロミネント〈ベトナム〉/環境配慮商材に本腰〉

 伊藤忠商事のプロミネント〈ベトナム〉は環境配慮型原料を使った縫製品ビジネスの拡大に取り組む。そのため今年4月にはホーチミン事務所内に「ASEAN R&Dセンター」を開設。周辺国などとも連携して最適なサプライチェーンを構築し、全世界に製品を供給していく。

 同社はベトナム国営繊維企業グループのビナテックスと提携し、同国内で縫製機能を磨いてきた。次のステップとして、伊藤忠全体で取り組みを強める環境配慮型原料を使ったオペレーションを加えていく。R&Dセンターを付加価値化拠点に素材開発を進める傍ら、欧米向け開拓にも力を入れる。

〈クラボウ・ベトナム/織物品質向上に全力〉

 2018年12月に設立されたばかりのクラボウの現地法人、クラボウ・ベトナムは、日本の大手SPAへの織物供給を狙う。

 中部、ダナンの織布工場と技術提携を結び、技術スタッフ2人も派遣。品質を「クラボウ品質」にまで高め、同国での生地販売基盤を確立する構えをとる。

 織物の種類は綿100%、綿・ポリエステル混、綿・ポリウレタン混などクラボウグループが得意とするもの。日本の各工場やタイのクラボウグループとも連携して品質の引き上げを早急に進める。

 環境配慮としてはクラボウの循環型システム「ループラス」の、裁断くずを利用した糸生産をベトナムで行う構想がある。

〈トーレ・インターナショナル・ベトナム/短繊維や編み地も拡大へ〉

 トーレ・インターナショナル・ベトナムの2019年4~9月生地販売売上高は前年同期比2倍近くと好調に推移している。今後は生地品種の拡大や縫製品事業との連動を図る。

 生地を現地で調達し、販売するというのが同社の主要事業。これまでは長繊維織物が主体だったが今後は短繊維織物と編み地の調達を拡大し、業績拡大につなげる。

 今年4月からは、東レインターナショナルホーチミン事務所の事業だった縫製品オペレーションも同社に移管されており、今後は生地と縫製品との連動にも力を注ぐ。

 将来の日本市場縮小を見越して欧米販路の開拓も本格化させる。

〈三井物産アイ・ファッション/カジュアル拡大が具体化〉

 三井物産アイ・ファッションは引き続き、ベトナムで行う対日縫製品OEM/ODMでカジュアル用途の拡大を図るほか、スペース確保の観点でライン契約を増やす。

 同社の同国OEM/ODM事業はスポーツとメンズスーツが主力。近年はカジュアル拡大を方針に掲げ、徐々に成果が出ている。引き続きこの方針を具体化するとともに、セーターの増強にも取り組む。

 同国縫製工場の中で対米優先機運が高まっている中でスペース確保も優先課題。「関係強化が奏功」して現時点で問題は発生していないが、今後もライン契約する協力工場を増やすなどの施策で囲い込みを進める。独自生地開発にも力を入れる。

〈島田商事〈ベトナム〉/培ってきたノウハウ発揮〉

 島田商事〈ベトナム〉は副資材商社として同国に先行して進出した経験値やこれまで培ってきた同国での「島田商事基準」の品質力を強みに業容拡大を図る。

 今年度上半期(2019年1~6月)売上高は前年同期比20%増と好調。強まるチャイナ・プラス・ワン機運を捉えた。

 同社は1997年にホーチミンに事務所を開設。06年には法人化を果たし、17年にはハノイ支店も開設した。07年からは工場も保有し、メンズのマーベルトやワッペン加工を行う。こうした同国でのノウハウを生かして今後も対日縫製品向け副資材販売を強化する。

 将来を見越して、欧米市場開拓にも力を入れる。

〈帝人フロンティア〈ベトナム〉/内販の仕組み作りに力〉

 帝人フロンティア〈ベトナム〉の4~7月売上高は、前年同期に比べて5%増だった。「19秋冬は苦戦必至」との読み通り、大きく発注を減らしてきたところがあった一方、Tシャツやポロシャツといったアイテムが新たに増収に貢献した。

 同社は資材系の受注や内販、輸出を拡大するという方針を掲げているが、少しずつ進展している。

 ろ過フィルターなど資材系の案件が入り始め、内販の仕組み作りも整いつつある。内販では輸入したものをベトナム国内向けに販売するものと、現地で生産したものを現地に売るというものの両面で事業拡大を狙う。

 そのために必要なのは「ものを売ることのできる人材」とし、営業スタッフの登用や育成に力を入れる。

〈豊通ファッションエクスプレスベトナム/生地から一貫で欧米開く〉

 自社縫製工場を保有して「モノ作り機能を高める」との方針を掲げる豊通ファッションエクスプレスベトナムは9月から、自社工場のラインを増強した。

 今年1月の工場稼働時は260人、年産40万枚体制だったが、これにより340人、65万体制に生産能力が高まった。来年には400人強への増員を計画する。

 次の課題は自社工場の技術をいかに強力縫製工場にも波及させていくか。この「全体での技術力向上」を将来的に欧米市場開拓につなげる。

 欧米開拓では日本本社との連携が不可欠。自社生地ブランド「ゼラノッツ」を核にした生地から縫製までの一貫供給をアピールしながら新市場を開拓していく。

〈スミテックス・ベトナム/生地からの一貫体制構築〉

 スミテックス・ベトナムは、素材から縫製品までの一貫ビジネスの強化に取り組むとともに、中長期の視点で欧米など対日以外の市場開拓に臨む。

 同社の2019年1~6月期は日本市場の低迷を主な理由に苦戦を強いられた。中国からベトナムへの生産シフトは依然進んでいるものの、それ以上に日本の中高級品ゾーンが勢いを欠いたことが同社の受注苦戦に影響した。自社縫製工場も稼働率が低下していると言う。

 方針に掲げる生地からの一貫ビジネスは進展を見せる。生地の仕入れ先が拡大し、独自生地の開発も進んでいる。今後もこの流れを加速させるほか、将来の事業として欧米市場も有力視する。

〈ヤギ・ベトナム/独自の商い育てる〉

 ヤギ・ベトナムは法人独自のビジネス拡大を狙う。その一環としてこのほど、グループの綿織物製造卸、イチメンとの協業によって同国での生地備蓄販売をスタートした。

 20春夏からの本格販売に向けて体制を整えた。30品番以上の試作を行い、そこから厳選してまずは先染め、無地で4品番の織物を投入する。

 製織、加工仕上げは原則ベトナム国内で行うが、グループの山弥織物(浜松市)の糸加工を施したものもある。「どこにでもある定番品ではなく、展示会での顧客の評価も仰ぎながら」開発し、絞り込んだ。

 その他、ユニフォーム分野の拡大や、同国EC(電子商取引)サイトを通じた製品販売などにトライしている。

〈東亜紡織/「横断プロジェクト」スタート〉

 東亜紡織はベトナム合弁会社のドンナムウーレンテキスタイルの生産基盤を生かし、スーツ地以外の生産にも取り組む「横断プロジェクト」を今期(2019年12月期)スタートさせた。

 現在、ベトナムでの毛織物生産は月産千反のペースで安定的に推移する。ASEAN縫製が拡大していることから引き合いも旺盛に入っている。生産品種の高度化にも取り組んでおり、フォーマル向けの生産も始まった。

 スーツ地だけでなくユニフォーム地や毛糸の生産でもベトナム拠点を活用する「横断プロジェクト」に取り組む。既にニット糸の生産がスタートし、ユニフォーム地も海外の企業ユニフォーム向けで商談が進む。ASEAN域内にはウール高混率品を生産できる工場が少ないことも同社の優位性となる。こうした強みを生かし、商社や現地縫製企業への提案を拡大する。

〈田村駒ベトナム/資材系が緒に就く〉

 田村駒ベトナムは将来の対日苦戦を見越し、欧州市場や内販の開拓、非衣料事業の拡大に取り組む。

 同社の対日縫製品OEM/ODM事業は「2018年後半から失速」傾向。特にジーンズカジュアルが中国回帰もあって苦戦中と言う。ただし、田村駒全体のベトナム事業はユニフォームやスポーツがけん引役となり総量としては伸びている。

 ポリエチレン製のシートなど資材系が拡大してきたことは方針の具体化であり、今後も同分野を伸ばす。欧州向けはこの間少しずつ提案を強めており、日本本社とも連携して将来の対日縮小に備える。

 内販はユニフォームなどで幾つかの実績があるが、今後は雑貨関係に商機があるとみる。

〈清原ベトナム/備蓄機能を強化〉

 清原ベトナムは取り扱い品目の拡充、備蓄機能の強化に取り組む。

 メイン商材である裏地、芯地でバリエーションを拡大する。基本的には全て現地生産品で、そのため現地企業と一層の取り組み深耕を図る。備蓄強化は芯地、裏地、スレーキが対象で、同機能により「リードタイムを短くしたい」という日本の商社やアパレルのニーズをつかむ。

 同社は2015年8月設立。今年1~6月期は売り上げが前年同期比50%増、利益が60%増だった。計画の2倍増には届かなかったものの、順調に現地メーカーとの取り組み深耕による取り扱い品目の拡充が見られ、顧客数も増えていると言う。3月に開設したハノイ支店を活用して北部開拓にも臨む。

〈街角/ホーチミンの屋台にて〉

 東南アジアに行くたびに興味をそそられるのが、バラエティー豊かな屋台。色とりどりの食材、料理が並び、スパイシーな香りが辺りに漂う。前を通れば、視覚と嗅覚を刺激され、空腹感が増す。食事どきになると周辺に並べられた簡易椅子に老若男女が着席し(あるいは地べたに座り)、皆で談笑しながらのお食事タイムが始まる。その光景を見るのが好きだ。しばらく立ち止まって見入ることもある。でも、ホーチミンで屋台食を食べたことはない。食は文化。その国のことを知りたければ、まずは現地の食べ物を食すべきだと思う。若い頃のバンコク出張では何度か食べた。しかし中年に突入して屋台食のハードルは高くなってしまった。人生が「守り」に入ったのだろう。屋台を眺めては退散するたび、加齢を思い知らされる。