20春夏ジーンズ別冊(9)/三備賛歌①/テキスタイル/販路開拓し、活路を見いだす

2020年03月24日 (火曜日)

 アパレル市場の環境悪化に加え、ジーンズが近年トレンドから外れているということも影響し、三備産地のデニム製造企業も難しいかじ取りが迫られる。その中で活路を見いだすために、海外へ販路を開拓する動きが活発になってきたほか、市場にない新たなデニムの開発が進む。

〈メード・イン・ジャパンを海外へ発信〉

 先細りする国内市場を見据え、海外に販路を広げようとする企業が増えつつある。篠原テキスタイル(広島県福山市)は、今年2月にイタリア・ミラノで開かれた国際服地見本市「ミラノ・ウニカ(MU)」に出展。今回が2回目となる。新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、昨年に比べて来場者は減少したが、「生地の説明やPRがじっくりできた」(篠原由起新規事業開発リーダー)ことで、65件ほどのスワッチ依頼があった。

 「テンセル」デニムといった、環境に配慮した生地、経糸が緯糸の上を6本、緯糸の下を1本交差させて織る太あやのデニム、ポリエステル100%使いでデニム調のツイルを表現した生地「ポリオリ」など、同社の独自開発したデニムが好評だった。

 中国紡織(福山市)も、グループ会社の山陽染工(同)がMUに出展した際に、サンプルを展示。アラミド繊維「ケブラー」と綿の混紡糸を経糸に採用し、耐久性を向上させたケブラーデニムなどの機能素材などで反響があった。

 早くから海外へ販路を広げるデニムメーカーも多い。クロキ(岡山県井原市)は、現在の輸出比率が6割で、著名ブランドとの取り組みも広がってきた。毎年、積極的に海外展へ出展し続けており、今年2月にパリで開かれた国際服地見本市「プルミエール・ヴィジョン(PV)・パリ」に出展し、技術力をアピール。4月にはオランダのアムステルダムで開かれるデニムカジュアル展「キングピン」に出展を計画。「今年も来場者の状況を見つつ出展を継続する」(黒木立志社長)方針を示す。

 日本綿布(同)も、海外ブランドから安定した受注を得る。今年2月にはPVに出展。約150のブランドの来場があるなど、「順調に商談ができた」(川井眞治社長)。今年1月には米国を回り、取引先との関係を深耕。川井社長は「ある商品では当社の生地しか発注しないというケースも増えてきた」と話す。

 売上高の約2割を輸出が占めるショーワ(岡山県倉敷市)は、今年1月に米ニューヨークで開かれた展示会「ジャパン・テキスタイル・サロン・イン・NYC」やMUに出展。定番のセルビッヂデニムなどに加えて、サステイナブル(持続可能な)素材を採用したデニムを提案した。併せて、染め、織り、仕上げ加工までを一貫して行うことで合理化を図り、二酸化炭素の発生を抑えたSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みも訴えた。

 カイハラ(福山市)は昨年設立したカイハラインターナショナルを活用し、生地の輸出や製品OEM事業を強化する。生地の輸出に関しては「今後国内だけでは生産規模を維持できない」(貝原淳之専務)として、現在3割ほどの輸出の割合を将来的に5割にまで高める。

〈独創的な素材開発〉

 カジュアル販売不振が続く中、改めて差別化したデニムに対するニーズが強まっている。クロキは、超ヘビーオンスデニムの量産化を進めている。38オンスまでの生産が可能で「注文が入りだしている」(黒木社長)。ただ、「30オンス以上になると製造の難易度が高くなる」として、安定供給できる体制の確立を目指す。

 デニムの生地表面も多彩化する傾向にある。日本綿布は、斬新な柄が特徴のジャカードデニムが海外で好評だ。1反からなど、小ロットへも対応するほか、オリジナル生地の提案も行う。緯糸に合繊やシルク、ヘンプなどを採用するなど、新たなデニムの開発も進める。

 中国紡織は梨地(アムンゼン)風デニムを開発。綿100%でありながら、合繊のような表面感もあるほか、ジーンズ特有の色落ちも楽しめる。経糸に調温素材「アウトラスト」を使ったデニムはカジュアルウエア用途に販売が増えている。

 従来の衣料に限らず、インテリアなどデニムの用途がますます広がる。篠原テキスタイルは昨年、ポリエステル100%使いでデニム調のツイルを表現した生地「ポリオリ」を開発。ハイブランドや資材用途、福山市の不動産会社が手掛けるリフォーム部屋で壁紙として採用が決まるなど、異分野への広がりも出てきた。今後は、繊維関係以外の展示会への出展も視野に入れながら販路開拓を進める。

〈新型コロナの三備産地への影響〉

 三備地区における新型コロナウイルスによる感染の影響は、企業によって波があるが、じわじわと出つつある。カイハラの貝原淳之専務は「日増しに深刻になっており、先が読めなくなってきた」と危機感を募らす。中国での企業活動は2月10日から再開したが、通常の生産状況に戻るまでは時間がかかりそうだ。

 製品OEM事業を行う企業の中には中国の協力工場を活用するところも多いが、「製品やサンプルが上がってこない」など、納期遅れを心配する声も出る。中国紡織は「縫製関係がストップしている影響で、生地発注のキャンセルも出た」(溝口公生デニム事業部次長)と話す。

 菱友商事(福山市)は、上海経由で輸入される糸の一部が計画通り入ってこないなどの影響が出ている。花田充民社長は「明確にいつ入るかが分からず、頭の痛いところ」と話すが、それ以上に悪いムードによって購買意欲が委縮し、店頭でモノが売れなくなることを危惧する。現に、ビッグジョン(倉敷市)では「感染者の出た地域の取引先の店舗で売り上げが落ちている」(清水剛社長)。新型コロナの問題が長期化すれば、今後さらに影響が顕在化しそうだ。