特集 アジアの繊維産業Ⅰ(5)/わが社のアジア戦略/エリアを拡大するカケンテストセンター

2019年09月12日 (木曜日)

〈工場のCSR監査実施〉

 「今のところ、米中貿易摩擦の大きな影響はない」と、カケンテストセンター(カケン)。中国の拠点である上海、南通、無錫などは好調で、ここに来て大連も軽衣料の試験が伸びてきたようだ。全般に機能試験の需要が伸びている。

 上海では中国人スタッフを教育して工場のCSR監査を2年ほど前から行っている。他の拠点でもスタッフを育成して事業を拡大する。

 中国以外でも定評のあるベトナムは日本人を4人に増やし、提携先のビューローベリタスには日本チームのスタッフが2人いる。「カンボジアからの試験依頼もあり、好調」と言う。

 タイも試験量が復調してきた。「日本の生地商が日本向けだけでなく、タイからアジアへの販売を強化している」ことなどが背景にある。

 バングラデシュも駐在員を2人体制にした。「試験依頼が増え、試験室を増床した」。インドのバンガロール事務所には日本人駐在員2人を派遣、試験受付と試験相談、技術アドバイスにも応じる。「試験依頼が増え、香港で試験を行っている」と、動きが良い。

〈機能性試験と製品検品充実/カケンベトナム試験室〉

 カケンベトナム試験室の今年ここまでの試験依頼件数は前年に比べて微増で推移する。「これまでは倍々のように伸びていたが、やや沈静化の様相」(川久保潤一室長)。日本市場の低迷が関係しているとみられる。今後は機能性試験や製品検品の充実を図ることでさらなる依頼増を狙う。

 機能性試験では吸水速乾が稼働間近で、UVカット試験機が来年の導入という。この二つ以外にも「日本品質をベトナムでも」という要望が高まっていることを受け、充実させていく。

 製品検品では、現在も抜き取り検査は行っているが、先上げ検品を提案していく。抜き取り検品は生産が終了してから行うもので、それでは不良が見つかっても改善できない。先上げ検品は生産途中で検品するため、「結果として不良率が下がり、トータルコストを低減できる」ことがメリット。同業務に精通した日本人スタッフが新たに加わったこともあり、同業務の顧客提案を強める。

 同国への進出が著しい中国系工場への対応も強化する。

〈ミャンマーに試験窓口開く/カケンタイランド試験室〉

 カケンテストセンターのタイランド試験室はこのほど、試験の受付窓口をミャンマーに設置した。提携する欧州の大手検査機関ビューローベリタスがヤンゴンのミャンマー事務所にラボを開設するのに合わせて、日本語対応ができるスタッフを配置した。日本向け製品の試験自体はタイで行うが、検体持ち込みなど試験申請を現地でできる態勢を整えた。

 同室は昨年の再開設から2年目に入ったが、今井計貴室長は「日系、現地企業双方で依頼件数は昨年以上に順調に増えている」と現況を話す。「件数増だけでなく、依頼内容の高度化も目立つ」と言う。

 機能性試験以外の依頼件数増も顕著だ。タイ生産品に高付加価値化が求められていることを背景に、ホルマリン試験がベビー以外全分野に広がっているほか、昨年開始した特定芳香族アミン(アゾ染料)分析試験など化学分析が相談・依頼ともに増えている。

 こうした傾向に対応して、今後も分析機器を充実させる。直近では8月末に重金属などを検知する蛍光X線分析装置を導入。繊維向けでは、ケミカルフリーなど厳格な基準を求める欧州向けで増えている要望に対応する。

〈設備増設で需要増に備える/カケンインドネシア〉

 カケンインドネシア(ジャカルタ)は試験設備の増強を進める。7月に生地表面のコーティングなどの劣化を試験する設備を、今月には吸水速乾機能のテスト設備をそれぞれ1台増やした。

 アパレルが生地試験に対する短納期対応を求めているため、処理能力を高めることで試験のスピードアップを狙う。大口取引先である日系SPAが現地での店舗展開を加速していることも念頭に、将来の試験需要増に備える狙いもある。

 短納期対応を充実させるために、日本のカケンテストセンターとの連携も強める。抗菌、制電、抗ウイルスなど特殊な試験は現地では難しいため、日本で試験を行うが、物流企業と組むことで、受け取りから最短1日で試験反を東京の試験場にまで届ける仕組みを作る。

 カケンインドネシアの試験受注件数のほぼ9割が繊維で、そのほとんどが生地の物性や性能試験。本年度上半期(2019年4~9月)の受注量はほぼ前年度並みで、通期でも横ばいの見通し。日本向けスポーツ衣料用生地試験は受注が減少傾向にあるが、内販のカジュアル衣料用の試験が堅調で不振分野を補う。

〈接触冷感など試験項目拡充/カケン無錫試験室〉

 カケンの無錫試験室は中国拠点の中で、上海、青島に次ぐ第3位の受託試験数を持つ。機能性試験などの試験項目の充実や、日本企業ならではのきめ細かいサービスを強みに、受託数を毎年伸ばしている。

 従業員は現在80人。受託数の増加に対応するため、この2年で約20人増やした。背景には、沿海部から無錫市(江蘇省)周辺の“プチディープチャイナ”への生産地シフトがある。また「ASEAN地域に一度移管したがうまく行かず、無錫周辺に戻ってくる工場もある」と杉田了一室長代理は話す。

 日本市場で機能性素材へのニーズが高まる中、2012年から機能性試験の対応項目の拡充を始めた。15年に耐水度試験、17年は吸水速乾、18年には接触冷感と、毎年対応項目を増やしている。これにより、「日本で試験するより納期短縮が可能となるので、顧客から喜ばれている」(杉田室長代理)と言う。

 今後も機能性試験の対応項目を充実させていく。防汚性や帯電防止性試験が有力候補だ。