特集 アジアの繊維産業Ⅰ(6)/アジア展開する3検査機関
2019年09月12日 (木曜日)
〈QTEC/無錫、ベトナムの需要拡大〉
日本繊維製品品質技術センター(QTEC)は、中国・華東地区でトライアングル体制を築く。その無錫とベトナムを探る。
《雑貨や産資の依頼が増加/QTECベトナム試験センター》
日本繊維製品品質技術センター(QTEC)のベトナム試験センターは英国の検査機関であるインターテックとの協業で各種事業を行っている。試験は全てインターテックが行い、同センターは対日の窓口を担当。2015年の開所以来、順調に試験依頼を増やしている。
茂上和之所長によると、設立以来4年間、試験依頼件数が下がった年はない。チャイナ・プラス・ワンの中で縫製地として脚光が当たり、同国内での生地生産も拡大していることがその背景にある。ただ、対米志向の工場が増えるにつれ、対日スペース確保の難度が増していることから、伸び率は鈍化気味という。
その中でカジュアル、スポーツ、タオルなどは依然として好調で、雑貨や産業資材の依頼もここにきて増えている。今後はニーズが高まる通気性や吸水速乾といった機能性試験の充実を図るほか、欧米など対日以外の受注も強化していく方針。
茂上所長は「アドバイスに力を入れている」と話す。試験依頼を出す商社らにとっても、「不合格」になればロスが生じる。この改善のために、日本や中国、他のASEAN地域の試験室と連携して、品質向上のアドバイスを行うというサービスで、好評という。
《品質改善サービスを強みに/QTEC無錫試験センター》
日本繊維製品品質技術センター(QTEC)の無錫試験センターは、無錫エリアで最も早くから展開する日系試験機関だ。羽毛試験などの強みを生かし、地域の顧客を囲い込んでいる。近年は工場の品質改善サービスの提供に力を入れている。
日本のアパレル市況の低迷を反映し、工場への価格要求が高まる中、工場が安価な生地の採用を増やしたり、生産工程で妥協したりする動きがあり、中国生産の一部の品質が悪化している。こうした中、「品質向上を手伝ってほしいとご相談を受けるケースが増えており、改善案を提案している」と糸井正俊所長は話す。
簡易な試験機を使った改善案を提案するほか、QTECが展開する認証工場制度を活用し、専門家が工場を指導するケースもある。
中国では、人手不足や人件費の高騰が続く沿海部からASEAN地域や中国の内陸部へ工場を移転する動きが加速している。そのため、「品質改善サービスを生かし、ナショナルスタッフの育成にも注力することで受託件数を維持していきたい」と言う。
〈ボーケン/ASEANでの展開強化〉
ボーケン品質評価機構(ボーケン)は中国で内販向け試験の体制を整える。インドネシア、タイ、ベトナムでの展開は。
《化学分野でも受注拡大へ/ボーケン・ジャカルタ》
ボーケン品質評価機構のジャカルタ試験センター(ボーケンジャカルタ)は、食品や樹脂製品など総合的に試験業務を世界展開するSGS(スイス・ジュネーブ)との連携を強める。
繊維に限らず化学分野の試験需要獲得にも力を入れる。ボーケンジャカルタが事務所を置く、SGSの試験センターでは日本のJISに加え国際規格のISO、インドネシア、中国、米国、さらに欧州など世界各国・地域の規格が定める試験が実施可能。
こうしたSGSの試験設備やノウハウを活用しながらボーケンとして繊維、化学品でも受注件数を増やす。
桑久保正通所長は「現地の繊維企業からは機能試験への質問がより具体的になっており、生産の高度化がうかがえる」とし、「日本の本部やアジア各地の拠点、そしてSGSとの連携を密にして現地での業容拡大を目指したい」と話す。
《SEK認定の抗菌試験訴求/ボーケン・バンコク試験センター》
ボーケン品質評価機構のバンコク試験センターは2014年の開設以来、世界的な試験機関SGSと業務提携し、日英タイ3カ国語で対応可能なスタッフをそろえ、ASEAN地域で唯一のSEKマーク用抗菌試験の認定試験施設として業務を行っている。
現在、日本向けを中心にASEAN地域で需要が増えている抗菌性試験では、タイ国内でSEKマーク水準の高精度な試験設備を整えている利便性をアピールしている。
現地機業・ニッターの要望が多いことから、工場内ラボの精度確認や工場監査などの品質管理サポート業務も開始した。
タイ周辺国からの依頼対応も強化している。カンボジアのプノンペン事務所に受付窓口を置き、現地からタイでの試験申請が可能になったことでカンボジアからの依頼が目立って増えた。このほか、ミャンマー生産品の依頼も増加している。
《試験だけでなく全体フォロー/ボーケン・ホーチミン試験センター》
ボーケン品質評価機構のホーチミン試験センターは2014年の設立以来、スイスの検査機関であるSGSとの協業体制を敷いている。「日本(のボーケン)でできていることをどれだけこちらでもできるか」(久保良太所長)をテーマに今後もSGSや日本のボーケンと連携を取りながら検査・試験体制の充実を図る。
ボーケンとSGSの関係性は深く、ホーチミンのほか、ジャカルタ、バンコク、杭州、広州、台湾、香港などで連携体制を取る。国際的な検査機関であることから顧客からの信頼が高く、SGSにとっても日本の顧客開拓にボーケンとの連携が効果を発揮するため共同歩調の意義は深い。
ホーチミン試験センターの試験依頼件数は順調に拡大している。14年当初は製品検査が多かったが、同国に生地生産拠点が増えるのに従って日系商社もこれら生地を手配するようになり、生地検査依頼も拡大した。
今後はUVカットや吸水速乾、抗菌などの依頼獲得に力を入れる。
単に試験依頼を受けるだけでなく、「生産側に立つ」をテーマに据える。試験という一つの工程だけを見るのではなく、顧客の生産全体をサポートする趣旨と言う。全体工程をチェックし、例えば遅れがあった際にその報告を迅速に行う。これにより不良やトラブルを未然に防ぎ、顧客満足に資する。
〈ニッセンケン/日印貿易拡大を支援〉
ニッセンケン品質評価センター(ニッセンケン)の駒田展大理事長は、米中貿易摩擦の影響について「ベトナムへの中国企業進出が増えている」と語る。「ベトナムの生地展示会でも中国企業の出展が増えてきた。米国対策だけでなく、欧州向けにも意欲的」と見る。ニッセンケンもベトナムにホーチミン試験センターを設ける。
海外事業の中心は中国にある。南通には3事業所(南通、崇川、南通人民路)を設け、試験だけでなく検品も行う。「上海、煙台の事業所も伸びる余地はある」と話す。
6月には無錫事業所試験センターの開業式を開いた。無錫は中国江蘇省の内陸に位置する。ニッセンケンは従来、中国沿岸地域に試験拠点を構えてきたが、内陸部での生産への試験サービスの強化を図る。施設面積は2200平方㍍。日本向け製品(JIS規格)の一般試験、機能性試験、化学分析試験などに加え、中国内販製品(GB規格)や雑貨などの試験対応も予定する。
「中国企業は改めて品質管理の強化を進めるとともに、安心安全の証明としてエコテックススタンダード100、さらに持続可能な繊維生産の認証システム“ステップ”への関心を高めている」。輸出を重視する企業にとって、国際標準、エコテックスのような認証の取得は不可欠になっている。
カンボジアとミャンマーには検品センターを設け、カンボジアの試験はホーチミン試験センターで対応する。バングラデシュではダッカ事業所を設け、試験対応する。
さらにインドに拠点を設けているのもニッセンケンの大きな特徴といえる。ジャイプル事業所のほか、デリーとパニーパットに支所がある。試験業務だけでなく、品質コンサルティングチーム(QCS)、生産コンサルティングチーム(PCS)が進出を検討する企業をサポートする。
ニッセンケンはこのほど、インドテクニカルテキスタイル連盟(ITTA)と覚書を交わした。日印両国のテクニカルテキスタイル製品の開発促進、市場拡大を目的にしたもの。7月下旬に都内で開かれた「第5回インドトレンドフェア東京2019」に出展し、インドのモディ首相が推進する「メーク・イン・インド」運動にも貢献するニッセンケンの「テスト・イン・インド」のアプローチを紹介。セミナーにも協力した。
「インド側に日本のニーズを伝え、今後も日印貿易の拡大に協力していく」