特集 全国テキスタイル産地Ⅰ(1)/活路は「連携」と「海外」

2019年07月30日 (火曜日)

 「いよいよ本当に危なくなってきた」――。ある日本の中堅生地商社トップがこう漏らす。何が危ないのか。日本で生地を作って売るというテキスタイルビジネスに暗雲が立ち込め、業績の維持拡大はもちろん、会社存続にさえ危機感が漂ってきた。背景にあるのは少子化と売り場の減少。以前からこの現象の到来は指摘されていたものだが、全国にショッピングモールが建設され、ここに向けた“仮需”でこの数年間はしのいでこられた。しかしその建設ラッシュも終わり、“仮需”も消滅。繊維製品が売れないという現象が表面化した。アパレルやSPAは発注控え傾向を強め、それが生地商社の生地販売にも影響し始めた。自ずと、生地商社から産地や染工場への発注も減る。各産地が総じて生産数量を減少させている主要因はここにある。全国に散らばる産地企業の取り組みから活路を探る。

〈生産数量はもはや増えない/連携でボトルネック解消〉

 日本綿スフ機業同交会がまとめた「綿スフ織物統計年表」によると、1985年に9869軒あった事業所数は、16年には1159軒となり、85年に39億2894万平方メートルあった織物生産数量は、17年には4億607万平方メートルにまで落ち込んだ。従業員数や織機台数ももちろん大きく減った。日本で織られる綿スフ織物はピーク時のおよそ10分の1の規模になった。

 日本絹人繊織物工業会がまとめた統計でも、合繊長繊維織物や絹織物、人絹織物がそれぞれ大きく減っていることが確認できるが、それぞれピーク時と比べると4分の1から3分の1と、減り幅は綿スフ織物と比べて緩やかになった。特に合繊長繊維織物の生産数量はこの10年の間に増加に転じた年が何度かあり、綿スフ織物など他産地と比べた際の堅調さが際立つ。

 しかし、産地の生産数量が今後「減ることはあっても大きく増えることはない」というのは各産地やその関係者の共通認識。新しい織布企業が誕生する可能性が限りなくゼロに近く、既存工場の大幅増設も考えにくく、何よりも設備を動かす「人」が増えないことがその理由とされる。何かしらの理由で既存の織布スペース、染色スペース、加工スペースが筒いっぱいになることはあったとしても、それは微増の範囲を出ない。

 逆に、急減の可能性は今後もあり得る。例えば、大手SPAからの仕事に依拠している産地企業はまだ少なからずあるが、歴史が証明しているように、大手SPAが急にそのアイテムを海外生産に切り替える可能性も大いにある。発注規模が大きいだけにそうなれば産地生産数量にも大きな影響を与える。実際に昨年、一昨年にも大手SPAの仕事が海外生産に切り替わったことによって、受注数量の急減を余儀なくされた北陸や大阪南部、播州などの産地企業が幾つかある。

 産地全体の生産数量は大きくは増えない。伴って産地を形成する個々の企業も全て消滅するのかと言えば、そうではない。個々の企業に目を移せば奮闘しているところも少なくない。各所でボトルネックが発生しており今後もその懸念は強いが、他産地との連携によってネックを解消しようとする試みも目立ち始めた。

 高島産地ではサイジング工程が2から1に減った。1軒に集中するため納期遅れが頻発中だが、その改善のために複数の織布企業が大阪など他産地のサイジング業に頼ったところ、すんなり商談がまとまった。糸商社から直接当該サイジング業に糸を送り、のり付けした後で、高島まで運送するというコスト削減のアイデアも生まれた。

 今では都道府県をまたいだ産地間連携は珍しいものではなくなった。ボトルネックによって産地内で工程を完結できなくなったからという後ろ向きの要素は多分にあるものの、取引先とのチーム化や水平連携によるシェア、共同開発など前向きな事例も多い。そこから新たな商材や取り組みが生まれ、全体の活性化につながる可能性は高い。「連携」が産地や産地企業が生き残るための良質な策であることは間違いない。

〈輸出拡大に本腰入れる/日本の備蓄機能は強み〉

 少子化によって国内市場の縮小が不可避である以上、海外市場に目を向ける必要がある。産地企業が「プルミエール・ヴィジョン」(PV)や「ミラノ・ウニカ」(MU)といった海外展にこぞって出展するのはこの危機意識の表れだ。

 幸いにして日本製生地の評価は高い。PVアワードでグランプリ2回を含む各賞を日本企業が幾度も受賞していることや、「トップメゾンのコレクションの生地の7割は日本製」とされることからもそれは間違いなさそう。

 先頃行われた日本貿易振興機構(ジェトロ)の「テキスタイル輸出展示商談会」でも海外バイヤーからは「価格は高くても伝統的で職人らしい味は欧州にはない」「日本の生地の品質は高く、備蓄販売も使いやすい」といった高評価が相次いだ。今年2月に日本・欧州間で発効なった経済連携協定も追い風になる。

 今月開かれたMUでは、欧州のファッション市況の悪さを反映してか、日本の備蓄機能に脚光が当たった。基本的に欧州の生地メーカーは生地を備蓄しておらず、受注生産が大半。商社という業態も根付いていないため、日本の生地商社などによる備蓄機能が重宝がられる傾向が以前からある。背景には、日本の生地はキャパシティー不足もあってリードタイムの面で欧州や中国に大きな後れを取っていることもある。「日本製生地は欲しいが、納期が……」という海外ブランドにとっては日本の生地商社の備蓄機能はその解決策になる。

 問題は、産地企業のほとんどに備蓄機能がないこと。糸や生機の一部を備蓄する産地企業はあるが、色付け、柄付けした生地を備蓄するところはほぼ皆無。備蓄機能は生地商社の独壇場と言える。

 「商社に頼っていては売れるものも売れない」とは産地企業からたまに聞く言葉だが、逆に、「販売は商社を介したほうがうまくいく」という声もある。産地企業の「工」と生地商社の「商」がさらに深く融合していけば、備蓄機能を求める海外需要はもっと取り込める。輸出でも「連携」の重要性は不変と言える。